歓楽都市マスカレイド
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歓楽都市マスカレイドに辿り着いたロゼッタとイリシュは、まず、まるでこの都市を象徴するかのように港町に建てられた巨大カジノだった。
それは巨大な摩天楼であり、全二十階建てのビルだった。夜には、ビル全体がネオンライトで光り輝くとの事だ。
「うちの国家って、その…………文明が遅れていたんですね……」
イリシュは王女が聞いたら憤慨ものの発言を思わず、口にしてしまう。
案の定、ロゼッタは顔を真っ赤にしていた。
「凄いだろう。この国はっ!」
オリヴィが楽しそうに言う。
「この国は巨大銀行も存在する。世界中の金融を仕切っていると言ってもいい。剣や槍、弓矢から、あらゆる銃火器の貿易も仕切っているよ」
まさに大国だ。
そう言えば、この国に辿り着く前に、フリースから世界を見てきて欲しいと言われたか。ロゼッタは自国の事もよく分かっていなかった。なら世界中の人々の住まう国の事もよく分からない。
「まあ…………。私達は田舎娘って処かしらね…………」
王都ジャベリンの王宮よりも大きな巨大カジノのビルを通り過ぎると、街中には様々な行商人がいた。露店が並んでいる。露店には宝石や服、小物や食べ物など様々なものが売られている。
この国の中央にある『黄金宮』には、マスカレイドを統治している王の城がある。
ロゼッタとイリシュは、観光客用のパンフレットを眺めていた。
ひとまず、宝石博物館なるものを見る事に決めた。
「まずは宿探しね」
ロゼッタは溜め息を付き、オリヴィを睨む。
「部屋、別だからね」
ロゼッタは、この軽薄な男に釘を刺す。
「はいはい、っと」
オリヴィはつまらなそうな顔をする。
「後、それから、今までの借金ね」
そうロゼッタは軽薄な青年に見せる。
オリヴィは数字を見て、口元をひくつかせていた。
†
街を歩き回った後、夕方には宿を見つけた。
比較的、安い宿だったが、かなり清潔だった。
部屋を二つ分取る。
「私達の王都の銀行口座って、この国で引き出す事が出来たのね…………」
結局、ロゼッタは、口座から改めて引き出す事になった。
財布を見ると、街を巡る為の軍資金が不足していたからだ。
「それにしても、スカイオルムでもそうだったけど。実質、遊び歩いていていいのかしら?」
ロゼッタは首を傾げる。
「フリース様が言っていたじゃないですか。世界を見に行けって」
イリシュは笑う。
「でも。一応、この国でやる事は陰謀の魔王ヒルフェと利害関係を結ぶ、よね?」
ロゼッタは神妙な顔をする。
「それは…………」
イリシュは凄く言いづらそうな顔をしていた。
実は、ロゼッタに政治交渉などまるで期待されていなくて、あくまで魔王ヒルフェの件に関しては口実なのだと。みなで集まった作戦会議はあくまで体裁で、本当は王女に“世の中を広く見て欲しい”というのが旅の目的なのだと。そうイリシュは、フリースから聞かされている。
「まあ。私じゃ役不足かもしれないけど。それでもやるだけの事はやってみるわ」
ロゼッタは、イリシュの表情を見て確信する。
“フリースは自分を低く見積もっている”。
ロゼッタは自分が世間知らずで、ベドラム程ではないにしろ、傲慢でワガママな性格をしていると自らを分析している。多分、それは周りからもそう思われている。
そして、ベドラムは自分と違って、自らの考えを押し通す実力を備えている。
自分が役に立つかどうかを証明しなければならない。
……フリースを出し抜かなければならない。
ベドラムとの共通認識だった。
フリースの真の目的が分からない。
彼女の目的は、人間に都合の良いものなのか。本当に人間と魔族を和解させたいだけなのか。裏の目的があるんじゃないのか。
魔王ヒルフェと政治的交渉を結ぶ。
それは、王都ジャベリンの為ではなく。むしろ、ロゼッタ自身にとって必要な事だった。ヒルフェには無数の暗殺者と諜報員を持っている。何かフリースに対しての情報を得る事が出来るかもしれない。
……イリシュは時間魔導士フリースを完全に信用している。フリースの正体を探る事には興味を示さないかも。
歓楽都市マスカレイド。
船で調べた事前情報によると。
この都市の夜は、騙し合いによって成り立っているとも聞いた。
当面の目的は宿敵であるジュスティスの打倒。
そして、フリースの正体と真の目的の調査。
この二つという事になる。
この広い都市で何か目的に近付く事が出来るのだろうか。




