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01 龍殺しのサイン

耳をすませば、誰かの啜り泣く音だけが聞こえた。

薄暗い、照明も点けず窓から差し込む光だけの部屋。

そんな部屋の中心に置かれたベッドを囲むように、親族らしき人々と、黒い装束にフードを被った青年が立っていた。


ベッドに横たわっているのは男の老人だった。

酷く衰弱しきっているようだが、そのしわくちゃの肌を見ればわかる。老衰だろう。


ベッドを囲むように立っていた、老人の妻であろう女が言った。


「あなた…な、なんで…」


女のその涙ぐんだ声に共鳴するかのように、周囲の人々もまた涙を流す。

ベッド中の老人は、それを愛おしそうに、ただ満足したように見つめていた。


一通り泣き終え、決心がついたのか。

老人の妻が黒い装束の男に声をかけた。


「では、龍殺し様…」


その言葉尻には覇気がなく、言い終えたとたん、また泣き出しそうなほどか細い声だった。


「ああ」


「龍殺し」、そう呼ばれた男が返事をする。

龍殺しは腰にかけていた短剣を取り出し祈るような形で握りしめた。短剣が青く光る。


そして静かに、老人の胸に振り下ろした。


瞬間、老人の胸から鮮血が流れ出る。

一瞬、苦悶の表情を浮かべた老人はその顔を隠すように、また満足したように笑顔を浮かべる。


周囲の親族達もまた涙を流し、声を上げ泣き始めた。


龍殺しは自身が刺した老人を、ただ静かに見つめていた。



************



老人の葬儀は速やかに行われた。

他の大多数の人と同じように、彼の葬儀も淡々と行われ、人々はまた日常へと帰っていく。


一通り葬儀が終わり、龍殺しは宿に戻り短剣を磨いていた。


つい先日まで生きていた老人を刺し殺した短剣。鮮血に塗れていたその凶器は、今は龍殺しの顔を反射し写すほど、輝きを取り戻していた。


「はぁ…」


長い、長いため息をつく。短剣に写された彼の顔には疲労があった。無理もない、今日のようなことは初めてではない。だが、止める気もない。


これは必要なことだ。彼は、いや、彼以外の多くの者も心からそう信じている。

たとえ自分が、今日この世を去った老人と、いずれ同じ結末を迎えることを知っていても。


コンコン

ドアを叩く音に振り向く。


「すみませーん、サインさん?お手紙が届いておりますー」


龍殺しはその、サインという呼び名に反応し手紙を受け取る。手紙の内容を確認し、サインはチェックインを済ませ街を出た。


今度は身の丈以上もある槍を背負って。



************



サインという青年の目的地にはすぐについた。

先ほど葬儀を行なった街からまだ数十kmほどの場所だった。街と街の間隔が広く、街の外に出れば枯れた木や荒れ果てた土地ばかりのこの世界にしては、だいぶ近場であると言えるだろう。


「あれか。」


サインは30m程先の何かを確認し、槍を背から手に持ち替え戦闘の準備に入った。


サインの目には高さ3m、全長にして8mにもなるだろうか。

鮮血のように赤い鱗、骨など容易く砕くであろう牙、そして大地を覆い隠すような大きな翼。

間違いない、龍が写っていた。


龍は何か小さい、といっても龍のサイズからするとだが、ちょうど狩りを終えた所だったのだろうか、鹿のような生き物を喰らっており、周囲の警戒もしておらずサインにも気づいていないようだった。


「小さいな、まだ成りたてか。」


サインはそう言いながら決して龍から目を離さず、そのまま腰にかけた装備を手探りで再度確認する。

予備の武器である短剣、いざという時の逃走用催涙玉、そして左手に握ったままの長槍。


これにて十分、そう判断しサインは龍に向かい走り出す。


1秒と経たず、トップスピードへ至る。


龍は足音からサインに気づき、その大口をひらき咆哮を上げながら飛び立とうとする。しかしサインのスピードを見るに、飛び上がる前に槍の射程から逃げきれない、元々この巨躯を空に飛ばすには時間がかかる。


龍はそれを悟るや否や尻尾での攻撃へと切り替える。

龍の巨躯からの単純な質量による攻撃。当たれば無事ではすまないだろう。


「ふぅっ!!!」


尻尾による薙ぎ払いを予感し、サインは大きく声をあげた。瞬間、青い魔力が彼を覆い、動きが機敏になったように見える。


加速したサインの視界には龍の速度など児戯に等しく、薙ぎ払われた尻尾を自身の槍で地面に突き刺した。


サインの速度は未だ落ちておらず、そのままの勢いで槍を起点とし大きく跳躍した。


空中にてサインはすばやく腰にかけた短剣を手に取り、龍の喉元にある唯一の弱点、逆鱗に向かい突き刺した。


龍は吠えた。首を激しく振るい、未だ刺さったままの短剣とそれをさらに深く、深く刺しこむサインを振り落とそうとした。


しばらくして龍は吠えるのをやめ、とうとう倒れ込んだ。

倒れる寸前、サインは短剣を外し龍から離れ下敷きになるのを回避した。


倒れ込んだ龍を見てサインは手を合わせ祈った。

神を信じているわけではない。ただ、哀れに思った。

祈る以外にこの感情を消化する方法を知らなかったからだ。


気づけば、サインのフードは外れていた。

彼のフードの中には真っ白な長髪が隠れており、黒の装束と相まって、配色だけなら聖職者のようにも見えた。



龍からそう離れていない場所に、小さな小屋があった。看板には「ナシャ・ブルグ」と家主の名が書かれており、外には薪とほっぽり出されたように斧が落ちていた。


サインはその側に、先ほどの龍から切り出した逆鱗を埋め、質素な墓を作り出した。

その墓には

「ナシャ・ブルグ ここに眠る」

と書かれていた。


これが「龍殺し」

サインの日常だった。

初投稿な気がします。

拙い文な気がしますが、温かく見守っていただけると嬉しい気がします。

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