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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第三章
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閉ざされた帰り道(5)

 その後、霊奈れいなと俺は他愛のない話をしていたが、「ふぁ~」と霊奈が可愛く欠伸あくびをしたので、既に午前二時になっていることに気がついた。

「霊奈、もう眠いんだろ? 寝るか?」

「良いよ。もうちょっと、つき合うよ」

 いや、もう目が潰れかけているじゃねえかよ。

「そうだ! 真生まお、アニメが好きって言ってたでしょ? 録画しているアニメがあるから見る?」

「えっ? 霊奈って、アニメを見てたっけ?」

「最近、ちょっとね。真生が好きって言ってたし」

「うん?」

「あっ、えっと、……妖奈あやながね、今度、アニメ声優のオーデションを受けるんですって」

「妖奈ちゃんが?」

「うん。既に放映されているアニメの続編が製作されるらしいんだけど、新キャラ担当の声優をオーデションで決めるんですって」

「へえ~、そうなんだ」

「だから、私も、そのアニメを見ておこうと思って」

 妖奈ちゃんが声優にチェレンジするのに、なんで霊奈がアニメを見る必要があるんだ?

 そんな俺の疑問に答えることもなく、霊奈が部屋の小さなテレビを操作して録画していたアニメを再生しだした。

 実は、もう見ているアニメだったが、せっかく霊奈が言ってくれたし、けっこう面白いアニメだったので、俺も文句も言わずに画面に集中した。

 いわゆる妹ものの萌えアニメで、血が繋がっていない兄と妹の恋愛を軸に物語が展開していくラブコメだ。何といっても視聴者サービスシーンがてんこ盛りで、この回は、確か、お風呂回だったはずだ!

 画面に見入っていると、小さな寝息が聞こえてきた、

 見ると、霊奈が、ローテーブルの上に組んだ腕に頭を乗せて眠っていた。

「れ、霊奈」

 小さな声で呼んでみたが反応がなかった。

 ちゃんとベッドで寝ろよと言ってやりたかったが、声だけだと起きそうにない。

 かと言って体に触ることもできないのだから、体を揺らして起こすこともできない。

 仕方がない。起きるまで、ここにいてやろう。

 しかし、……最近、眠っている霊奈をよく見る。

 俺は、自分の顔を霊奈の顔に近づけた。

 やべえ! 本当に可愛い!

 霊奈のちょっとだけ開いて白い歯が見えている唇が俺を呼んでいた。

 そうだ! 健全な男子高校生に、こんな無防備な姿を見せる霊奈が悪いのだ!

 俺は目を閉じて、顔を前に突き出していった。

 眠っている女の子の唇を奪うなんて、この卑怯者め! な~んて、今は全然思ってないけど。

 しかし、何も感じなかった俺が目を開けると、霊奈の後頭部から俺の顔が出ていた。

 ――ですよねえ!

 今の俺は肉体に触れることができない霊魂だということを、また忘れていた。



「真生! 真生!」

 聞き慣れている声が俺を呼んでいた。その声が聞こえただけで、何となく安心してしまって、そのまま眠り続けた俺の耳に衝撃が走った。

「真生!」

 耳元で大音量で叫ばれると、霊魂だから無いはずの鼓膜が破れたかと思ったぜ。

 目を開けると、床に横になっていた俺を、既に学校の制服姿の霊奈がのぞき込んでいた。

「もう! いつまで寝てるのよ! いつもみたいに叩き起こせないから、どうしてやろうかと思ったわよ」

 見渡すと霊奈の部屋。

 アニメを見ながら、結局、俺も寝落ちしてしまったようだ。

 部屋の時計を見ると午前六時。

 いつも、まだ夢の中にいて、たぶん、幽奈さんが起きて朝食の準備をし始めている頃だ。

「まだ、朝飯だってできてないじゃないか」

「あんた、御飯を食べられないでしょ!」

 ――自分が霊魂だと言うことを、また忘れていた。

筑木つづきさんからメールが入ってて、ヒントが見つかったらしいの」

「本当か?」

 さすがの俺も飛び起きた。

「早く行きましょう!」



 霊奈は、俺に制服と鞄を届けるからと幽奈さんに言い残して、朝飯も食わずに外に出た。

 そして、霊奈のエア・スクーターの後部座席に俺が座ると、すごい速度で飛び立った。

 あっという間に薫風ビル前に到着した俺と霊奈は、龍岳りゅうがくさんに教えられていたとおりにセキュリティを解除しながら、「獄門の番人」の本部に入った。

 小さな会議室で待っていてくれた筑木さんに霊奈が俺の分も含めてお礼を述べると、早速、筑木さんが話を始めた。

「第三百三十三支部の結界バリア装置を詳しく分析したところ、何者かのデータアクセス痕が残っていました。」

 よく分からないけど、すごそうだということは分かった。

「支部の結界バリアは、霊魂管理庁のホストコンピュータと専用回線で繋がっており、いざという時には、ホストコンピュータから結界バリアの遠隔操作もできる仕組みになっています。おそらく、その専用回線のどこかに接続をして、データを遠隔操作してプログラムを一部改ざんしロックを解除したものと思われます。そして、真生さんの体を持ち出した後、改ざん部分を削除して、元に戻していました。データアクセス履歴も削除されていましたが、こちらで復元をしました」

 エロゲプレイでいつもパソコンを使用していたが、コンピュータ関連の知識はたいしたことのない俺は、筑木さんの話はちんぷんかんぷんだ。

「その復元された手順を過去十年間の犯罪履歴と対照しました」

 警察でもないのに、どうしてそんな履歴を持っているんだ?

「近接する手口の事案が三件見つかりました。そのうち、二件は犯人が逮捕されていますが、残る一件は犯人が逮捕されていません。そいつの手順にうり二つですな」

「逮捕されていないと言うことは、どこの誰ということも分かっていないのですか?」

「我々はほぼ見当を付けています。警察や検察は刑事裁判を維持できるだけの証拠がないと動けませんが、我々は違いますからね」

「じゃあ、誰なんですか?」

「我々のコードネームで『自宅警備員』と呼んでいるプログラマー崩れですよ」

 なにげに嫌なコードネームだな。

「所在は?」

「つかんでいます。もう既に、うちの騎士達が向かってます」

 本当に仕事が早い。龍岳さんも信頼しているからこそ、筑木さんの態度も問題にしていないんだろう。

 俺達がいた会議室に職員らしき人が一人入って来て、筑木さんに耳打ちした。

「自宅警備員が見つかりました。現在、身柄を勾留して、こちらに向かっています」

 筑木さんが表情を変えずに、さも当然のことのように言った。



 コードネーム「自宅警備員」は、すぐに口を割った。

 いったい、どんな事情聴取をしたのか訊きたいところだが、訊かない方が良いのかもしれない。

 自宅警備員に結界バリアの解除を依頼したのは、正体は明かさなかったが、男二人だったとのこと。直ちにモンタージュ写真が作られ、闇の騎士達が聞き込みに回ったようだ。

 闇の組織だから、警察だとできない乱暴な取り調べもできる。って言うか、しているらしい。

 と言うことで、午後二時までには、二人の男性の身元が割れた。

「どうやら『紅雲べにぐもいかづち』所属の闇の騎士の可能性があるようです」

「紅雲の雷! まさか!」

 霊奈が驚いていたのも無理はない。「紅雲の雷」は、輝星会のプライベートアーミーだからだ。

 魅羅みらのお爺さんである東堂とうどう了堅りょうけん先生は、政治家は引退したが、この「紅雲の雷」の指揮官は続けているはずだ。つまり、もしかしたら、俺の肉体を持ち去ったのは、了堅先生の指図だったかもしれないのだ。

 だとしたら、いったい何のために?



 五時間後。

 霊魂の俺は、霊奈が「獄門の番人」の闇の騎士数人と一緒に乗っているマイクロバスを上空から追い掛けていた。

 マイクロバスは、三十三区のはずれ、地界で言うところの房総半島の太平洋側の田舎町に入り、海岸の近くにある倉庫から少し離れた場所に停まった。

 辺りに人家はなく、国道から入り込んだ場所にある倉庫の周りには人の気配はなかった。

 素早くマイクロバスを降りた霊奈と闇の騎士八人は、周囲を警戒しながら、その倉庫に近づいて行った。

 闇の騎士は、どこのプライベートアーミーに所属していようと、白のワイシャツ、黒の背広とネクタイ、黒のサングラスという共通した格好をしている。これは、各派閥が水面下で暴力的な抗争をしているが、その抗争を激化させないために、意図的に、あえて、どこに所属する闇の騎士に殺されたかどうかを詮索できないように共通の格好をしているとされている。

 自分がその行動に参加できないのが、何となく悔しい。

 これから戦闘が始まる可能性が高い。争い事が嫌いな俺は、できれば、そんなことには巻き込まれたくなかった。しかし、今回は、俺の肉体を取り戻すための戦いだ。言うなれば、俺のための戦いだ。それに俺自身が参加できないのがもどかしい。

 俺は倉庫の上空に浮かんで、その様子を指をくわえて見ていることしかできなかった。

 闇の騎士は、二人ずつ倉庫の四方に散った。

 霊奈は、闇の騎士二人とともに正面の出入り口に着いた。その闇の騎士は「牙」さんと「爪」さんと言った。もちろん、コードネームだ。

 機械の搬出入をするためか、大きな出入り口の全面にはシャッターが閉まっていた。

 一歩前に進み出た霊奈は、右手を勢いよく振り下ろして、携帯武器の剣を出した。牙さんは霊奈の剣よりも刀身が太くて長い剣を、爪さんは長い槍を取り出して構えた。

 既に包囲されていることが敵に知られている可能性がある。と言うか、もう分かっているだろう。しかし、闇の騎士達に包囲された倉庫からは、誰も出て来なかった。

 しばらくして、霊奈がシャッターに近づくと剣を振り下ろした。

 大きな切れ目が入ったシャッターを、牙さんと爪さんが蹴飛ばすと、切り取られたシャッターが内部に飛んで行った。

 俺も霊奈の側まで降りて、倉庫の中をのぞいたが、誰もいるように見えなかった。

 霊奈はゆっくりと倉庫の中に入って行った。

 

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