第47話 首の塩漬け
「よし、それではこの箱を早急に、この宛先に届けてくれ」
「承知しました」
ギルド職員から紹介された御者に荷物を預け、諸々の事から解放された自分の身体を、肩を叩いて労わる。
箱の中身は言うまでもなく塩漬けされたゴブリン王の生首、あの後結局、他の冒険者のゴブリン追撃を手伝ってたら日が暮れてしまい、報酬の受け取りやら事後処理が終わったのが襲撃があった翌日の今になる、と言う訳だ。
弓手先輩はあの後、自分の器量の狭さや愚かさに心打ちひしがれ、冒険者を辞めるか続けるか、それを判断する為に首都の自分のギルドに帰ると決め、早朝に出たと聞いた。
私は辞めると思っている、何かしらの彼の心を変えるきっかけが無い限りは。
甘やかし、手柄を譲る選択肢を選んでも良かったのでは、誰かにそう言われたら私はそれもあったかも知れないなと答えるだろう。その果てに彼が身の丈に合わない戦いで死んだとして私に責任はない。
ただその最悪のきっかけを与えたのは私だ、責任は無いからと言って何も思わない訳じゃない。
「これで街道が通れるようになったなら、すぐに馬車が出るはずだな」
「ララァ様、それが少し問題が……」
「問題? 御者か馬の具合でも悪いのか?」
「いえ、具合が悪いと言うより……そもそも居ないと言う方が正しいかと」
思わず我が耳を疑うほどの、衝撃的な事実をテスの口から告げられる。
驚いたのはテスも同じで、どうやら昨日の騒ぎで命が大事と迅速かつ賢明な判断をした御者が来た道を引き返し逃げたらしい。
「まぁ仕方ないな、留まれと強制するのも酷な話だよ。新しい御者を探そうか、うん、そうしよう」
「そうですね、いざとなったら歩けば良いのですよ」
それは嫌だなぁー、などと言って2人で笑って宿に帰った。
……と、言う事があって3日が経った。
「……歩く、かぁ……」
「そうですね……歩き……ましょうか」
嵩張る荷物はまとめて門を通して、私が作った別世界へと送る。
よくよく考えればこれもチート魔法の一種だと言われるかも知れないが、専用の空間を作る魔法が施された鞄等は存在している。
ただ私のはちょーっと、いつでもどこでも空間を繋げる門を生成できるし、ほぼ無限に空間を作れたりと、そう、ちょーっと便利過ぎるだけだ。
「失礼します、お客様。お客様にお願いしたい事があると言う人が来ているのですが……」
「うん? 分かった、少し待ってて欲しいと伝えてくれないか」
「何でしょうか、一旦荷造り止めますか?」
「……いや、目的がある以上、この町で何日も足を止めるわけには行かない。内容次第ではあるが、心苦しいが断ることにするよ」
荷造りの続きをテスに任せ、私は部屋を出て受付に向かう。
そこに居たのは顔馴染みとなった宿の従業員と、農民らしい見た目と、土の臭いが強く残る中年の男だった。
「あんのー、偶然あなた方がこの先の村に向かうと聞いてー、どうしてもお願いしたいことがありましてこうして伺いましたー」
「確かに私達は先の村に向かう為に、今日ここを発つつもりだが……、まずは話を聞かせて欲しい、手伝えるかどうか分からないからな」
間延びした喋り方をする中年の男の話を要約すると、彼はこの先の村で農業を営む農民で、この町には作物を卸しに来ていた。
しかしこの前のゴブリンの襲撃による混乱で運悪く転倒し、腰を痛めてしまってしばらくこの町で安静しなければならないらしい、そこで問題なのが、売り物の移送に使った牛車……特に牛が、農耕をする上で必要になり、家族をこれ以上待たせる訳には行かなくなった。
と、困っていた所に私達の話を聞いた、という事だった。
「うちの牛は頭良いから俺が寝てても勝手に家にさ帰ってくれるんだども、ゴブリンにさ襲われたら困っからー、あなた方に守ってもらいたくてー、牛車も付いてるから、荷物とか乗っけてもらって大丈夫だからー、お願いできんかね?」
「ふむ、とてもありがたい申し出だな。牛を守る代わりに、足代わりに使わせてもらえる、分かった、任せて欲しい」
「ありがとうございますー、牛車は町の入口に繋いでるからー。村のモンならうちの牛見たら分かるはずだから、うちまで案内してくれるはずでさー」
話がまとまり、私はテスに伝えるとテスは大層喜んでくれた。
「次の町まではそれなりに距離がありますし、歩き続けるよりずっと楽になるかと」
「だな、久しぶりにゆっくり旅路を楽しめるな」
冒険者として最低限必要なものだけ詰めたカバンを持ち、私達は次の町へと再び歩き始めた。




