第25話 魔族の今と魔神の話
馬車があぜ道をゆっくりと進む。
馬車の荷台には不測の事態に備えた医薬品や魔道具の類が置かれてあり、窮屈とまでは言わないが、荷馬車の中は中々の圧迫感がある。
「アルカナの成り立ちっすか?」
特に話す話題を持ち合わせてない私は、ロスウェルにそんな質問をしてみた。
人族と魔族が争っていることは知っている、しかし『人族の希望』などと言われるような物を作ってまで、魔族側の何と対抗しようというのか、そこまでは知らなかった。
「アルカナの成り立ち……つっても、お国が突然決めたっつーか。まぁ元を言えば、魔族側に『魔王』が生まれて、その配下に『魔将』って言う3体の魔物が出てきたからっすね」
「……魔王、だと? 魔神ゼルノアが居ないことを良い事に、勝手なことしてるな」
「でも聞くところによると、魔王に反対する魔族が居ないんだよぉ。それだけ魔王って言うのが強いんだろうし、その魔王を支える魔将っていうのも、かなり強いんだろうね」
なるほどな、だが魔族の代表が4人に対して、アルカナは22人か。
明らかに人族側の方が優勢に見える、しかし、魔族は他の種族に比べてあらゆる能力が優れている、同種族の争いであれば人数差は勝敗を決める大きな要因になるのだが人族が魔族を相手にしての場合は、その限りではない。
「魔王は魔族領の主都『アビス』に、あとの魔将はそれぞれ自分達が統治する国を持っているみたいっすね。人族のオールドクリフ国を相手にやりあってる『防衛前線基地』、あと火山帯に1つ、砂漠帯に1つ、っすね」
ん? と、私はとあることに気づいた。
魔族領は昔から様々な自然環境が合わさっている場所だ。
首都アビスは極寒の雪国、火山の国、砂漠の国、防衛前線基地は数少ない温暖気候の国だな。
そこまで考えて、私は1つの『事実』を思い出した。
それ全部『ゼルノアの家がある場所』じゃないか、と。
魔神ゼルノア、人族にとって恐怖と憎悪の象徴。
しかし実際は、へたれで弱虫で、優しい奴だ。
どれくらい弱虫かというと、私が右手にバッタ、左手に蝉を持って追いかければ、『やめてよぅ!!』と泣きながら逃げ回るくらいの弱虫だ。
しかしゼルノアは類稀なる才能と能力をもって他の魔族を凌駕し、全ての魔族が認める中、『魔神ゼルノア』と崇めらるようになった。
ともなればその威厳を示すための何かが必要だ、そう、住まいとなる『城』だ。
ゼルノアはまず穏やかな気候の平原に城を建てた。
連日多くの配下が謁見に訪れ、魔族領の統治に多忙だった、大変でも自分を慕ってくれる人の為に働くことに喜びを見出すゼルノアだが、そんなあいつに1つの悩みがあった。
『スライム』だ。
スライム、あのスライムだ、駆け出しの冒険者とかが経験を積むために踏み台にする、あの魔族の下っ端、されど侮るなかれ、奴には奴なりの恐ろしさというものがある。
スライムはその液状の身体に小枝や砂利、石からゴミまでなんでもくっつける。
ここまで言えば大抵の人は想像がつくだろう、そう、『城にゴミを撒き散らかす』のである。
始めはゼルノアも、配下に掃除を任せていたが、そんなことをほぼ毎日やっていれば配下のヘイトがスライムに向く訳で、魔族間のいざこざを防ぐ為に、魔神自らがスライム謁見後の掃除を買って出た。
そして魔神は疲れた、大体5年くらい後の事だった。
魔神は敗北したのだ、悪意のないスライムに、敗北した。
ゼルノアは考えた、どうやってスライム達を傷つけずにスライムから逃げるか。
出た結論は『スライムが寄らない地域に引っ越す事』。
ゼルノアは次に火山のある場所で城を築こうとした。
否、火山を強く推した『居城は絶対火山だろ映え重視派』なる派閥が勝手に着手したと言っても良い、しかしここでもまた、魔族達に不運が訪れる。
『噴火による岩石の飛来による労災』だ。
噴火の度に何人もの魔族が怪我をする、なんなら建てた場所から崩れることもある。
長い討議、ゼルノアの建城中止派と『居城は絶対火山だろ映え重視派』の主張は対立の末、完成近くにしてこれを断念することになった。
ゼルノアの次引っ越し先は空に島を浮かせ、そこに城を建てるという『魔神の居城は空って相場が決まってんだろ派』という派閥が進めた。
当時、最も魔術に長けた精霊族に次ぐ魔術の知識のあった魔族は多くの魔法使いの努力によって小さな島を空に飛ばすことに成功した。
結果どうなったかって? スライムに代わって今度は有翼種の羽問題で大変不評だったよ。
空島は砂漠のある地域に降ろしたところまでは知っている、空島の城の周りは恐らくオアシスにでもなってるだろう。
そして最後に建ったのが、『雪国の城』だと言うわけだ。
スライムは寒い所は凍ってしまって苦手だ、当初の狙い通り、スライムが寄ってくることはなくなった。
……と、いう訳で今、魔将か魔王か知らん奴が住んでいる城は『魔神ゼルノアがスライムから逃げる為に作った城』、と言う訳だ。
「スライム達に悪い事しちゃった、よね」
「であれば、引っ越しなどしなければ良かっただろう」
久しぶりにゼルノアを訪ねた私は、あいつとそんな会話をしたことを覚えている。
「うん……で、でも毎日毎日掃除するのはちょっと……」
「ならば仕方ないんじゃないか? 両方選ぶなんて出来ない、なんてことは世の中には沢山ある。……って、そんな悩む程大した話でもないわ」
「でも、でも僕、出来る時は最初の城に戻って、スライム達の話を聞くよ。皆、僕の大事な仲間だもの、僕が頑張れば出来ることなら、それで選べる選択肢があるなら、僕は全部選ぶよ」
「……ま、お前はそういう奴だもんな。好きにしろ、だが無理はするなよ」
へたれで弱虫で、人が好きで仲間が好きで頑張り屋で強い奴、それがゼルノア。
今はもう声も聞くことさえままならない、だからたまにはこうして、あいつのことを思い出すのも良いだろう、な。
いつかまた会えた時は、右手にバッタ、左手に蝉を持って追いかけようか。
「……ふふっ」
「え、今の話に笑う所あったっすか?」




