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Powergame in The Hell Ⅱ  作者: 粟吹一夢
第三章
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閉ざされた帰り道(4)

 霊奈れいなと俺は、筑木つづきさんとそのスタッフと一緒に第三百三十三支部に行った。

 もっとも、筑木さんやスタッフには霊魂の俺の存在は認識できないから、彼らにとっては、霊奈とだけ一緒に行っているということになる。

 霊奈が支部のロックを解くと、スタッフは、結界バリア装置を機械的、データ的に分析を行い、すべての調査が終わったのは午後十一時すぎだった。

「霊奈さん、これから、これらのデータを本部に持ち帰って解析します。明日の朝までには調査結果をお知らせします」

「よろしくお願いします!」

 霊奈は筑木さんのみならず、スタッフにも頭を下げた。

 俺が、みんなにお礼の態度も言葉も示すことができないのがもどかしかった。



 俺達も「獄門の番人」の本部に泊まろうかと霊奈と相談をしたが、霊魂の俺はともかく、司令官の娘の霊奈がいると、いろいろと迷惑を掛けるだろうし、いたところで何の役にも立ちそうになかったことから、今夜は家に帰ることにした。

 霊奈のエア・スクーターの後部座席に跨がり、家に帰ったが、ソウルハンターではなく、俺の存在が認識できない幽奈ゆうなさんや妖奈あやなちゃんには心配を掛けたくなかったから、俺の肉体が行方不明だということは内緒にすることにした。

 家に着くと、霊奈がゆっくりと玄関の扉を開けた。

 もう午前零時を回っていて、みんな、寝ていると思っていたが、廊下の電灯が点いて驚いた。

「おかえりなさい、霊奈」

 風呂上がりの幽奈さんが自分の部屋から出て来た! 濡れた髪をアップにして涼しげな浴衣姿! た、たまらん!

「た、ただいま」

真生まおさんは一緒じゃなかったの?」

「真生は、もたもたと仕事が遅くて残業してる。今日は霊魂管理庁に泊まるんですって」

「そうなの。でも、明日は学校じゃあ?」

「えっと、わ、私が真生の制服と鞄を霊魂管理庁に届けるから大丈夫!」

「真生さんにも、あまり無理をしないように言ってあげなさい、霊奈」

「う、うん、分かった」

 幽奈さん、優しい! 本当に癒やされる。

「じゃあ、私もお風呂に入ってから寝るね」

「はい。おやすみなさい」

 俺は、幽奈さんの癒やしをもっと感じたくて、部屋に戻る幽奈さんを追い掛けようとした。

「真生!」

「えっ?」

 俺の名前を呼んだ霊奈を、ぽかんとした顔で幽奈さんが見つめた。

「真生さんがどうしたの?」

「え、えっと、霊魂管理庁で悪戯とかしていないかなって、ちょっと心配になっちゃって」

「真生さんは、悪戯なんてする人じゃないでしょ?」

「そ、それはそうだけど」

 と言いつつ、霊奈は吊り上がった目で俺を睨みながら、顎をしゃくり上げ、二階について来いと無言の圧力を俺に掛けてきた。

 怖いぞ! これは大人しく霊奈に従っていないと、俺の余命が確実に短くなる。

「じゃあ、幽奈。おやすみ」

「おやすみなさい」

 再度、おやすみの挨拶を交わすと、霊奈は二階への階段を昇り、俺もその跡に続いた。

 霊奈は、自分の部屋の前まで行くと、怖い顔のまま、俺に「おいでおいで」をした。

 俺も仕方無く、霊奈に続いて、霊奈の部屋に入った。

 そう言えば、俺がこの家に来てから、霊奈の部屋に入ったのは初めてだ。入ったことがあるのは妖奈ちゃんの部屋だけで、龍岳りゅうがくさんの部屋にも幽奈さんの部屋にも入ったことがなかった。

 部屋の大きさや間取りは、隣にある俺の部屋と同じようだ。

 俺の部屋は、もともとは龍真りゅうしんさんの部屋で、俺がこの家に来た時には空き部屋だったが、俺が住みだして四か月の間にどんどんと家具や荷物が増えて、霊奈に言わせると、足の踏み場がないそうだ。

 足の踏み場がなければ、部屋に入って来られる訳がねえだろと意味のない反論を心の中でしていたが、今、霊奈の部屋を見れば、俺の部屋がどれだけ散らかっているのかが分かった。そして、ぬいぐるみや可愛いインテリアを見ると、霊奈も女の子なんだなと再確認できた。

 ドアを閉めた霊奈は、俺の真正面に立って、俺を睨んだ。

「真生! 霊魂でどこへでも行けるからって、幽奈の部屋に忍び込んだら許さないからね! それと妖奈の部屋も!」

 龍岳さんの部屋なら良いのか? べ、別に入りたい訳じゃねえぞ!

「そ、そんな汚いことはしねえよ! 入るんなら正々堂々と入るから!」

「どうだろ?」

「信用しろよ!」

「信用できない。真生!」

「な、何だよ?」

「今日は朝までこの部屋にいなさい!」

「……へっ? ど、どうして?」

「私があんたを見張ってるってこと!」

「それって、朝までずっと一緒にいるってことか?」

「ええ、そうよ!」

 と答えた霊奈の顔がすぐに真っ赤になった。

「あ、あのね! あんたは今、霊魂なんだから何もできないでしょ! 誤解しないでよね!」

 そうだった。霊魂の俺は、ソウルハンターの霊奈と話すことはできるが、触れることはできない。眠っている霊奈に悪戯をしようにも何もできないのだ。

「とりあえず、私、お風呂に入って来るから、ここにいなさいよ!」

「分かったよ」

「私も急いで入ってくるから」

 そう言うと、霊奈は、俺に一旦後ろを向かせている間に用意をした、バスタオルにくるんだ替えの下着とパジャマと思われる布の塊を持って、部屋を出て行った。

 霊魂の俺は、霊奈の部屋にある物にも触れることができない。霊奈の下着を探し出して、くんかくんかすることもできないのだ。いや、例え、できたとしても、俺はまた死にたくないからしないけどな。

 とりあえず、観察だけでもしようと、霊奈の部屋を見渡した。

 俺の部屋に面している壁にベッドがあり、反対側に勉強机、クローゼットなどがあった。俺の部屋のベッドもこの壁を挟んで同じ位置にある。これって、壁がなければ、俺と隣り合って寝ている位置じゃね?

 霊奈のやつぅ~、そうならそうと言ってくれれば良いのに!

 って、待てよ。俺の部屋は、もともとは龍真さんの部屋だ。

 このレイアウトは龍真さんが生きていた時から変わっていない可能性が高いんじゃねえか?

 霊奈は、実の兄ではあるが龍真さんが大好きだったから、ベッドをこういう位置に置いたのかもしれない。いや、きっと、そうだ。

 ベッドの位置には触れないようにしよう。自分が傷付くだけのような気がする。

 俺は、ふらふらと部屋を漂いながら、霊奈の部屋の観察を続けた。

 俺をこの部屋に残したということは、部屋の中を見られても良いと霊奈が承諾しているということだが、それでも女の子の部屋をじっくりと見ているのは、若干の罪悪感がつきまとう。

 キャビネットの上にフォトスタンドがあった。そこには少し若い龍岳さん、幽奈さん、霊奈、妖奈ちゃん、そして龍真さんが写った家族写真が入れられていた。

 柳が下学園の制服を着ている幽奈さんに萌えた! くそ可愛い!

 霊奈は龍真さんの隣に立ち、カメラの方ではなく、嬉しそうに龍真さんの顔を見ていた。

 こんな顔を俺にも見せてくれても良いのに……。ちょっと龍真さんが羨ましいな。

 ――えっ?

 これって、嫉妬?

 どうして? 俺、霊奈のことが…………?

 いや、気のせいだ。嫉妬じゃないだろ!

 龍真さんがちょっと羨ましいって思っただけで……。でも、それって嫉妬じゃないのか?

 いやいやいや! 龍真さんは霊奈の実のお兄さんで、そもそも結ばれることができない仲だ。嫉妬なんてしようがないじゃないか! ……だよな?

 あああ! もう止めだ! 考えても結論なんて出ない。

 俺はそのまま沈んで行って、床にうつぶせになって、ぐで~としていた。

「何やっての?」

 霊奈がドアを開けた音に全然気がつかなかった。

 霊奈は、髪にバスタオルを巻いて、ピンクのパジャマ姿だった。

 か、可愛い。

 いやいやいやいや! 可愛いことは百歩譲って認めよう。しかし、俺が霊奈のことを好きみたいな方向に持っていくことは止めようぜ。

「い、いや、何となく疲れてしまって」

「霊魂なのに疲れる訳がないじゃない」

 そうだった。疲労をするのは肉体であって、霊魂は疲労とは無縁だ。

「精神的に疲れたんだよ。久しぶりに、こうやって霊魂のままで、ずっといるからさ」

「それもそうかあ。でも、そうやって寝転がっているのはキモいから起きて」

「はいはい」

 俺が体を起こして胡座をかくと、俺のすぐ横に霊奈が床にぺたんと座った。

 シャンプーの良い匂いが俺の鼻腔をくすぐった。五感のうち触覚と味覚はないが、視覚、聴覚、嗅覚は霊魂にもある。

「ねえ、真生」

「うん?」

「私も、明日は学校を休んで、真生の肉体探索に協力するから」

「良いのか?」

「うん。だから、絶対、肉体を見つけようね」

「当たり前だ。せっかく、こっちで手に入れた肉体だ。それに、もともとは龍真さんの体だしな」

「お兄様のことは、もう関係ないよ。真生に、生きた真生にいてほしいんだから」

 霊奈の顔が少し赤い気がする。風呂でのぼせたのだろうか?

 

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