第33話 なんか思ってたんと違う
兵士が2人の男を連れて帰ってきた。
片方は人間の青年、銀髪で整った顔立ち……世に言う優男という印象を受ける、軽装の防具を身に着け、一般的な剣より刃が細い剣を下げていた。
そしてもう片方の男、こちらは色々と『規格外』だ。
身長は3mから4mは無いくらいか、赤色の髪、やや薄い褐色、あと何故か上半身裸、筋骨隆々、ぱっと見、『未開の地の部族戦士』、っていうか、この身長でよく下水道に入ってこれたな、通路の高さとほぼ同じくらいだ、頭が擦れるのではないだろうか。
ゴリゴリ……ゴリゴリ……。
「み、見てください、あの大男さん、頭が天井に擦れてます!」
「本当だ! よく見たら痛みでちょっと涙目になってるぞ!」
可哀想、という同情より『じゃあ屈めよ』という感想が先に来る。
見た目は人間だが、人間非ざる高い身長、体格、人族の中でも希少とされる『巨人』という存在だろう。
だが巨人は成人すると男で5mは優に超すはずだと記憶している。
なら子供か? と思うが顔つきは成人のそれだ、その違和感に、私は首を傾げていた。
「恐らく、巨人と人間のハーフでしょう。言うまでも無く、母親が巨人で、父親が人間ですね」
「身長差が凄すぎるだろ、よくそれでカップル成立するもんだ」
「昨今、高身長の女性を愛でる『デカ女ブーム』というものがあるみたいで」
「……なんか知らない内に静かに廃れそうなブームだな」
人間の趣向はよくわからん、だが当事者が幸せならそれでいいだろう。
そんな目立ち過ぎる2人組を連れている兵士、こちらも気になる、何が気になるって、2人ともが顔をボコボコに殴られ、腫れ上がっている、しかも行きは綺麗な鎧だったのが、あちこちが凹み、若い方の兵士に至っては下半身がパンツ姿と言う奇妙過ぎる様相だ。
「たす……たしゅけて、た……けて……」
不細工な方の兵士が腫れによって歪められた口から言葉を発す、それはまるで『決して助からず、死ぬと分かっていながらも生を渇望する時の台詞』の奴、もしくは『仲間をおびき出す為に敵が拷問して無理やり言わせてる台詞』の奴だ。
兵士2人とも、つい先ほどの威勢のある態度と打って変わり、今すぐにでも助けないと衰弱死でもするんじゃないかと、そんな心配をしてしまいそうになるほど弱く、そして怯えていた。
「……先客、か?」
銀髪の男が、静かに呟く。
「あぁ? なんだぁお前ら。お前らもこいつに金貸してたのか? それなら悪いが、俺達が先だ」
「……いや、私達はその兵士に雇われた冒険者だ。そして、仕事は既に終わったから帰るところだ、邪魔をする気はない」
「雇われ……、随分と良い身分だな、俺達から貸した金を返さず、人を雇える余裕はあるんだ。それなら満額、今日返してもらえるな? ゲン、この冒険者さん達は無関係だ、威圧するんじゃないぞ」
「んだよレイジ、俺は元々こうだろうが……。だが、怖がらせちまったならすまねぇ」
レイジと呼ばれた銀髪の男が、ゲンと呼ばれる赤髪の大男を嗜め、それに対し、ゲンは素直に頭を下げて謝罪してくる、この事に、私とアーシュ、リエルは少し呆気に取られてしまった。
「紹介が遅れました、俺はレイジでこっちがゲン。俺達は『便利屋ナナツボシ』の社員で、社長から借金した兵士を取り立てに来ました」
「俺達が寄り付かないこと良い事にずっと下水道に篭ってやがったが、珍しく外に出てきたから取っ捕まえたんだが……、金は詰め所にあるって言うからここまで来たって訳だ。で? その詰め所はどこにあんだよ」
ゲンの言葉に冒険者一同、小さく『あっ』と声を漏らしてしまう。
詰め所は無い、もう無い、跡形も無く消したから、無い。
だがこの場に『私達が消しました』と名乗り出す者は居ない、確実に面倒なことになる、拗れる、そんな確信があったからだ。
「詰め所、なら、ここに……あれ、詰め所………? 詰め所が無、な……なんでぇえええ!?」
不細工の方の兵士が『詰め所跡地』までよろよろ歩き出したかと思えば、四つん這いになって地面を撫でまわし、必死になって詰め所を探し始める。
恐らくレイジとゲンから見れば演技か異常行動に見えるだろう、だが事情を知っている私達にとっては『まぁそうなるよな』という感想である。
……なんか思ってたんと違う。
私の思い描いたストーリー、それはただ単純に詰め所を失くした兵士達が慌てふためき、やがて上司にバレて厳重注意を受ける、と言う物だった。
だが実際どうだ、まさか借金取りがやってくるなんて思わなかったぞ。
「おい、ここまで連れてきてそんな演技で許されると思っているのか? 金が返されないって分かったら、社長が泣いてしまうぞ。社長が泣いたら分かってるんだろうな、俺もゲンも、他の社員も、決して黙ってない、だからさっさと返した方が良い」
怒るんじゃなくて泣くんかい、という突っ込みは言うべきじゃないか。
「ひぃい! ま、まさかお前らか!? お前らがやったのか!? すまなかった! 謝る! 謝るから助けてくれ! ごめんなさい、ごめんなさいぃ!」
「って言ってるけど、実際関係あるのか?」
「いいえ、ないです。俺達はただ、この辺の掃除を、依頼されただけ、な、リエル」
「えぇ!? あ、はい、はい、私達はただの冒険者です、はい」
ゲンが顔を覗き込むように屈み、我々に確認する。
それに気圧されたアーシュとエリンが、『怖くて嘘は吐けないから決して間違ってはないけど、重要な部分だけ伏せてなるべく心苦しくない程度に誤魔化す』と言う、大人に叱られた子供が時折見せるファインプレーで切り抜けようとする。
この2人、処世術の素質、十分。
「そうか、そうだよな。冒険者と言えども普通の人が短時間で建物1つ消すなんて無理だろ」
そしてファインプレーで切り抜ける。
ゲンと言う男、いやレイジもだが、見た目こそ怖いが人を簡単に信じる単純……いや良い奴なんだな。
「おい! なんだ! 何の騒ぎだ!」
金は何処だ、知らない、訳が分からない。
そんな問答を繰り返していると、通路の遥か向こうから声が聞こえてくる。
若い兵士や不細工な兵士の物とは違う、見栄えの良い鎧を身に纏った兵士を先頭にして、10人規模の小隊が駆けて来るのが見える。
『今日は視察が来る日』
不細工な兵士は確かそんなことを言っていたのを思い出す。
ということはこの集団がその視察の隊、なのだろう。
「あ? なんだお前ら、仲間呼んでたのかよ。チッ、そんなに金返したくねぇらしいな?」
「4人方は下がっていてください。おそらく荒事になります、貴方達を巻き込む訳には行きません」
「そうだ、俺達は堅気には手を出さねぇし、堅気は守るもんだ」
ゲンとレイジが身構えた瞬間、捕まっていた2人の兵士が一気に駆け出し、小隊の元へと転がり込んでいく。
「たたた、助けてください兵長! あいつら! あの4人の冒険者が詰め所に盗みを働いた上に更地にして! 男2人組からは謂れのない借金で脅されて……!!」
不細工な兵士が、兵長と呼ばれた男に跪いて叫び、それを信じてるのか知らないが、小隊全ての兵がこちらを睨みつけてくる。
どうやら不細工は性格は最悪だが、それ故に目上に対して媚び方は上手いらしい、そんな不細工に騙される兵長達が悪い訳ではない、だが、だからといってこちらが悪者にされる謂れもない。
そろそろ殺っちまうか。
……いや、殺さない、本当にそんなことしたらガチの悪じゃないか。
懲らしめるだけ、お互い落ち着いて話をする為のちょっとした抵抗って意味だ。
「てめぇ! どさくさに紛れて社長から借りた金踏み倒そうとしやがって!」
「……どうします? ララァ様、このまま向こうが彼らの話を鵜呑みにしたら、私達は窃盗の容疑で捕まってしまいますよ」
「あー、うん、性根が腐り過ぎているな。アーシュ、もう我慢しなくていいぞ、殺したらダメだが相手も訓練を積んだ奴らだ、油断するんじゃないぞ」
「おう!!」
こうして、ゲンとレイジと私達対騎士団の兵士の戦いが始まる、どうしてこうなってしまったのか、今となっては些細な疑問であった。




