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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
歓楽都市マスカレイド
25/109

歓楽都市マスカレイド マスカレイドの戦い。2


「どうするんですか?」

 アリジャが訊ねる。


「海の上で奴を始末する。此処からは完全に賭けになるけど、奴の魔力総量とスクロールの数を見ていたら、こっちは消耗戦で負ける。なら…………」

 ロゼッタはみなに作戦概要を伝える。


 海上をドラゴンが飛び続けていた。

 明らかに船より移動速度が速い。

 もはや、ジェットエンジンと言っても過言ではなかった。

 ドラゴンの背中からは、透明なカプセルのようなものが作られ、四名が振り落とされないようになっていた。


「行先は、セイレーン達のいる海峡。……手綱が無くてもいいのね。もっと飛ばして、奴は絶対に追ってくる」


 後ろを振り返ると、案の定、ジュスティスがグロテスクな姿のキメラに乗りながら四名を追っていた。大量の人間の赤子の顔に、背中が奇形の人間の腕のようになっている翼を生やしている。ドラゴンに追い付く異様な速度が出ている筈なのに、ジュスティスは悠然とキメラの上に立っていた。


 何度か、ジュスティスの魔法のスクロールから稲妻の魔法が飛び出してきて、四名を海の藻屑にしようとする。だが、四名は距離を離していった。


「大丈夫でしょうか……」

 イリシュは不安げに言う。


「賭けに出るしかない。じゃないと、どのみち奴は倒せない」

 

 海上でどれくらいの時間が経ったのだろうか。

 四人は消耗を始めていた。

 やはり、距離が遠い。

 加えて、ジュスティスの追撃によって、何度も撃ち落されそうになっていた。


 歌声が聞こえてきた。


「来たわ」


 セイレーンの海峡だった。

 そして。


 あの海の化け物の…………。


 稲光が、辺り一面に落とされていく。


 ドラゴンの背中に一部命中する。

 ドラゴンはそのまま、海に墜落しそうになる。


「どうする? こんな処まで来てっ! 王女様、あんたの言う作戦なんて…………っ!」


「賭けだって言っているでしょっ! 駄目だったらこのまま海の藻屑になるしかないわよっ!」


 だが、その稲光によってセイレーン達が泣き喚き、遠くで霧と渦潮のようなものが現れた。


「あの巨大なクラーケンに倒して貰うわっ!」

 

 散弾銃のようなものが雨あられのように降り注いでいく。

 海上での逃避によって、すっかり四人とも疲れ切っていた。


「何をしようとしているか分かりませんが。そろそろ海の藻屑となるのがいいでしょうね。死体は僕が回収して再利用させて戴きますよっ!」

 ジュスティスはなおも余裕だった。


 だったが。


 海の奥から、巨大な触手がジュスティスのキメラを締め上げる。


「はあ?」

 ジュスティスは裏返った声を出す。何が起こったのか分からなかったみたいだった。


 続いて、別の触手がジュスティスの全身を海へと叩き落とす。


 この辺りの海域の王である巨大クラーケン「アルクォン・シエル」。

 どうやら、ジュスティスは、その海域の王の怒りに触れたみたいだった。


 イリシュは、ドラゴンの翼に回復魔法をかけて撃墜されるのを防ぐ。

 ジュスティスの攻撃が当たる度に、同じ事を繰り返していたので、イリシュの疲労は限界だった。

 

 ロゼッタは自らの魔法によって、アクアリウムの世界を創り出していた。マスカレイドに来る前、この魔法によってロゼッタはクラーケンに敵意が無い事を、自らも眷属である事を示した。


 ジュスティスは海中深く沈んでいく。


 遠くでは、巨大なクラーケンの影が見えた。


「倒した、のか?」

 ザートルートは少し困惑する。


「魔力が減っていない…………。海中で生きているっ!」


 ざぱり、と。

 倫理の魔王が海中から這い上がってきた。


 その姿は異様なものだった。

 全身が水と一体化し、半分、どろどろに溶けていた。加えて巨大な触手と肉体が融合している。どろどろ、と、触手は崩れていく。


 ロゼッタはその光景を見て、魔王に訊ねる。


「ジュスティス。キメラを生み出す魔法はスクロールとか、魔導具とかの効果ではなくて。貴方固有の魔法。加えて、貴方は無生物、生きた生物と自らの肉体を一体化させる、それを切り離す事も可能。違う?」

 ロゼッタは訊ねた。


「よく、そこまで理解したね。僕の魔法を…………」

 ジュスティスの顔からは、余裕の表情が無くなっていた。


「ある程度、的中している、という処かしら? 貴方の手札を晒す事が出来た。加えて、こちらの味方には海の王が加わったわ。いくら悪名高い魔王と言えども、かなり不利な筈ね」

 ロゼッタは更に、自らのアクアリウムを濃くしていく。

 空全体にも、海が生まれる。

 クラーケンは、更にジュスティスを敵と見なすだろう。


「僕が此処で終わると思うのかい?」

 ジュスティスは悔し紛れに笑っていた。


「少なくとも、私は貴方を此処で殺したいと思っているわ」

 ロゼッタの言葉に、イリシュも頷いた。


 海の中に巨大な渦潮が起こる。

 ジュスティスの全身が渦潮の中に飲まれていく。


「これで終わるつもりは無いよ。後、ふふっ。手土産を用意してやる」

 ジュスティスは、懐から刃物のようなものを飛ばした。


 それは鳥のように飛び、軌道を変えながらザートルートの魔法を掻い潜っていった。


 そしてあろう事か…………。


 ドラゴンの周りに張り巡らせた防御魔法と、カプセルを突き破り、刃はアリジャの胸元を貫いたのだった。

 イリシュはそれを見て愕然としていた。

 アリジャは倒れ、動かなくなる。

 イリシュは彼女の傍によって、泣きじゃくっていた。


「ああああああああああああっ! ああああああああああああっ! エートルッ! エートルッ! ああああああああああああああああっ! あああああああああっ!」

 ありったけの回復魔法を、イリシュは涙をこぼしながらアリジャに浴びせ続ける。


「エートル…………?」

 ザートルートは困惑。

 

「多分、イリシュは、アリジャをジュスティスに殺された婚約者の姿エートルと重ねている……イリシュ、お願いだから取り乱さないで…………。ジュスティスはまだ死んでいない…………っ!」

 ロゼッタは、ひたすらにただひたすらに、自らの魔力を練り上げていく。

 これで全てが終わってもいいというくらいの想い。

 ジュスティスだけは殺す。

 ただ絶対に殺す。


 渦潮に飲まれながらも、ジュスティスは自らの肉体を水や大気と“混ぜる”事によって、浮上しようとしていた。


「誰もお前を許さない。私はベドラムから聞いた。お前はベドラムの大切な人も殺したんだと…………」

 ロゼッタは自らの魔法のありったけをぶつける。

 空中に、巨大なサメが大量に浮かんで、ジュスティスへと襲い掛かっていく。


 サメに喰われる瞬間、同時に、ジュスティスは巨大な触手によってつかまれて、巨大な深淵のごとき口の中へと放り込まれていった。


 後には静謐と、イリシュのすすり泣く声が聞こえていた。

 どうやら、アリジャは生きてこそいるものの、胸に突き刺さった刃が肉体と融合しており、意識を取り戻せない状態にあるみたいだった。


「どうする? どっちに向かう?」

 ザートルートは訊ねる。


「マスカレイドには戻れない……。オリヴィとはジャベリンで合流すると約束してる。もうドラゴンも体力も持たないだろうし、何より、海岸でヒルフェの兵隊に囲まれていたら、戦う力は残されてない…………」

 そう言うと、ロゼッタも、倒れるように気を失った。


「助かる…………。俺も、もう疲れ切っている」

 ザートルートもどっと倒れていた。


 ドラゴンは遥か彼方の王都ジャベリンを目指して飛んでいった。

 後には、巨大な大渦と海の王の気配だけがあった。

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