Part11:新たな刺客
「なぁ。ラク。」
「ラクと言うな。なんだ?賢時。」
賢時、九一にデルタとシータを加えた4人の一行はアルファの遺体が埋めてある地点に立っていた。
そこには元のアルファの身長程もあろうかの紅い氷の塊と、その傍らに立てかけてある水色の澄み切ったようなトンファー。
形見にと、4人が持っていったのはアルファの黒い髪の毛だった。それぞれが思い思いにアルファの墓標の前に立ち、1人1人言葉を零して言った。
「誰を恨めばいいんだ?」
賢時は心底悔しい声で言った。現実を見ているのは誰しも辛い。
「さぁな。」
シータは泣かなかった。
リバルスト―――
古くからイルトラノムと対立状態にある国で、国の境界線では小競り合いがしばしば行われている。面積は広く、イルトラノムの10倍ほどの国土を誇るが、対照的に国民の数は少なく、イルトラノムより少々多い程なので、軍事力で言えば世界では五本の指には収まらない。
一年(この世界では220日)を通して、その半分を氷に覆われる領地では畜産業がさかんとなっている。
その広い広い領地の東端。そこに目指す町…ババランがある訳だが…
「ここは何処だ?」
イルトラノムとリバルストの国境を越える際、デルタ達が来たときはアルファの能力―瞬間移動で問題なく入れたのだが、今回ばかりはアルファはいない。
そこで、仕方なく正面突破に走る4人だったのだが、流石はトラブルメーカー。
賢時は国境付近の樹海でしっかりと迷子になっていた。
「う〜、俺は左だと思ったのに…くそっ!」
そもそもは…
「あそこが…国境の門なのか?」
九一は目の前にそびえる何とも無駄に大きい門を前に口を開いた。
「たぶん…行きはよく見なかったけどね。」
シータもその横で言った。門の前には賢時一行と、門番のつもりだろうか?もはや軍隊の量の兵士。
兵士の装備は量に違い違わずにも重装備だった。
鈍い光を放つ銃口を上に向けたアサルトライフル、イルトラノムの紋章であるのか銃身に刻まれた獅子の絵、体に着込んだ帷子のようなジャケット…
いかにも軍人です、と言った装備だった。それに対し、
「正面突破は不可能に近いな。」
九一はぼそりと零した。
確かに、その門に対する警備は厳重だった。ただ、裏を返せば…
「横からなら大丈夫だな。」
賢時の言葉に九一とシータ、デルタは頷く。
「じゃあ、1、2の3で行くぞ。」
九一は言うと、実を低く屈めた。
「1、2の…」
「3!」
バッ、と4人は走り出す。
右に3人、左に1人…
と言うわけだった。
悲しきかな、馬鹿の運命。
でもってその頃のその他3人…
「あっの馬鹿が!何でこっちにこないんだ?!」
九一は怒り奮闘と言わんばかりに叫んでいた。
「まあ普通は月裏に付いていくもんだと…」
「私も…月裏君が。」
デルタとシータが賢時に追い討ちをかけた。
当の本人は何処にいるのか、目星もつかない。
「くそっ!せめて目印でも…」
その時。
その声が賢時に届いたのか否か、
スピュン
と言う音がして、九一の頬が切れた。
何事?と九一が振り返る前に
「無限世界!」
その場にいた3人は消えた。
「何なんだよ…お前等。」
賢時はそう言った。
「我々はぁ!全イルトラノム国土を護るべくぅ!結成されし鋼鉄の騎士の軍団!」
ガシャンと、一斉に音を立てて槍を構える。
「怪しき者は捕縛或いは殺除ォ!」
ガシャンと、その50人もの精鋭は槍を構えたまま賢時に突っ込む。
「上等!」
ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、と騎士は走り出す。
「『redisen』―――」
「サンキュ。シータ。」
他の3人はと言うと、
おそらくは警備隊に見つかったであろう3人をシータが人間では追ってこれないある種の独立空間に送ったのである。
「ん…逆地君発見。」
まるで碁盤の目のように張り巡らされた床を歩いていると、ビデオ映像のようなビビ…という雑音の聞こえるエリアに出た。
そこには何故か沢山の騎士に囲まれた賢時の姿。
九一は首を一回だけ、ぐるりと回すと
「行ってやるか?」
「『stoma!』」
右腕に細く尖った風の剣を握ると、それを勢い良く前方に突き出す。
轟!と言う音がして、騎士の半分が吹き飛ばされる。
直接賢時の刃に触れたものは鎧がズタズタに引き裂かれ、宙を舞った。
「こっ、この野郎!」
後ろに回りこんでいた騎士の1人が槍を賢時の頭に深々と突き刺した…
と思うと、その体は目に見えぬ力によって後ろに吹き飛ぶ。
賢時の握る剣の柄から後ろに向けて風の槍が突き出しているのが見えた。
「『huder』」
残る騎士が横から吹っ飛ぶ。
そこには片手銃を右手に持った九一と左腕を宙に突き出しているデルタ。
「『breed』!」
僅かに残る少数の騎士もまた同じくして吹っ飛ぶ。
「ったく。早く来いっての。」
ガツン、と賢時と九一は拳を突き合わせる。
「温いなァ?テメぇ等!」
4人は素早く声のしたほうを見るが、誰もいない。
「遅せェんダよぉ?雑魚どモガぁ?」
そのひょうきんで少し抜けたような声は九一の背中越しに聞こえた。
「なっ…」
―――「遅イ」
九一のわき腹に鈍い痛みが走った。