第7話 ドワーフの店主は大体すぐキレる
「な、なんだなんだなんだ?」
突然のことに驚き、慌てて宿を出てから中の様子を覗いてみる。
どうやら店主らしきドワーフの男と、何処かの兵士2人組が言い争っているらしい、ドワーフの男は顔を赤くしてキレ散らかしているところから、さっきの怒声は彼の物だったんだろう。
対して兵士2人組だが、兜や鎧などの装備が統一されている上に、鎧の背には全く同じ『盾のマーク』が描かれている。
「テス、あの兵士の盾のマークはなんだ?」
「あれは『軍事国オールドクリフ』ですね……。ほらあの、大陸の中央で魔族と戦ってる国ですよ。……しかしオールドクリフからこの町まで随分距離があるのに、何故こんな所まで来てるのでしょうか」
様子を伺う私達に気づくことなく、店主と兵士は話を続けていた。
「俺達は南の魔族領から命懸けでお前達を守っているんだぞ? 感謝して、食料を要求通りに渡すのが当然じゃないか?」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ、この町の誰がお前らに守ってくれと頼んだ? そもそも命懸けで守ってるってんならわざわざこんな遠くまで来ないだろ、どうせ戦地で役に立たないからって追い出されたんだろうが」
「おい、言葉に気を付けろ、こっちはあくまで『対話』で済ませようとしてるんだ。これ以上余計な手間を取らせるつもりか?」
「余計な手間? 手間ってなんだ? お前らんところ王様は、『ゲイン王』は、脅してダメなら殺して奪えって言ってんのかぁ!?」
片方の兵士が腰に下げた剣を抜こうとしたが、もう片方の兵士がそれを止める。
「この事を必ず後悔させてやる、近いうちにな」
兵士2人はそれだけ吐き捨てると、荒い足取りで宿の外に出て行った。
兵士は外に居る私達の存在に気づき、私とテスを見て舌打ちをしてきた、我々は関係ないはずなのに、巻き添えを食らったことが非常に腹立たしい。
その事を必ず後悔させてやろうか、――なんなら今からな。
……と内心思いつつ、この町に着いて早々トラブルを起こしたくない私は大人の余裕、と言う奴で一旦奴らを許すことに決め、改めて宿に入ったのだった
「……いやぁすまないな客人よ、ようこそ『酔いどれドワーフ』へ。部屋も食べる物も、必要なら喜んで用意するぞ」
「私達、この町にさっき着いたばかりでして、とりあえず一泊と食事を」
「珍しいねぇ、旅行かい? ちょっと面倒な時期に来ちまったが……、目立たないように気を付ければ厄介な事にはならないだろう」
「ああ、それについては門番の男も言ってたが……、面倒な時期ってなんだ?」
私とテスは店主から話を聞くためにカウンターの椅子に座った店主はコップ2つに水を注ぎ、私達に手渡してから話を続けた。
「さっきの奴らさ、数日前からあんな調子で色んな店に行ってはああやって脅して食い物や金目の物を奪おうとしてやがる。最初こそ誰も相手にしなかったが最近はかなり乱暴になってきてな、しかもクソッたれな事に、自警団が来る前にそそくさと何処かに逃げちまう」
「あれはオールドクリフの兵士のはずです。どうして、この遠く離れた町までそのようなことを……」
「俺にも分からん、だがオールドクリフの王、『ドロアグラ・ゲイン王』は人族の希望とも言われる『アルカナ』の1人だ。それほどの傑物が、こんな略奪行為を許してるとは思えない」
であれば考えられる可能性としては盗賊落ちした脱走兵か、もしくは兵士の装備を奪った盗賊か。
いずれにせよ、盗賊と呼べるだけの行いをしていることは確実だ、どうかは分からんが、その『ゲイン王』とやらに手紙を送り、調査と対処を依頼するのが良いのではないだろうか。
そう思った、が、このミナトの町は『国とギルドに頼らない』と言っていた、その方針がある限り、ミナトはミナトの力で、どうにかしなければならないのか。
「それとこれは狐のお嬢ちゃんに関係するかも知れないんだが……最近、この町を通る奴隷商が連れている獣人族が行方不明になっているらしい。それも1人2人じゃなくて、結構な数って話なんだよな。商人達の間では商売敵による奴隷の横取りって言われているが、奴隷を逃がしてる奴が居る、という噂もある」
「……なるほど、確かに気を付けなければならない話だな」
「奴隷の横取りが目的なら狐種ってのは滅多に出回らなくて高値がつく、しかも狐種ってのは『尻尾の数で強さが決まる』って言うんだろ? 尻尾1本のお嬢ちゃんなら狙われてもおかしくはないだろうな」
あぁ、確かに確かに、店主の言葉に納得し、私は自分の尻尾に目を向ける。
狐種が他の獣人族より優れている点、それが『尻尾』である。
本来、どの種族であれ個体差はあるが、自身の体に内包できる魔力の量には限りがある。
修練を積むことである程度その上限を増やすことは出来るが、ほとんどの魔術師は上限を増やすことよりも、魔法を行使する為に使用する魔力を如何に軽減するかという方に力を入れている。
それほどに上限を増やすことは難しいのだ。
だが、唯一の例外が存在する、それが『獣人族、狐種』だ。
テスの言う所のさながら『機械の外付けバッテリー』なる物と同じ原理で才ある狐種は成長と共に『尻尾の本数』を増やし、そこに魔力を溜め込むのだ。
尾の数は最大で『9本』、ただし9本に至った狐種はその長い歴史の中でもほんの数人しかいないのである、尾の数は狐種の強さの指標であり、これは他の種族の間でも共通の認識だ。
そしてこの私、『神獣ライカ』の可愛いお尻に生えている、ラブリーでフッカフカでキラキラな金色の尻尾は……『1本』、他の種族の間の共通認識でいう所の『最弱』に分類される奴だ。
いっそ野宿のほうがマシなのでは?
私はそう思いながら、出された水を一気に飲み干した。




