表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
歓楽都市マスカレイド
23/109

歓楽都市マスカレイド 逃走経路。


「それにしても面白い。あの小娘達に逃げられましたか」

 ジュスティスは、くっくっ、と嘲り笑いを隠し切れないみたいだった。


「無能な者に雇われるのは、魔王としての矜持が崩れるものでしょう。どうです? ヒルフェ。この僕と同盟を結んでみては?」

 倫理の魔王は、薄ら笑いを浮かべながら本当に楽しそうな顔をしていた。

 おそらく、邪悪なアイデアを思い付いたといった顔なのだろう。


「心配いらん。私はビジネスを第一に考えている」

 ヒルフェは無表情だった。

 きっと、自らの雇われ主が手酷い傷を負い、不名誉な事になったとしても何とも思っていないのだろう。ヒルフェには彼自身の目的があるように見えた。


「あの王女。ロゼッタは私と戦った時よりも力を付けていた。ああ、どうでしょう。こんなにも楽しい事があるなんて、人間ごときに魔王と呼ばれる我々が遅れを取るなど」

 

「血の復讐をさせて貰う。雇われ主から刺客を差し向けるように言われている」

 ヒルフェは闇の中へと消えた。


 一人残ったジュスティスはあらゆる魔法のスクロールを手にしながら、計画を練っていた。



 オリヴィとアリジャはお互いに顔を見合わせる。

 そして、互いに抱き締め合った。


「生きていてくれて本当に良かった」

「こちらこそよ、オリヴィ…………」

 二人共、泣いていた。


 ロゼッタとイリシュは、そんな二人の光景を見ながら微笑ましい顔をしていた。


「さてと。夜明け前には、此処が襲撃されると思うから。私達は逃げる準備を整えないと。マスカレイドから、ジャベリンへ向かう船の次の出航日は?」


「五日後だよ…………」

 オリヴィは困った顔をする。


「じゃあ五日間、潜伏しないといけないのね。もしかして、船は密航、という事になるのかしら? 正規で行ければそれでいいのだけど」

 少し傍若無人な表情で、反省が無さそうなままロゼッタは悩んでいるような態度を取る。


「そうだね。船のチケットには名簿がある。ロゼッタ王女、アリジャ。君達は思いっきり指名手配されていると思うよ。マスカレイドにおいて、シンチェーロと繋がりが無い場所なんて無いからね」


「やはりそうなると密航ね。あるいは、マスカレイドの大陸から別の国に向かうのは?」


「別の国に行くには身分証の提示が必要だし、密航となるとリスクしか無いよ。やった事がやった事だけに、最悪、船内で処刑。君の魔法は、幻覚を生むものでも、透明人間になるものじゃないだろう?」


「正確には私の魔法は幻覚じゃないし、実体化させたり、召喚させたりしているんだけど…………。まあいいや」

 ロゼッタは大きく溜め息を吐いた。

 

「ねえ。また、私、何かやっちゃった?」

 ロゼッタは今更になって、少し困った顔を始める。


「いや、最高だ。跪いて礼を言いたいくらいだよ」

 オリヴィはそう言いながら、涙で腫れた眼をこすっていた。


「それにしても、あのハゲ親父。そんなに偉い人間だったわけね。腹立つし顔も発言も気持ち悪いから、鈍器で思いっきりぶん殴っちゃった」

 

 正確には左ストレートで顔面を殴り付けていたのも見ていたアリジャは、あえて黙る事にした。


「……やっぱり、ロゼッタ様って常識がちょっと無いですよね…………。その、庶民の感覚とズレているというか」


「私は厳しく、お母様の雇ったメイド達から礼節をしつけられました……」

 アリジャがぼそりと言う。


 イリシュは思わず、吹き出す。


「でも、お話を聞く限り、やっぱりロゼッタ様、格好いいです。ジュスティスの実験場を探索した時も、迷わず行動してましたし」


「そう。ありがとう。でもまあ、ひとまず…………」

 ロゼッタはベッドに座って、考え込む。

 駆け引きは苦手だ。

 

 シンチェーロとヒルフェを敵に回した事は言った。

 だが、もう一つ。


「その魔王ジュスティスだけど。ブラック・マーケットで会ったわ。話を聞く限り、別にハゲ親父のマフィアの味方ってわけでも無さそうだけど。好奇心や私達への悪意で、介入してくるかも」


 ジュスティスの名前を聞いて、イリシュの表情が変わるのが分かった。


「奴が、此処に来ているのですね……っ!」


「そうね。その件に関しては、奴の方も戸惑っていた。元から私達に先回りして動いたつもりでは無かったみたいだけど。でも、奴の性格なら…………」


 ロゼッタはそう言い掛けて、窓がこんこんと叩かれる音がする。


 全員、戦闘態勢に入った。

 ロゼッタとオリヴィは前衛。

 アリジャも魔法のスクロールを構えていた。

 イリシュは三名が負傷した時の事を考える為に、なるべく背後に引く。


「おいおい。ちょっと、待って。味方だ、味方」

 少し気弱な声が聞こえる。


「本当に味方なの? 味方かどうかは私が決める」

 ロゼッタは攻撃魔法の準備を行ったまま、窓の鍵を開いた。

 ヒルフェの追手と判明したら、即座に水の刃で迎撃するつもりでいた。


 出てきたのは、吸血鬼の青年だった。


 少し苦労人そうな顔をしながら、部屋の中へと入る。


「俺はベドラム様の使いの者だよ。ロゼッタ王女様、あのお方の命令であんたらを助けるように言われてる」


 ロゼッタは攻撃魔法の手を止めなかった。


「ベドラムの使いであるという証明は?」

 

「あー、ほんと、話が通じねぇーなー。聞いた通りだぜ。俺の名はザートルートって言う。…………、あ、此処が分かったのは、俺は吸血鬼だから、以前、王宮で採取したイリシュさんの血で匂いの痕跡を辿ってきた。…………、おい、イリシュお嬢ちゃん、ちょっとドン引きした顔しないでくれよ…………。単なる吸血鬼の能力の一つなんだから」

 

 イリシュは明らかに引いた顔をしていた。


「まあいいわ。貴方の事は信じる。それで、私達の状況、何処まで分かる?」


「何も分からねぇーよ。教えてくれ、魔王ヒルフェに力を借りに行くんだろう?」


「その魔王ヒルフェを敵に回した。ちなみにこの国の裏の王であるシン……、名前なんだったっけ? まあ、マフィアのボスのハゲ頭も敵に回した。それで正直、私達かなり詰んでいる」


 ザートルートは当然のごとく、ドン引きしていた。


「あんた…………。ベドラム様並に傲岸不遜だな」

 吸血鬼の青年は、言っている事の意味を理解して呆然とした顔になっていた。


「王女として、箱入り娘で甘やかされて育ったからね」

 ロゼッタは少し不貞腐れていた。


「でも。大体、あんたらがやらかすだろうからって、お考えで、ベドラム様は俺を使わせたんだぜ。ちなみにドラゴンに乗ってやってきた。幻影の魔法を使えるドラゴンだよ。此処から逃げ出すなら、船より早い筈だぜ」


「そう。ありがとう。じゃあ、さっそく四人で逃げないと」


 オリヴィはロゼッタの肩に手を置く。


「何? オリヴィ?」


「……敵がやってきている。最低三、四名。…………悪いと、十名以上に囲まれているな。窓の外は不審な気配でいっぱいだ……」


「どうするの?」


「俺が囮になる。そう言えば、俺の魔法を教えていなかったな。海上じゃ使えないけど、この場所なら存分に使える。俺が攪乱しておくから、三人で逃げてくれ」

 オリヴィは少し冷や汗を流しながらも、確固たる自信に満ちた表情をしていた。


「オリヴィはどうするの?」

 アリジャが訊ねる。


「最悪の場合、俺を置いて先に行ってくれ。場所はジャベリンなんだろ。そこで合流しよう」

 マスカレイドの王子は、迷いも無くそう答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ