Part1:はじまり
2040年9月1日、瑠羅学園始業式。
毎年、毎回お馴染み学園長の長ったらしい挨拶は最近多発している、『能力者』の通り魔についての話で終わった。立ちながら寝ているという器用な行動をしていた賢時は、終わったと同時に伸びをした。
「っくぅ〜、あーよく寝た。それにしても学園長、夏休みの間に髪薄くなってねぇ?なぁ、ラク?」
賢時は隣に立っている少年に話しかけた。
「別に、学園長の髪は今に始まったことじゃない。それよりラク、と呼ぶのはやめろ、逆地。俺のイメージが穢れる。」
「なあ?!ラクってのが一番言いやすいからいいだろ?まさか月裏九一、とフルで呼ばれたいか?」
「もっとマシな名前で呼べ、と言ったんだ。お前の脳はアリ以下か?」
いつもと変わらないやり取りをしているのは逆地こと、逆地賢時と、ラクこと、月裏九一である。賢時と九一は子供のころからの幼染みで、小学、中学、果てには高校と一度として別々のクラスにならなかったある意味すばらしいコンビなのである。
「まあ、それは置いといて、お前の靴箱になんか手紙っぽいの入ってなかったか?」
始業式も終わり、教室に帰る途中の廊下で賢時は九一の言葉をあっさりと流し、話を変える。その話に九一は食いついてきた。
「まさかお前もか?他にもグミと悠基もあったらしいぞ。」
「俺は美菜と亮子にも聞いたが二人とももらってるって…。なんでもクラスのほとんどはもらったっぽいな。でもその手紙どうやっても開かないんだよね、他のクラスはもらってないし。中身なんて書いてあるか気にならねえか?」
賢時はニヤリ、と唇を横に広げた。賢時がこの顔をする時は何か思いついた時の顔である。
「気にならないわけではないが…、何か特別な素材が使ってあるみたいで材質は紙でも鋏でも切れなかったが?何か特別な方法があったのか?」
その言葉を聞いた賢時は口を開けた。しばしの静寂―
「まさにその鋏作戦をやろうと思ったところだ。何て事だ!先を越されているとは…」
「やっぱりお前の脳はアリ以下だな、ほら、帰りのホームルームが始まるぞ。お前の席はここではない。」
教室にたどり着き、九一の机の前で顎を机に乗せていた賢時は後ろを振り向く。
そこには、鬼とも言える形相で立っている担任の姿。女王様こと、大崎凛はS型国語教師として学校中に名を馳せている。
「逆地、この俺様のホームルームを始めようってのを邪魔した代償は大きいぞ。」
俺様、と言った女教師は手にどこからとりだしたか、鞭を持っていた。
ヒュン、ヒュンと鞭を回す。
「凛先生!俺はそんな趣味は…」
「問答無用!国語教師だとおもって舐めるなぁ!」
「ぎゃああああああああああああああああああああ」
しばらくの間、高校一年二組の教室では、断末魔の叫びが聞こえていた。
「まったく、どいつもこいつもたるんどる!しかし、遅刻者が手塚とはな。初めてじゃあないのか?ええ?逆地。」
「はい、まったくそのとおりです。女王様。」
教壇の隅にうずくまって、否、土下座の体勢ととっているのは他ならぬ逆地だった。
「先生!朝私の机にこんなものが入っていたんですが?」
そんな逆地には目もくれずに発言したのは清水亮子だった。
「あれ?清水も?」
「え?も、ってことは順ももらってんの?」
「あれ?俺の机にも入ってる。」
清水の発言により、やや混乱気味な生徒。
「そうか、こりゃあ全員に春が…」
「明らかに違うでしょう、先生。なんかクラス全員持ってるってのが怪しいですが、その手紙、開かないんですよ。」
その混乱を体よく収めたのは逆地だった。
そこへ手塚が滑り込んでくる。
「すいません、遅刻です。そしておはようございます、先生。」
「おお、手塚。なんでお前のようなやつが遅刻したんだ?」
凛は自分のペースを生徒に乱され気味だったため、普段はしないような質問をする。
「いえ、自分の靴箱に手紙が入っていたのでこりゃあ僕にも春が来たと…」
『いや、明らかに違うから。』
クラス全員がハモった。いつもと変わらぬ風景。しかし、すぐに異変は訪れた。
「もういい、逆地、手塚。席に着け。やっとホームルームを始められる。」
凛はクラスの笑いを誘う。だが、生徒から返ってきたのは恐怖と戸惑いの声だった。
「うわぁ!何だ?!」
「きゃああああああああ」
教室中に悲鳴が木霊する。
「なっ、どういうことだ?!」
それもそのはず。ついさっきまで木製の板で覆われていた教室の床が、まるでブラックホールのように黒くなり、その上にある物体を飲み込み始めた。
誰も予測、予想しなかった事態。全員が膝のあたりまで闇に飲まれたとき、事は起こった。
教室前方の黒板に白い、髭を生やしたどこかのおじさんの様な顔が現れた。
『第4の世界の子らよ、貴方達に試練を与える。そなたらのマナと勇気を持って、世界の創造主たる神の元へ馳せよ。我は第5の世界の神。健闘を祈る。』
そして、顔は消えた。体はもう胸の辺りまできている。
誰もが何が起こったかわからなかった。突然、教室の床が黒くなり、自分たちが闇にのまれ、そして訳のわからない事を言う顔が黒板に現れた。この23世紀でそんな非科学的なことは誰にも理解できないはず。
そして―――
すべてが闇に飲まれた。
えーっと、MOAIです。
ひよっこです。
若輩者です。
暖かく見守ってくれたら嬉しいな、と思ったりもしています。
とりあえず、がんばるので、応援してください。