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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
歓楽都市マスカレイド
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歓楽都市マスカレイド ブラック・マーケット


 ……どうやら、イリシュとオリヴィの二人は夜の街に遊びに行ってしまったらしい。


「また私の金を使ったら、利子を上乗せしておくか」

 ロゼッタは一人、夜の街を歩く事にした。

 逆に好都合だったのかもしれない。

 ロゼッタは単身、ブラック・マーケットに潜入するつもりでいた。

 そこでは、奴隷市場があったり、違法ドラッグや危険な魔法のスクロールも高値で売られていると聞く。


 闇の市場である、ブラック・マーケットに潜入する事が出来れば、悪魔ヒルフェに近付く事が出来るかもしれない。既に、マーケットの地図は入手している。


「会員制だと聞いたのだけど…………」

 ひとまず、向かってみてから考えようと思う。


 この国では王族特権みたいなのは通じないだろう。

 裏社会に潜り込むとなれば確実だ。

 別に今日、潜り込めなくても構わない。

 少しでも、ブラック・マーケットの情報を得られればそれでいい。



 そこは地下通路になっていた。

 会員制とは言ったが、あくまで物品の競り落としのみの権利で、入場自体は入場料を払えば誰でも入れる場所らしい。

 入口で、ロゼッタは門番から身分と姿を隠す仮面とローブを渡された。


 マーケットの奥へと入っていく。

 ライブハウスみたいな場所もあって、楽器の演奏がなされている。どうやら、出入り口の辺りはキャバレーになっているみたいで、みなでダンスを踊ったり、酒を飲んだりしていた。


 おそらくVIP客専用の出入り口が存在するのだろう。

 まあ、それはいい。

 とにかく、此処を見ておかなければならない。


 マーケットはまだ開催されていないみたいだった。


 ロゼッタは絶句していた。

 そこには本来のマスカレイドの姿が浮かび上がっていた。


 途中、牢屋が幾つかあり、珍しい生き物や、明らかに人間の子供や美しい身なりの女などが牢に入っていた。こういう事をしているのが魔族でなく、人間だという事にロゼッタは吐き気を覚えそうになる。辺境の森林の奥からさらってきたのか、エルフの少女もいる。檻の中には、獣人の少年少女もいた。


 そう言えば、此処では映像魔法によって空中に映像を映し出す事が出来るポルノも沢山、販売されているらしいが、無修正で、スナッフ・フィルムめいたものも多いと聞いた。


 マーケットの席に向かう最中に色々な商品が売られていて、どれもこれも吐き気を催すものばかりだった。

 違法薬物や違法改造した銃火器武器などならまだマシだ。

 ありとあらゆる胸糞悪い商品が揃っている。

 

 ……これが人間のやる事なの?

 ロゼッタは少し曇った表情になる。


 少なくとも、王都ジャベリンの民達の多くは清廉潔癖な者達ばかりだった。自分達の国は他の国に誇っていい程に温かい国民性だ。


 だがこの歓楽都市マスカレイドに着いて……。


 ……いや、これは私が成長する為の旅なんだ……。汚いものもちゃんと見ていかないと……。


 目的の為に悪魔ヒルフェに取り入る必要がある。

 人間の善と悪について学ぶ旅でもある。


 魔族を知る事、ベドラムを知る事、フリースの正体を探る事。

 そして、宿敵を倒す事。

 必ず、此処に訪れる必要がある。


 マーケットの競り落としの会場に辿り着いた。


 客達はみな仮面を付けていた。

 この会場では必ず仮面を付ける事を厳しく咎められるのだと言う。

 おそらく、この国含め、様々な国の貴族や下手をすると王族達がマーケットの中には集まっているのだろう。


 ぞくり、と、悪寒がした。


 忘れない…………。

 この気配は覚えている…………。


 間違いない。


 右斜め前方の男。

 真っ黒な装束を身に着けている。

 以前、会った時の神父姿の格好じゃない。


 ロゼッタは自らの仮面をはぎ取った。


「何故、貴様がいる? 倫理の魔王っ!」

 ロゼッタは容赦なく攻撃魔法を撃つ事を考えていた。


 呼ばれた仮面の男は、仮面をズラして、少しだけ顔を見せる。


「くくっ。まず、この会場で仮面を取るのはマナー違反だよ。その無礼は詫びて貰おうか。そしてすぐに仮面を付け直したまえ。それにしても、僕としては本当に面白い」

 男はロゼッタを睨み付ける。


 ロゼッタは言われた通り、仮面を付け直す。


「仮面か。確かに…………。おっしゃる通りね。此処のマナーは守らないと……。でも、私は貴方を殺しに此処に来た。他の事に関しては守れない約束ね。魔王ジュスティスッ!」

 こいつは見ていて何から何までむかむかと腹が立ってくる。


「……殺してやる」

 ぼそりとロゼッタは呟く。

 あれから数多くの王都ジャベリンの民が、キメラの材料にされていた事が発覚した。キメラになりながら苦しみ悶え生き続けている者達を、騎士達や魔法使いは殺し続けている。絶対に許せない…………。


 ロゼッタは杖を取り出して、倫理の魔王に向ける。

 水の刃は、いつでも放つ事が出来る。

 眼の前の宿敵を切り刻む事が出来る距離だ。


「煩わしいな…………。しかし、此処の支配権は僕には無いのだよ。そして、僕からも聞きたいね。何故、此処にいる? 王都ジャベリンの王女様」

 ジュスティスは、本当に不可解といった口調だった。


「それに関しては同意見ね。私はある時間魔導士の助言で、この街に来るように言われたわ」

 ロゼッタは、ジュスティスを睨み付ける。


「時間魔導士、フリースだったか? ……彼女は何を考えている……っ!?」

 ジュスティスは意外といった言葉を口にした。

 いつも人をひたすら小馬鹿にしている彼から、戸惑いのようなものが見えたような気がした。


 ロゼッタも同意だった。


「そうね…………。フリースは何を考えているの? 私はお前を倒す為に、此処に行けと言われたんだ」


「僕が聞きたいな。何を考えているんだ? 時間魔導士フリースは? 笑える事極まり無いが、王女様をこの僕の下に差し向けた、というわけか」

 ジュスティスは思わず笑いを堪える。


「まあいいさ。王女様。警備員が来る前に杖を降ろしたまえよ。君の相手は後程、やってあげよう。此処で問題を起こすのはお互いにとって不幸な目にしか合わない」


「まあ、そうね」

 ロゼッタは頷き、魔法の杖を降ろす。


「ただ、一つだけ。僕はフリースの事は何も知らないし、彼女が何を考えているか分からない。それにしても困ったな、僕も君を殺したくなってきた。ああ、そうだね。君達は本当に面白いオモチャだからね。後ほど、再戦に付き合ってあげよう」

 そう言うと、ジュスティスは会場の奥の方へと消えていった。


「……私を、馬鹿にしやがって…………」

 ロゼッタはわなわなと杖を握り締めていた。

 自分がドラゴンの女王と同じくらいの強さがあるなら、こんな会場ごとぶち壊して、ジュスティスに挑みかかっただろう。

 こいつのせいで、沢山の故郷の者達が死んだ。

 キメラに改造された。

 イリシュの恋人も…………。

 ロゼッタは奥歯を噛み締める。


 ロゼッタは宿敵が眼の前にいるのに攻撃魔法を撃ち込めない歯がゆさを前にしながらも、ひとまず、此処で何がオークションとして売られるのかを見届ける事にした。


 ……私は故郷の王都の事しか知らない。人の悪も見ておかなければ…………。

 自らの両頬を弾く。

 ジュスティスはまるで慌てていなかった。


 この場にイリシュがいなくて、本当に良かったと思う。

 イリシュはもっと心穏やかでは無かっただろう。



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