表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/14

第八話 嫉妬と策略


 王宮での謁見を終えたあとも、心のざわめきはなかなか収まらなかった。

 妹とライネルの顔。

 あの場でルークに打ち負かされ、屈辱を噛みしめていた彼らの表情が、脳裏に焼きついて離れない。


(あのまま、終わるはずがない……)


 直感がそう告げていた。



 予感は、すぐに現実となる。


 王宮から塔に戻って数日後。

 街で「魔塔主の妻は不釣り合いだ」という噂が流れ始めたのだ。


 “冷酷なる魔塔主に媚びるために選ばれた女”

 “妹に王太子を奪われた哀れな姉”


 そんな心ない言葉が、人々の口に上る。


 私は直接耳にしたわけではなかった。

 けれど、塔に仕える使用人たちが不安げな表情をしているのを見れば、察するのは容易だった。


(メリアナとライネルが、流しているに違いない……)



「気にするな」

 ルークは静かに言った。

 書物を広げたまま、こちらを見もしないで。だがその声には確かな強さがあった。


「噂など、所詮は噂だ。真実は俺と君の間にある」


「……でも」

 胸が詰まる。

 たとえ彼が強く否定してくれても、心は弱さを抱えてしまう。


「私は、また……足を引っ張ってしまうのではないかと」


 正直に吐き出すと、ルークが本を閉じて顔を上げた。

 青い瞳が真っ直ぐに私を射抜く。


「リリアナ。君は俺の傍にいる。それだけで十分だ」


 立ち上がった彼が、歩み寄って私の肩を抱き寄せる。

 その温かさに、じわりと涙が滲んだ。


「……俺は君を必要としている。誰が何を言おうと、揺るがない」


 耳元に低い声が落ちて、心の奥まで響いた。

 その瞬間、胸の痛みが甘く溶けていく。



 しかし、外の状況はさらに悪化していった。


 ある日、塔の前で騒ぎが起きた。

 見知らぬ貴族夫人たちが集まり、「魔塔主の妻に相応しいか品定めしてやろう」と言い立てたのだ。

 彼女たちの背後には――明らかに、妹メリアナの影がある。


「リリアナ様、決して出てはなりません!」

 使用人が必死に止めたが、胸の奥に怒りが込み上げてきた。


(いつまで、私は陰口に怯えていればいいの?)


 震える足を必死に前へと動かそうとしたとき――。


「下がれ」


 低い声が空気を裂いた。

 ルークが現れ、ただ一睨みで夫人たちを黙らせる。


「塔は俺の領域だ。ここで騒ぎ立てることは許さない」


 冷酷な声音に、夫人たちは顔を青ざめさせて逃げ出した。


 静けさが戻ったあと、ルークは私の手を取り、唇をそっと重ねた。


「君に恥をかかせるような真似は、二度とさせない」


 その誓いが、私を強く包み込む。

 ――どれほどの嫉妬と策略が渦巻こうとも、私たちの絆は揺らがない。

 そう確信できた瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ