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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
絹の道、シルクロード
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絹の道、シルクロード 二人の魔王の戦い。1


 次元橋の会談の場にて、ベドラムとソレイユが高級な椅子に座りながら茶菓子を食べていた。ベドラムはピリピリと引き攣った表情をしていた。対するソレイユは何処吹く風といった態度で甘い一口サイズのケーキを口に入れていた。


 付き人としてベドラムには黒竜ディザレシー。

 ソレイユには人間のメイドであるメリシアがいた。


「ソレイユ。案の定、貴様のせいで、オーガ、リザードマン。ミノタウロス、他もろもろの獣型亜人などの中から、新たに魔王として戴冠したいとか言っている奴らの声が上がっているぞ」


「好きにさせればいいんじゃないかな?」

 吸血鬼の王は飄々とした口調だった。


「魔族同士の戦争になるだろうな。これまでの“魔王という体制”が崩れ去る。人間への当て付けだけだと私個人は思っていたが、先代の魔王達、大魔王とやらが作った秩序は、やはり正しかったみたいだな…………」

 ベドラムは書類に眼を通しながら、怒りまじりの苦笑いを浮かべていた。


「旧体制の魔族の制度が終わる。どうせなら、私は全ての魔族を束ねる大魔王として君臨したいな。ベドラム、その時はお前を私の副官にしてやろう」

 カリカリと、ソレイユは干したプラムを齧っていた。


「私を舐めているのか? 冗談でも面白くないよ」

 ベドラムは茶菓子として出された干しプラムを握り潰す。


「世界征服をするとか君は言い出しただろう。私はかつてのように、魔族を“魔王軍”として一つの秩序を創り上げる必要があると思うんだがな」


 人間であるメリシアは二人のピリ付いた空気に膨れ上がっていた。

 世界征服。

 魔王軍の結成。

 それぞれが人間側にとって、非常にまずい事態になる会議がこの場では行われている。


<付き人は話し合いの場に介入させる為に、付き人を付けさせたんだろう? 吸血鬼の魔王。そこにいる人間のガキの意見が聞きたい。人間のガキ、名前を名乗れ。俺はディザレシーと言う。貴様は何という名だ?>


 黒竜はメイドの少女を威圧的な口調で誰何する。


「わ、わ、私は、メリシアと申します。マスカレイドの闇市場でソレイユ様から拾われました。それ以来、吸血鬼の城にてお仕えしております…………!」

 メリシアは恐怖に震えた声で黒竜に対して答えていた。


 ディザレシーはふん、と唸ると、会談の場の開いている席を見つける。


<メリシアか。名と顔を覚えておく。メリシア、席に座れ。お前も随時、意見を言え>


「そ、それは、わ、私が、に、人間代表として話す事になるんでしょうか?」


<そう言う事になるな。此処に人間はお前しかいないからな。いいから座れ>


 黒竜に恐怖を覚えながらも、メリシアは席に座る。


<メリシア。お前はどう思う? 素直に話せ。別にお前の本音がどうあれ、此処でお前を処罰する者はいないと、俺が保証する>


「わ、私は、ソレイユ様も、ベドラム様も、に、人間が好きなのだという事を知っております……………」


<ほう?>


「ですから。ベドラム様が世界征服の準備をして世界を統治する事を決断した時も、ソレイユ様が魔王として戴冠し、今、魔王軍の再結成を行う事を申し上げた時も、決して、人間達に対して、悪いようにはしないと、信じております…………」


 ベドラムは手を挙げる。


「口を挟むが。この男は人間を利用しているだけだと思うぞ。一部の人間をな。いずれ貴様もこいつの食糧になる事を考えた事は無いのか?」


 ベドラムの言い草に、ソレイユはむっ、と顔をしかめる。


「メリシア含め私の城に仕える人間達をそのように考えた事は無いよ。ベドラム、君も王都ジャベリンもエルフの里の住民達も、戦争の為のコマだと考えていないか?」


「考えていない」

 ベドラムは不快そうな顔になる。


「どうやら我々は互いを信じられなくなったみたいだな………。悲しい事だ」

 ソレイユは深く溜め息を付いた。


<口を挟むが。ベドラムが世界征服を宣言した際に、真っ先に、人間側で潰したい勢力があると言っている。それが歓楽都市マスカレイドと、同盟国であるエル・ミラージュだ。前者は人類の裏社会のマフィア達の拠点。後者は核兵器や溶鉱炉などを保有する“人類の負の遺産”を排出した巨大要塞国家だ。言ってしまえば、この二つの国家は“人類にとっての癌”だ。マスカレイドから裏社会を取り除き、エル・ミラージュから“負の遺産”を取り上げたい。それが我々、ドラゴンの計画だ。ソレイユ、貴様の意見を聞きたい>


「そんな単純な話では無いと思うのだがね」

 ソレイユは小さく溜め息を付く。


<シンプルに言うとだな。我々、ドラゴンはな。人間共は、馬鹿で愚かな生き物だから、魔族の側で統治してやろうって話だ。ソレイユ、お前の方も、方法論こそ違えど、そういう話だろう?>


「…………。これだからドラゴンは考え方が極端だから困るよ。裏社会のマフィア達はね。“普通の人々がそういう連中の存在を望む”から存在しているんだ。それにマフィアの構成員の大半にいる下っ端達は、貧困層出身だ。マフィアの幹部以上になると、王族や貴族関係者も多いが。マフィアは貧困で苦しんでいる人間達に職を与えている。それにマフィアの仕事は農業や商人など、綺麗な仕事も多いよ」


「裏社会のマフィアは必要悪ってわけかよ。私は、どんな悲しい過去、生い立ちがあろうと。生きていてはいけない人間もいると思うんだけどなあ」

 ベドラムは二人の魔王を思い浮かべる。

 ジュスティス。

 リベルタス。

 今後、裏社会の住民に接触していけば、何かしら関わり合いがあるだろう。


「ベドラム君。人間の物差しで物事を図り過ぎだよ」


<核兵器などの“負の遺産”はどうなる? 現状、仮想敵として我々、魔族が存在しているから存続が許されているらしいが。人間側の科学の力が生み出した、大量殺戮兵器などは、魔族ではなく、その大部分が同じ人間に対して使われた。世界各国で、今も核兵器の後遺症に悩み、人間の大国から資源を略奪されている国は多いと聞いているが>


「やはりドラゴンは愚直で物事を単純に解決しようとするから困る。吸血鬼は“人間社会の裏”も熟知している。物事を解決する為に、潰すとか、奪うとか、危険なものを取り上げれば話が終わる、という考えになる」


 ベドラムは露骨に大欠伸をした。


「面倒臭い。ソレイユ。私と一戦交えないか?」

 ベドラムが席を立った。


「ちょっと、刃物と魔法で遊ぼう。貴様と訓練がしたい。私達、どっちも強ければ、大体の事は解決するだろ? それに私は誰かの下に付きたくない。他の種族ならまっさらごめんだ。貴様の副官など本当にお断りするよ」


「君は本当に変わらないね」

 ソレイユはしばし呆れながら、腰元から剣を引き抜いた。

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