Part5:前触れ
「では、お世話になりました。」
二晩、レッグの家に泊まっていた二人は三日目の朝、町のはずれまで来ていた。
レッグはと言えば、薄汚れた白衣を着て二人を見送りに来ていた。
「もっと泊まってくれても良かったけどね。」
「いえ、マナの簡単な使い方を教えてくれただけでも幸いですよ。」
二人はレッグの家にいるとき、自らのマナを操作し、またそれを利用する使い方を習っていた。年下の先生、ということもあり賢時は渋々と言った感じだったが、二人ともマナの具現化と、能力の発動そして、『神』との契約ができるまでになっていた。
「じゃあ、これはお礼ということで。」
九一がそういうと、賢時と九一は顔を合わせて、にぃと笑った。そして、二人共手を空に向けた。
「『huder』よ、『redin!!!』」
「『redisen』よ、『stoma!!!』」
途端、九一の手からはとてつもなく小さな粒の霧が、賢時の手からは細長い風の棒が立ち上る。
それは、地から天に伸びるように風と霧が混ざり、交わり、飛散する。今もなお、出続けているその霧と風は、空に薄蒼い膜を作り出した。
「よし!成功!」
賢時は叫んだ。その膜は、太陽からの光を受け、霧で反射し、氷の紅と空の蒼、風の翠で世にはない色のアーチを作り出していた。
「…ここまで上達しているとはね。九一君に至っては大きさまで制御できるんだな…。君たちが神の能力をもっている理由がわかったような…気がするよ。」
そう言うと、レッグは後ろを向いた。
「さよなら、神の子供達。」
レッグは町の方に歩き出した。それが、別れの合図だった。
「さよなら!町医者!」
賢時はそう返すと、同様に町の反対側に向かって歩き出した。
ザクザクという土を蹴る音が生々しく靴の裏に響いた。九一のカバンでは二丁の銃が眠っている、賢時の腰には短剣が挟まっている、それこそが戦いに向けられた神の子の宿命をあらわしていた。
「で、これからどうする?もうあの町で襲われた以上、これから襲われないという確証はもてないからな。」
九一と賢時は町からかなり離れたとある森の茂みで切り株に腰をかけて話し合っていた。
「とりあえず、皆を探さないとどうしようもない。まあ先生は置いとくとしてだな、ラク。」
「うん、まあ先生は置いといて、誰がどこにいるかもわからないし、手当たり次第に探すしかないだろ?」
生徒を探す、という点に着目していた相談はだんだん論点がずれていく。
「先生がいたら襲ってくる命知らずなんていないだろうなぁ。」
「まあ、先生がいたらそうだろ。そういや、携帯は使えないか?」
二人は自分の携帯を確認する、がここは異世界。携帯なぞ通じる訳がない。
「アウト。」
「俺のも駄目だ。とりあえず、一番近い町に行こう。だとすると…」
九一はレッグから貰った全国版の地図を広げた。それを見た九一は絶句した。
「なっ、なんだこれは?!これはっ…」
その地図は、九一たちがいた第三世界の地球、その大陸一つ一つがバラバラに配置してあるだけだった。簡単にいえば、地球の世界地図を破って、バラバラにつなぎ合わせたようなものである。
「なんなんだ…この世界は?ってことはこの世界もまた球状の星なのか?」
九一は一人でパニック状態に陥る。
「何をいまさら。こんなん襲われた時点で普通じゃないことがわかってるんだからギャーギャー言うなよ。今いた町が、ディマルだったから、次は…ここだな。海の町、『ルバニ』!」
そう言うと、さっさと地図を丸めて、歩き出した。賢時は常に風のマナを纏っているため、急な攻撃にも対応できるようになっている。それ故に、賢時が前、九一が後ろの順番で歩くことになっている。
「先走るなよ、賢時。」
「わかっているよ、ラク。」
この言葉を何回交わしただろう?
―それにしても…
この世界はどこか、おかしかった。
まず、土の色。少し青味がかった茶色。
空の色、それは青ではなく、蒼色。
少しずつ、元の世界とはずれた世界。
九一はまたしても考え込んだ。
九一の遥か後方。
―あれが『4thplayer』?なんだか頼りないね。
―でも33人も来てるって話だぜ?
―それにくらべて、『3thplayer』なんて10人、しかも一人あいつに殺されたし。
そう言って九一を指差す。
―まあ一番大事なのは残ってるし、俺たち3人でも十分だと思う。
―いや、でも『4thplayer』は超能力は持っていないにしても、他になにか特殊な能力をもっているとしたら?
―様子見ってとこか。『千里一望』の調子は?
―万全。
―『無限世界』は?
―いつでも。
―じゃあ、次の町で。
三人は飛び散った。