Part4:マナ
登場人物紹介(その一)
逆地 賢時
ルックスよし、運動よしのある意味エリート。頭は極端に悪く、顔に似合わずドジ。幼稚なところがあるが、本人曰く「俺はいつでも子供の心を持っているんだ!」
月裏 九一
賢時の幼なじみ。幼稚園からの腐れ縁。賢時とは対照的に運動はあまり得意ではない。心の奥底に獣の心を秘めている。
レッグ・カルミニ
町医者。大人びた外見とは対照的に、まだ中学生。
「大丈夫ですか?」
医者は目を開けたとき、そこには見知らぬ少年がいた、と思ったがすぐに思い出した。時計台の前でうずくまっていた少年と、もう一人の少年。
「ああ、大丈夫だよ。はっ、彼らは?!」
医者を賢時の代わりに乗せ、介抱していた九一はその『彼ら』が誰かをわかっていた。
「正しくは『彼女』です。あの金髪の少年は黒髪の少女に殺されました。あなたは部屋で倒れていたのですが…」
「いや、皆まで言わないでもいいよ。うん、体に支障はない。とりあえず君たちに本を持ってこないとな、後僕の名前はレッグだ。いつまでも『あなた』では気味が悪いからね。」
ははっ、と笑って再び2階に上がっていく背中を見送った後、地面に放置されている賢時の方を向いた。
「おい、いつまで倒れている気だ?」
「お前が俺をベッドから引きずり降ろしたことを謝るまで。」
レッグをベッドに乗せるため、賢時は九一の手によってベッドから地面に落とされた。
「九一君!ちょっと手伝ってくれないか〜?」
2階から九一を呼ぶ声が聞こえた。
「行って来る。おとなしくな。」
念の為、と釘をさしてから九一は2階への階段を上り始めた。
―一応、死体は処分したし、戦闘の形跡も消した。疑問なのは、彼のナイフが銃に変わったところと俺達より早くこの世界に来た、という点か…
「ああ、ありがとう九一君。何せこの本棚は重くてね。」
二人がかりで部屋にあった本棚をどかして、裏にある収納スペースに手を突っ込んだレッグはまさぐりながら、こう言った。
「君たちは文字も読めないだろうから僕が読んであげるね。」
「はあ、お願いします…」
さっきから妙に機嫌のいいレッグは九一に友好的だ。
「確かここに…よし、あった!」
奥から引きずりだした教科書は既にボロボロで、本当に読めるのか疑問がでるほどだった。
パンパンと本を叩いた後、
「ふむ、まだ読めるから下に行こうか?賢時君、だっけ?地面に落ちていたじゃないか」
「いえ、あれは奴隷なんで。ほっといて大丈夫です。」
「え?友達じゃないのかい?」
「違います。奴隷です。地面で床を舐めさせて掃除でもやらせておけばいいでしょう。」
九一はたんたんと受け答えしながら階段を下っていった。
―そんなことより早くしないと、さっきの奴ら俺達の名前を知っていた…。情報提供者がいるのか、それとも相手の能力なのか…。だとしたら、女の方の能力だな。金髪の方はナイフだったんだ。
「賢時くーん!あったよ、本。」
レッグはボロボロの教科書を片手に賢時に駆け寄った。
「今から読むからよく聞いて頂戴!」
居間まで二人を連れてきてからそう言うと、レッグは教科書を開き椅子に腰を下ろした。
「えーっと、『マナとは世界の柱となり、大地を覆い、光となって皆に降り注ぐ全ての源。その力は親から子に、子から友に、友から大地にと流れる力。良く使えば善き力になり、悪しき気持ちの上で使えば闇に染まる力となる。』…ここまで大丈夫?」
マナについての記述を読んだらしいレッグは顔を上げる。
賢時はすでにうとうととしていたが、九一は比較的真面目に聞いていた。
「はい、まだそこまでは理解できますが、あなたが出した熊みたいなのとか、僕の銃とかについて教えて欲しいですね。」
「はいはい。『召喚…マナを利用した式を用いて術者が想像し、創造した生物をこの世に呼び出すこと。ただし、召喚している間は術者は他の生物は呼び出せない。』後は、『式…正式名称は、神妙式。マナを使用し、生物召喚や術を発動するための式。基本的は式は自らのマナに刻まれているために必要ない。』だね。ちなみに僕の召喚獣は、enaだよ。僕は術を使えないからいつもenaに頼りっぱなしだけど。」
「マナは誰でも持っているんですか?」
「ちょっと待って…」
パラパラとページをめくっていく。200枚程の量の教科書はこれだけで小中足りそうだ、と思うぐらい厚い。
「これだね。『マナはほとんどの人間が持っている。しかし、稀にマナを持たない人間が生まれてくる時があるが、そのときは寿命が極端に短くなるため、10年以上生きた人はいない。マナには属性があり、それぞれに使える術が限られている。属性の判断方法は<神の杖>と呼ばれる世界10神器を使うか、血液で判断される。』神の杖は僕もしってるよ、持つとその持った人のマナに反応して、属性ごとの小さな術を発動させるらしいんだけど、今までどの国でも見つかってないから幻の物とも言われて…。」
―まさか、賢時の持っていたあの…
九一はその話を聞くと、
「賢時!おまえの杖はどこにやった?あれだ!あれがその神の杖だ!」
と、賢時に向かって叫ぶ。とうの賢時は半分しかあいていない目を擦りながら、
「やっぱりエクスカリバーじゃねえか!あれはお前が持っていったはずなんだけど…」
「何ぃ?なんでそんな大事な物をほいほいと…」
九一は上着、制服のズボン…を手でまさぐる。
「これだ!」
ズボンの後ろのポケットに入っていた杖を出した。相変わらず、鈍い光沢を放っている。
「どうですか?これでしょう?!」
「…何で君が持っているんだい?それは今まで誰も…」
レッグは心底信じられないといった表情で九一の持つ棒を見つめた。瞬間、その杖の先から小さな紅い氷が出現した。
「うおっ、ラク!なんだよそれ。」
賢時はその氷をしげしげと見つめる。ちょい、と触ってみたり噛んでみたりして本物だと判断したらしく、疑問に包まれた顔をしていた。レッグはと言えば、賢時よりも驚いていて、
「それは…huderのbreedじゃないか?!個人の持つマナの中でもレア中のレアだよ?三ツ星ランクのマナだよ?何で君が…」
もう何がなんだかわからない、と言った風でレッグは頭を抱えた。
「俺も!」
賢時は九一から棒をひったくる。すると、竜巻が現れた。
「レッグ!これはどうなんだ?」
その出てきた風の塊をレッグに見せ付ける。レッグがそれを見ると、
「別に普通の能力。ただ、風の反応はそよ風が起きるくらいって教科書には書いてある…」
…つまり、賢時の能力は、
「風じゃなくて、『暴風』。redisenのurasun。僕のはmedi、ただの…治癒能力だよ。」
レッグはすっかり自身をなくしている。マナについて聞かれたときはちょっとした先輩気分だったのであろう、その落ち込み方からわかった。
それにしても、大人にしては異様なほどの落ち込み方だった。
「一ついいですか?レッグさんって何歳ですか?」
触れてはいけない空気を破ったのは九一だった。
「15だけど…君たちにはわからないよ。自分より下だった人がいきなり上になるときの気持ちは。」
―『15!?』
九一と賢時の心の声がハモった。それほどまでに衝撃的だった。
「明日にはここを出るんだろう?家族も心配しているだろうし、いつまでもここにいるわけにはいかないだろうからね。」
レッグはすっかりいじけてしまっている。
「じゃあ最後にひとつ、さっきからヒュー何とかとか、レデ何とかって言ってるけど、それって何?」
九一は汚名返上の機会を与えた。年下、と言う事がわかった故に少しレッグを小馬鹿にはしていたが…
「神様の名前。この世を形作り、今もなおこの世をコントロールしていると言われている。それなら僕の得意分野だよ、ふむ。全部暗記してるから。たしか、26人で、『ader、berue、crono、deva、elue、firia、gadan、huder、ide、juke、keiw、luna、monni、ned、oo、peck、que、redisen、stor、tedec、unnoa、viou、wwe、xron、yeden、zero。』ふむ、これで全部だよ?…あれ?」
二人は今度は固まっていた。自分より小さい子供が、複雑な5次方程式よりも難しい言葉を暗誦したのである。賢時のだらしなく開いた口にハエが入ったことにより、二人は正気に返った。
「いや、ありがとうございます。では、明日ちゃんとここを発ちますので。お世話になりました。」
「いいや、いいよ。大した事にはならなかったし。」
―襲われたことすら大した事じゃなかったのか…。まあ新手が来る前に絶対出て行こう、早くて明日。
そう九一は心に誓った。