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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
世界樹のエレスブルク
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世界樹のエレスブルク 魔王ベドラムVS魔王リベルタス 2


「そうか。どちらが最強の魔王か。どちらが最強の魔族か。雌雄を決するとするか」

「そうだね。ヒルフェ、ジュスティス、サンテの三人よりも、俺達二人の方が頭一つ抜けて強い筈。ベドラム、ずっと俺もお前を殺したかった。人間と対話し、共に生きようとする魔族? しかも魔王? 吐く程、不愉快だったんだ」


 何かが、超高速で周囲を飛び回っていた。

 イリシュは知っている。

 この不可視の攻撃によって、フリースは負けた。

 命中すれば、ベドラムも危ないだろう。

 もっとも、マトモに命中すれば、だが。


 ベドラムは大剣を振るう。

 リベルタスは両腕を無作為に振っていた。


 ベドラムの喉から血が噴き出る。


 対して。

 リベルタスの右肩が爆破炎上して、彼の右半身は見る見るうちに燃え広がっていく。

 彼は苦痛で顔を歪めていた。

 腹立たしく、彼は右手に纏っていたガントレットを投げ捨てる。


「ゴールデン・ブリッジ(黄金架の橋)か。良い名前の魔法だなあぁ! “空間の座標を指定して、そこを爆破したり炎上させたり出来る”。そうだろう?」


「貴様の魔法は、パノプティコン(円形型刑務所)と言ったか。貴様の二つ名の『パペット・マスター』。姑息な事をするんだな」

 ベドラムは大剣を手にしていない左手の方で、何かをつかみ取ったみたいだった。それは小さな虫のような姿をしていた。それはベドラムの手の中で爆散する。


「お前は、動く魔導具使いだな、リベルタス。こんな蠅サイズの虫を飛ばして、爆破させたり、肉を切り裂いたりしている。フリースを倒したのは、そんな攻撃か」

 ベドラムは本当に楽しそうに口元を歪めていた。


「ご名答。俺の魔法は魔導具に命を吹き込む、人型の人形とか石像(ゴーレム)とかにする。まあ、有名だよね。俺の手札はある程度、知られているから、姑息な手も使うさ」


「私の魔法の概要も見破られたか」


「炎使いくらいしか知らなかったけどね。“指定した空間を爆破炎上する”。“魔法防御無視の人体発火現象”。そんな芸当が出来るなんてね」

 爆風でリベルタスの髪がはためく。


「互いの手札を理解した処で。再開するか」


「とっくに再開しているんだなあ」


 地面から、二つの魔導具の剣が現れる。

 リベルタスは両手に剣を構えた。


「竜の王っ! テメェの剣技とやらに付き合ってやるよっ!」


「面白い。そこからどんな姑息な手を使うのか、私は貴様が次の手札を使う前に、貴様の首を落とすとするよっ!」


 リベルタスの生み出した剣がくるくると回転しながら、竜の王を襲う。ベドラムはその剣撃の全てをさばいていく。


 魔力がねじ曲がりながら、辺り一帯に波動を放ち続けていた。

 二人の魔力が渦を巻いている。

 魔力が螺旋状になり、空へと吹き上がっていた。


 これが魔王同士の、最上級魔法使い同士の戦い。

 ロゼッタは二人の戦いをマトモに眼で追えていなかった。


 エルフの集落には山があった。

 それが、一瞬にして、灰燼と化していき、ベドラムの攻撃によって谷へと変わっていた。地形が完全に変わってしまっている。


「ひゃははっははははっはははははっはっ! この森を破壊しているのは、お前の方じゃねえかよおおおおおおおおっ! 人間の味方の魔王様よおおおおおおっ!」

 リベルタスはゲスな笑いを浮かべながら、背中から機械の翼を生やして飛んでいた。


 ベドラムの背中にもドラゴンの翼が生えていた。


「そうだな。必要な犠牲だ。私は最小限の犠牲で、最大の悪を討つと決めているんだ」


 剣と剣が交差する。


「もう少し、荒野の方で戦おう。森の生き物を巻き込む数を減らしたいからな」


 リベルタスの全身が爆破炎上していく。


 リベルタスは全身が炎に包まれながら、自身の魔法を放っていた。

 大量の人型の人形達が現れる。

 それらは銃火器のようなものを構えて、ベドラムに弾丸を撃ち込んでいく。


 ベドラムの攻撃が閃光のようになって、辺り一面を爆撃していく。

 炎は隕石の大嵐となり、次々と人形達を吹き飛ばしていく。


 真っ赤に燃え盛る森を背にして、ベドラムは無情に立っていた。

 リベルタスは押されているみたいだった。


「お前を殺す。ただ、殺すとするよ」


 地面から巨大なゴーレムが現れる。

 とてつもなく巨大な体躯で、小さな山程もある石の巨人だった。


 ゴーレムは巨大な拳を振るう。

 大地に数十メートルのクレーターが生まれる。


 ゴーレムは次々と全身が爆撃されていく。


 ゴーレムの背後に隠れていた、リベルタスの胸がベドラムの刃によって切り裂かれていく。


「ドラゴンはあらゆる魔物の頂点捕食者だ。最強の魔物だ。そして、この私は、そのドラゴンの王だ」


 地面から、再び巨大な腕が現れて空のベドラムをつかみ取ろうとしていた。

 腕が粉微塵に空中で砕け散っていく。


 森全体に炎の流星が降り注いでいく。

 それに対抗するように、次々と石の巨人達が生まれて、ドラゴンの王目掛けて魔力に満ちた砲撃を放っていた。


 そこには純然たる二つの暴力だけがあった。



 遠くでロゼッタは息を飲んでいた。

 魔王ベドラム。

 最強の名にふさわしい力だった。

 王都ジャベリンでヴァルドガルトが少しやり合ったらしいが、本当にジュスティスに力を抑え込まれていたみたいだった。これが本来のベドラムの強さ……。


 世界を一人で征服しかねないくらいの強さだった。


「このまま、勝てますよね……。ベドラムさん…………」

 イリシュは不安そうな顔で、ロゼッタに訊ねる。


「いや。…………このままだと負ける…………」

 ロゼッタは不安げに言っていた。


「ベドラムがどんなに致命傷を与えても、リベルタスは生きている。……何か秘密がある。リベルタスは狙っている。ベドラムの魔力が尽きるのを…………。ベドラムが隙を見せるのを…………」


 イリシュはそれに同意する。

 二人はジュスティスとの戦いを想い出していた。


 強さにも色々な種類があるが、ベドラムの場合は“威力がある”というだけだ。山を谷に変え、国を容易く焼き払い、人間の軍勢など虫を踏み潰すみたいに大虐殺を引き起こす事が出来るだろう。


 だが。

 強力な魔法使い同士の戦いというものは、そういうものではない。


 リベルタスは、ジュスティスと近いタイプの魔法使いだ。

 何か奥の手や、切り札を隠している。



 燃え盛る炎の中から、リベルタスが現れる。

 損傷していく肉体は、何か別の魔法によって破壊されながら修復していっているみたいだった。……おそらく、回復魔法や修復魔法が刻み込まれた魔導具を常時、身に纏っている。


 リベルタスは全身、甲冑の戦士へと変化していった。

 身長も、人間の青年程の姿になっている。

 彼は右手に大振りの槍が生まれている。


 魔導具を極めた魔法使い。

 それが『パペット・マスター、自由の魔王リベルタス』という存在なのだろう。


「いくら焼いても切っても死なねぇな。お前は本当に本体なのか?」

 ベドラムは気付いていた。


 本物のリベルタスは別の場所に隠れており、おそらくは、自分の似姿の魔導具を戦わせている。


 このまま魔力切れを起こさせるのが、彼の戦略なのだろう。


 甲冑を纏った戦士が、槍を振るう。

 槍は伸び続けて、森の木々を薙ぎ倒し、木々の破片が目くらましになる。


 ベドラムの周りには、大量の人型の人形が集まっていた。

 ベドラムは魔力量を抑える戦いに切り替える。

 ベドラムの大剣は徐々に小さくなり、細身の刀へと形状変化していく。


 そして。

 居合い切りの要領で、ベドラムは刃を振るう。


 空間を飛び越え、空間を切断し、甲冑の戦士に刃が刻まれる。

 戦士の頭と胴は切り飛ばされ、斬った場所から炎が燃え盛っていく。


「隠れている本体を見つけないとな」


 ベドラムはダンスを踊るように、一回転する。

 すると、彼女に集まっていた人形兵達が細切れになって切り刻まれ、燃えていき灰へと変わっていった。


「正直、そちらも魔力のストックが尽き始めているんだろう?」


 竜の王は、戦いを楽しんでいた。

 これ程までに高揚した事はいつぶりくらいだろうか。


 王都ではジュスティスにはめられた時に、力を充分に出し切れなかった。腹立たしい、あの男の首をこの手で刎ねられなかった。だが、今は本当に自分は自由だ、これ程までの快楽など存在するのだろうか。やはり、自分は戦を好む魔族の血が流れている。征服者として暴力を振るい続ける本能。


 数秒の思考が致命的になった。


 何処からか放射されていく魔導具から発せられる攻撃によって、ベドラムは一斉射撃を受けていた。全身が酷く痛む。


 追撃として、刃が雨あられのように降り注いでくる。

 ベドラムは自身の刃によって、その殆どを弾き飛ばしたが、刃の一本が彼女の喉元を大きく切り裂いていた。

 喉から勢いよく鮮血が飛び散る。


 …………イリシュと合流しなければ、かなりマズイ…………。


 だがベドラムは、一人でリベルタスを倒したかった。

 どちらが強いのか。

 どちらが魔族の頂点に立ち、無数の魔族達を従えていく魔王として格上なのか自らが知りたかった。


 だが、喉から噴き出る血によってベドラムは地面に膝を付く。

 呼吸が酷く荒い。

 このまま手当てをしなければ、命を落とすかもしれない。

 出血量も酷い。


 追撃として、背中にナイフか槍のようなものが突き刺さる。


 立てない…………。

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