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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
王都ジャベリン
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王都『ジャベリン』 2

 

 一応、教会の神父、村の商人ギルドなどから情報を得ようと試みたが、キメラに関しては、大した情報は得られなかった。ただ、森の深くまで行く程、危険な魔物が徘徊しているから気を付けろと。

 身軽な服装の王女と、シスターの服を着た少女の二人で、森の奥へと向かっていた。


 途中、巨大なクマや狼の群れに襲われたが、全てロゼッタの水の魔法で撃退していった。水の刃で魔物達を切り刻み、水流で攪乱する。何頭か倒せば、後は逃げていく。


 魔力切れを起こしそうになった時、イリシュがロゼッタの魔力を回復させてくれた。


「傷の手当だけじゃなくて、魔力の回復まで出来るんだ。凄い!」

 ロゼッタは、素直にイリシュの才能に驚いた。

「ええ。エートルも驚いていました。私の才能は将来、重要になるって」

 イリシュは嬉しそうな顔をしていた。


 魔導部隊の回復魔法使い達でも、傷の手当てだけでなく、魔力を回復させる魔法まで使える者はかなりの少数だ。ロゼッタはイリシュの才能に素直に驚いていた。


 しばらく進んでいくと、奇妙な小屋を見つけた。

 人が住んでいるような場所だ。


「こんな処に、小屋が?」

 ロゼッタは首を傾げる。

 戸を叩いてみる。

 鍵は開いているみたいだった。

 

 二人は中に入ってみる。

 確かに人が住んでいる形跡がある。

 中の住民は、外出中なのだろうか。


「ロゼッタ様っ!」

「何?」


 イリシュは、ベッドのあたりにあった布切れをつかむ。


「これ、よくエートルが着ていた服と、その飾りです」

「あら。此処で匿って貰っていたというわけね。後でお礼を言わないとね。不法侵入の謝罪もして。エートルは怪我をして、その治療をして貰ったみたいね」

 そう言いながら、ロゼッタはベッド近くの机にあった包帯と薬草をすり潰して作られた軟膏を見る。


 ふと。

 ロゼッタは地下室へと向かう場所を見つける。

 イリシュなら一般的な常識をわきまえて、何か気になる事があっても他人の家を漁る、といった事はしなかったが。ロゼッタは違った。ロゼッタはお姫様だ。これまで色々なワガママを周りに通してきた。なので、少し一般常識が欠落している部分がある。ロゼッタ自身の元々の性質は正義感が強いので、非常識な行動もあまり周りからしつけられずに許されてきた。それは良くも悪くも働く時がある。


 地下室は鍵が掛かっている。

 地下室の奥から、何か生き物の物音が聞こえる。


「……馬、とかがいたり。養鶏所になっていて、鳥とかを飼っているとかでもなさそうね…………」

 イリシュの眼から見て、ロゼッタは非常識でしかない行動に出た。

 なんとロゼッタは、見知らぬ他人の部屋の中を漁り始めていた。

 

「ちょ、王女様、やめてくださいっ!」

「少し黙ってっ!」

 イリシュは本棚や他のタンスの中かから、気になったものを床に置いていく。


 そして神妙な顔をしていた。


「この書物は王都で禁忌とされている、魔物を使役する為の本。まあ、これくらいなら大図書館の蔵書にもある。で、こちらは人体解剖学、医学関連の本ね。問題は、こちらの本…………」

 パラパラとロゼッタはページを開いていく。

 そこには、人体と人体。奇形の怪物達を繋ぎ合わせていく絵が描かれていた。

 タンスの中にあった魔法の巻き物にも触れる。

 炎の魔法や雷の魔法に混ざって、毒物や幻覚の魔法も混ざっている。中には、人に強烈な恐怖を与えて自殺に追い込む魔法も。他にも拷問用の魔法が込められている巻き物もある。


 ロゼッタは懐から小さなナイフを取り出して、地下室の鍵を無理やりこじ開けていた。


「違っていたら、この部屋の住民に賠償金を出すわ。……でも、黒なら、イリシュ。覚悟して、エートルの事も、今、これから起こる事もっ!」

 地下室の扉をこじ開けたロゼッタは、地下へと降りていった。


 イリシュもロゼッタの後に続く。


 様々な獣の唸り声が聞こえた。

 それに混ざって、人間の赤子の泣き声も聞こえる。

 女の啜り泣き声もだ。


「そういえば、この村でも。王都でも、王都の管理する他の村でも、以前から女子供の失踪事件はあったわね。これに使われていたというわけね…………」


 ロゼッタは魔法の杖を突き付けた。

 イリシュは口元を抑えて蒼ざめた顔をしていた。


 地下室には魔法の鎖によって、キメラが何頭も繋がれていた。地下は深く掘った洞窟が存在しており、その途中にキメラが大量に並んでいた。


「多分、洞窟は地下通路になっていて、王都の近くまで続いているわね。人間一人が出来る労力では無いわね。となると、やはり、此処の住民は魔族。それもキメラを作れ、一人で多種多様な技術も持っている、極めて知能の高い魔族という事になるわね」

 ロゼッタは歯軋りする。


 イリシュは崩れ落ちていた。


「エートルは…………」

「まだ、安否が分からない。とにかく、この家の住民に問い詰めないと……。いや、多分、強力な魔族だから、返り討ちに合うわ。逃げるのが得策だけど」

 ロゼッタは地下通路を指差した。


「何処まで続いているのか見てみよう。罠が張ってあるかもしれないけど、私は諜報員達からも学んでいるから。多少の罠なら、感知する事は出来るわ」


 イリシュの暗い顔が、少し明るくなった。

 とにかく、進むしかない。

 二人は地下通路の奥へと向かった。



 騎士団長、ヴァルドガルトから伝達があった。

 手紙だ。

 内容は、もう一度、話し合いの場を設けたいとの事だった。

 信頼の証として、次元橋ではなく、王都で直々に歓談を開きたいと。


 ベドラムはその手紙を読んで、懐疑心に首を傾げていた。


「どう思う? ディザレシー」


 ベドラムは自らが一番、信頼している相棒のドラゴンに訊ねた。

 いつも、ベドラムをその背に乗せているドラゴンだ。

 黒竜ディザレシーも、少し首を傾げる。


<手紙の詳細をもう少し教えてくれないか?>


「私とお付き人であるドラゴン、二人だけで来て欲しいと。まあ、理由はドラゴンの群れがこれば、民が恐れ戦くかららしいけど」


<どう考えても罠に思えるな。それにこの手紙は本当にあの騎士団長が送ったものなのか? あの騎士団長の筆跡と同じなのか?>


「ヴァルドガルトが書いたかどうかは問題では無いな。脅迫なり何なりされて書かされた、という事もありえるからな」


 ベドラムはしばらく考えた後。

 ディザレシーと共に王都へと向かう事にした。


「罠なら罠で仕方無い。その時は対処しよう。王都にキメラが現れたと聞いている。キメラという怪物を好んで使う奴は、私は一人しか知らない。逆に、奴を始末するチャンスかもしれない」


 そう言って、ベドラムはディザレシーの背中に乗る。

 竜の女王は、直接、次元橋を渡り、騎士団長の住まう王都へと向かった。



 数時間程、経過して、ようやく出口へと辿り着いた。

 

「こんな場所が王都の地下に作られていたなんてね……」

 ロゼッタとイリシュは、地下通路から這い上がる。

 途中、鎖から解き放たれた何体かのキメラに襲われたが、全てロゼッタが魔法で返り討ちにした。イリシュは人間の声も混ざる断末魔に慣れないみたいだった。


 地下通路から出た場所は、山の辺りだった。

 魔力を込められた貨物列車が幾つも隠されていた。これで、王都までキメラを運んで襲撃したのだろう。もし、これだけの事を少数……下手をすると、一人でやっているとするのならば、相当、強力な魔族という事になる。


「ちょうど、この貨物列車を借りて、王都に向かいましょうか。お父様や騎士団の生き残り達、他のみんなに状況を伝える必要があるわ」

 そう言って、ロゼッタとイリシュは貨物列車に乗り込んだ。この列車は、王都の焼かれた廃墟付近へと続いている筈だ。



 エートルは山の頂上付近で、ロック鳥の背中に乗っていた。

 ロック鳥……巨大な鳥だ。


「こういう魔物はてなづける方法があるんです。どうでしょう? 素晴らしい見晴らしじゃないですか」

 神父はそう言いながら、下界を見下ろしていた。

 エートルは本当に見惚れた様子だった。

 そして、ロック鳥は羽ばたきながら、瞬く間に、王都付近の森に近付いていた。


「では。此処で降りましょうか」

 二人は、巨大鳥の背中から降りる。


「では、もう一人で帰れますね?」

 神父はエートルに訊ねる。


「はいっ! ちょうど良かったので、俺は久々に王都を見ていきます。魔法学院の方も。それに先日、騎士団の宿舎が襲撃されたのでしょう? 少し皆様の身が気になって……」


「そうですか。僕は古道具屋に寄っていきます。王都の城下町には、沢山の珍しい巻き物もありますし」

「神父様、本当に、この数日間はありがとう御座いました!」

 そう言って、エートルは深々と頭を下げる。


 そして二人は分かれた。


 神父は一人になって、ぼそりと呟く。


「さて。そろそろ、僕は王宮に向かって、仕込みを行わなければならないね。ヴァルドガルトの筆跡を使って、竜の魔王に手紙を送ったのだから。あれは挑発には乗るタイプの性格だろうからね」

 神父は柔和な笑みを崩さず、王宮へと向かった。


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