王都『ジャベリン』 2
「王都にキメラの魔物?」
ベドラムは、諜報である小型のドラゴンからの報告を受けて困惑していた。
いつも、ベドラムと共に空を飛ぶドラゴンとは別の者だ。
ベドラムは、どのドラゴン達にも魔王である自分と“対等”である事を許し、そう望んでいる。
「私のやり方はまずかったかもしれないが……。いや、先制攻撃を仕掛けたのは、王都の方だ。だが、キメラを放った第三者…………。我々の状況を余計に悪化させる」
<となると、人間達と俺達の関係も余計に悪くなるな>
「最終的には、人間界と魔界との全面戦争を引き起こしたい人物だろうな。私はそれは望んでいないし、人間側全員もそれは望んでいない筈だ。どちらも、多くの血が流れる」
<報告によると、キメラには非戦闘員の女子供の死体も多く使われていると>
「可能な限り、非戦闘員の住んでいる地区の被害は減らしたつもりだ。だが、宿舎にも騎士達の家族が住んでいた為に、ゼロでは無かったらしいがな。どちらにしても、多いのだろう? キメラに使われた材料が」
<多いと聞いている>
「怒りは私に向くな。王都と空中要塞との戦争が引き延ばされれば、人間共の別の国家も介入してくる可能性が高い。キメラを送り込んだ奴は、それを目論んでいる」
<もしそうなれば、どうする>
「当然。私は私自身の為に。そして仲間であるドラゴン達の為に最善の行動を取る。それ以外の優先事項は低い。それだけだ」
ベドラムは淡々と冷酷に告げる。人間と他の魔族達に対して冷酷に。
<そうか。お前の相棒である、ディザレシーにも伝えておく>
そう言うと、諜報員であるドラゴンは空中要塞を去っていく。
†
現在の処、諜報部隊のメンバーも現状が分からないのだと言う。
騎士団の生き残りや魔導部隊は、キメラ狩りを行っていた。
ロゼッタはフリースと一度分かれた後、森に閉ざされた村にあるグリーン・ノームの教会に立ち寄る事にした。
教会は王都の諜報部隊とは別途の諜報網になっていた。
教会で聞ける事があるかもしれない。
ちょうど、天体観測所とは、そう遠くない場所に教会はある。
フリースも何か隠しているかもしれないが、ひとまず竜の女王を擁護する彼女は、今は信用出来ない。なので、ロゼッタ一人で手掛かりをつかむ必要があった。
「竜の魔王を信用するなんて馬鹿げている……」
そもそも、フリースは本当に味方なのか?
というか、前提からして、彼女は人なのか?
フリースは、ロゼッタが幼い頃から、まるで変わらない容姿をしている。魔族には長寿の者や、年を取っても外見が変わらない者達も多いと聞く。
ロゼッタは、フリースに対して疑いの念を持っていた。
そもそも、騎士団の話いわく、フリースは明らかにベドラムと通じている。それを隠そうともしていない。フリースが潔白と思えない以上、充分に彼女を警戒するべきなのだ。
騎士団長のヴァルドガルトいわく、隠密活動、情報収集を行う諜報員達と話し合った結果、キメラの出現のタイミングを考えて、王都かその周辺の村で創られていた可能性が高いのだという。
ならば、キメラを飼育していたり、キメラを創り出していた施設が王都の敷地内の何処かにある筈なのだと。
もしや……フリースが自作自演でキメラを生み出しているという可能性もあるのか…………?
ロゼッタは教会へと入った。
長い金色の髪のシスターが出迎えてくれた。
イリシュだ。
「あら……。教会に何の用ですか……、って、あら、ロゼッタ様っ!…………」
「ごきげんよう。神父と話がしたいの、いるかしら?」
ロゼッタは息を切らしていた。
「ロゼッタ様!? 一体、顔を険しくしてどうされたのですか!?」
イリシュは、かなり驚いている様子だった。
「ねえ、イリシュ。私は、王女だけど。身体を騎士団で鍛えてきた。いずれ、王都と民の為に、魔導部隊にも入るつもりだから……、民の為に今、動いている」
イリシュは少し混乱しているみたいだった。
「本当に、どうされたのですか?」
イリシュはうやうやしく頭を下げる。
「情報に詳しい神父はいるかしら?」
「ええっと、……神父様は、礼拝堂にいらっしゃると思います。何かお話でも?」
「ええ。教会は、村の情報網でもあると聞いているわ。もちろん、商人ギルドなんかもそうだけど、色々な場所をあたってみる」
「何か大変な事があったんですか?」
「ええ。先日、王都がドラゴンに燃やされたのは、この村にも伝わっていると思う。この前も、その事は貴方に伝えたわよね?」
「はい」
イリシュは頷いた。
「ドラゴンが焼いた跡地に、色々な動物を合成させた化け物が沢山現れた。その化け物には人間の死体も使われていると聞いたわ」
ロゼッタは、一瞬、逡巡しながらも、その事実を伝える事に決めた。
「王都の諜報部隊の情報によれば、夜に、何名かの人が、この村の周辺でキメラの姿を見たという情報が入ったの。場所は、多分、森の奥だと思う。村の外の森の何処かで飼われていた可能性が高いわ」
「森の奥ですか……?」
それを聞いて、イリシュは蒼ざめた顔になる。
「やっぱり、危険な怪物が村の周辺をうろついているってまずいわよね。村の人全員に戸締りを推奨するわ。キメラは、魔導部隊の人達いわく、人の身体の素材が使われている個体は、村の封印を破って入り込んでくると聞いているわ」
「いえ。そういう事ではなくて」
「どうしたの?」
「森の奥に行ったエートルが未だに戻ってこないのです…………。まだ、ずっと訓練をしているのだと思います……。そう言えば、あの神父姿の人は何者だったのでしょうか…………」
イリシュは蒼ざめた顔をする。
それを聞いて、ロゼッタは口元を押さえた。
「で。エートルはどれくらいの間、戻っていない?」
「二日くらい前から、戻ってきていないらしくて……。心配で、心配で……」
「助けに行きましょう」
そう言って、ロゼッタはイリシュの腕を強く握り締める。
「私は魔法も使えるし。剣術の心構えもある。エートルを助けに行くわ」
「でしたら、私も連れていってくださいっ! 私の癒しの魔法は、きっと役に立ちますっ!」
「ありがとう。決まりね」
ロゼッタは、少年が、眼の前の少女にとってかけがえのない大切な存在だという事を嫌という程、知っていた。大切な人を想う人間を助けたい。ロゼッタはそれこそが自分の務めだと信じている。
そう、自分もまた、彼女同様に、エートルを助けたいのだ。
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