第31話 コスパ最強武器
長く、入り組んだ下水道を指定された道順に進む。
奥へ進む程に暗く、そして下水本来の臭いが鼻につくようになる。
獣人族の嗅覚は限りなく本来の獣に近い、嗅覚の被害を防ぐ為に予め簡単な防護魔法を施していて良かったと思う。
「もうすぐで騎士団の詰め所に辿り着くはずだな。幸いなことに、なんだけどよ、結局この斧を使うことなかったな」
「戦わずに済むならそれが一番いいんだよ」
「そうですね。……ところでララァ様は随分懐かしい物を持ってきましたね」
テスの目に入ったのは、私の腰に差している『鈍器』の事だ。
私の武器はあくまで拳、体術。
しかし場合によっては武器を持つことも別に珍しいことではない、じゃなければジンに槍の使い方を教えることなんて出来ないからな。
鈍器といえば、メイスなどと呼ばれる武器が一般的とされるが、私が持っているのはそのメイスの先の時代の品、つまり『棍棒』であった。
そう、あの棍棒だ、木とか石を削り出して取っ手に布巻く奴、小国の王様が有望な冒険者に下賜する時に出したりするアレ、鉄の剣の安物1本買う金で2、30本は買える、あの棍棒だ。
「おいおい、ララァ。お前そんな安物で魔物と戦うつもりか?」
アーシュがやや嘲笑気味にそんなことを言う。
だが私は知っている、この棍棒には無限の可能性があるという事を。
「ふふ、アーシュよ、棍棒は良いぞ。確かに安価だ、1本銅貨5枚もしない代物だ。なんなら現地調達だって出来る、木ならナイフで削ればいいからな、逆に言えば、いざ壊れても簡単に新調できる所が強みになるとは思わんか? だが鈍器の凄いところはそこではない、鈍器は『刃こぼれ』しなければ『錆び』もしない。鉄の剣は敵を数体切れば血に汚れ切れ味が鈍る、鈍器にはそれがないんだよ。これほどに手間とコスパに強みのある武器があるか? いいや、無いね」
愛おしさに棍棒を撫でながら、私はアーシュに早口に説明する。
鈍器は良いぞ、重量、持ち手、取り回しが気に入らないなら削ればいい、薄い鉄板を巻いて補強しても良い、釘を刺して裂傷を狙っても最高だ。
『安価』で『メンテナンス不要』で『カスタム性に優れる』武器、それが鈍器だ、これに勝る武器が他にあるか? いいや、絶対に無いね。
「そ、そう言われると凄く理に適っているよう……な? 気がします」
「実際、私とララァ様は他に仲間が居たのですが、酷い金欠に陥った時期がありまして、その時ほぼ全員が棍棒で戦っていましたから。棍棒に対する理解はララァ様が一番深いかと思います」
「棍棒に対する理解の深さってなんだよ」
私の講談を聞いてリエルのように納得する者も居れば、アーシュのようにいまいち納得しない者もいる。
それが棍棒を使うということだ、棍棒とは孤独なのだ。
「まぁ業物、魔剣、そういった物があるに越したことはない、が」
物陰から大きな塊が飛び出す、それは私の喉元を狙いながら素早く、真っすぐに飛び出す。
『ネズミ』だ、しかも通常の何倍も大きい個体、魔物だ。
驚き、武器を構える為に背の斧に手を伸ばすアーシュ、だがそれよりも早く、私は腰に下げた棍棒を抜き、胴斬りの要領で打ち返す。
ゴキャッ。
何かが折れる音が小さく聞こえ、打ち返されたネズミは水路まで飛び、落ちていく。
少ししてネズミは水面に浮かび、動く様子のないまま水に流されて行った。
「ぶっちゃけ武器なんて敵を倒せればいいんだよ、倒せれば」
「……す、すげぇ……」
「………って、魔物、魔物が出ましたよ!?」
「ネズミですか、虫よりはマシですね。視覚的な意味で、ですが」
「まだ仲間が居るかも知れん、アーシュは武器構えておけよ。テスはリエルのことを頼む」
突然の遭遇にアーシュとリエルは少し動揺していたが、このままここで足を止めていれば魔物が集まる危険がある、2人が落ち着くのを待ってから、私達は再び移動を始める。
それから数度、魔物ネズミと遭遇し、戦闘をすることになった、『いくら何でも多いな』と言う違和感があったが、その事を口にする前に、明かりの灯る木造りの小屋を見つけた。
「やっとかよ……ここに来るまで一体どんだけ歩き回ったんだ……」
「移動だけなら1時間もかかってませんが、複数回の戦闘で想定よりかなり遅れてしまいましたね」
「……あの、なんだか思ってたよりずっと、ネズミ、多かったと思います」
「リエルもそう思ったか、私もだよ」
ストーン級の依頼と決めたのは過去の実績からだろうが、『なるだけ戦闘を行わせない』というギルドの方針を疑うほどだ。
恐らく、今回はかなりレアケースなのかもしれないが、下手したらアーシュもリエルも噛まれ、解毒薬が底を尽きていたかもしれない。
「無事に辿り着けて良かったな」
「本当だぜ、ララァとテスさんが居なけりゃ死んでたかも知れねぇ」
アーシュは少しふざけ気味に笑ってから、詰め所の扉を開いた。




