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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
海上都市スカイオルム
18/109

間章 大食い大会。

 ロゼッタ達が船旅をしている頃だ。


 真紅の空中要塞では魔族と人間の親睦の為に「大食いパーティー」なるものが開催されていた。


 ドラゴン達が見守る中。

 世界中から様々な魔族が歓待されていた。


 ミノタウロスやスケルトン。リザードマン、ヴァンパイア。

 様々な種族が集まり、パーティーに並べられたものを口にしていた。


 人間はというと、王都ジャベリンを中心に人々が集められていた。

 人々は、友好的に接する魔族に対してどう接すればいいか分からないみたいだった。


 また牛肉を口にしないミノタウロス、人の生き血のソテーを口にしているヴァンパイアを見て、食文化について混乱しているみたいだった。


 人間代表である時空魔導士のフリースは、魔族代表である竜の女王ベドラムと「巨大パフェ」を食べるという「大食い勝負」の戦いを繰り広げていた。


 フリースの眼の前には、六十センチはあるメロンが添えられた巨大パフェが置かれている。

 対するベドラムの前には、六十センチはあるイチゴとクランベリーの巨大パフェが置かれている。


「人間風情が、私に勝てると思うなよっ!」

 ベドラムはパフェを貪り食らう。


 対するフリースは余裕の表情でパフェを機械的に口の中に放り込んでいった。


 両者共、一杯目は完食する。

 二杯目が運ばれてくる。

 ベドラムは食べている途中で顔色を悪くして、口元を抑える。


「無理だ。……勝てん…………」

 ベドラムはギブアップする。


「いや、もうこれ以上、食ったら腹の中から濁流がだな…………」

 ベドラムはプライドが高い。

 周りに濁流の後をとても見せられはしないだろう。

 

 対するフリースは余裕で城壁のように切られたメロンがそそり立つ二杯目のパフェの完食に成功していた。


「私の勝ちねっ! あ、これ、三杯目お願いっ!」

 フリースは余裕の笑みを浮かべながら、パフェと一緒に高級ワインを注文していた。出されたパフェにワインを注ぎ込み、味を楽しんでいる。


「あいつの胃袋はブラックホールなのか?」

 ベドラムは口元と腹を抑えながら、人間の魔導士男性に訊ねる。


「フリース様はお酒もよく飲まれますからね…………」

「酒も強いんだな……」

「よく王都の城下町で夜のランプの明かりの下、その……路上で吐かれていましたが…………」

「酒の飲み方も知らんのか?」

「よく王都の会議中でも酒を飲んでおられます」

「あいつ、一応、肩書は偉い役職だろ!?」

「よく重要書類を酔った勢いで破ったり、燃やしたりするので。フリース様に渡す分は完全にコピーを取っております。後、会議の場でその…………いきなり壁に嘔吐を…………」

「王都の国王は何をしている? マトモに教育しておけよ……」

「国王様がお若い頃。フリース様が養育係をしておりまして……」

「黙らせる奴を付けておけよな。他に人材はいないのか?」

「ちなみに王都の国家予算にも、フリース様は関わっております。王都の予算ですが…………フリース様の、我ら魔導部隊でもよく分かっていない魔法の研究予算に、民の税金がかなり使われております…………。フリース様は、国家予算を着服し、世界を放浪する為のバカンスに使われた事が何度もあります」

「もうフリースにも乗っ取られてるじゃねぇか、王都ジャベリンはっ!」

 ベドラムは呆れを通り越して笑うしかなかった。

 彼女に話しかけられた魔導部隊の若い魔法使いも、苦笑いで返していた。


 四杯目の巨大メロンパフェを食べ終わった後、フリースは度数の高いブランデーを一気飲みしていた。その後、地面に寝っ転がって大いびきで寝始める。


 空には花火が放たれていた。

 花火は万華鏡のように形を変え、虹のように色取り取りに変化していく。

 


 騎士団長ヴァルドガルトが花火に見入っていた。

 隣に、優雅にワイングラスを口にしたベドラムが立つ。


「綺麗なものってのは、普遍的に人は好むらしいな。魔族の間でも種族を超えて、それは共通するらしい」

 ベドラムは空を眺めていた。


「わたしは……。魔族を認めたわけでは無いぞ……。吸血鬼共は、人の血をワインにしていた…………」

「それは仕方が無い。最近では、人殺しをしないように、有志から血を売って貰っているらしい」

「やはり、人と魔族の文化は相容れないものなのだな…………」

「正確には、人間とそれ以外の文明を持つ種族だな。広義には、森のエルフも炭鉱を好むドワーフも魔族に入るんじゃないのか? でもエルフとドワーフは比較的人間種族に対して友好的だと聞いている」

 人間が何を持って、多種族を“魔族”と定義するのか。

 ベドラムにはよく分からない。

 友好的かどうかの違いでしかないのではないか。

 結局の処、空に浮かぶ人間と魔族を隔てる二つの月の謎も未だ解明されていないのだから。


「いずれ。人間も他の種族も共生出来る日が来るさ。その為に私は私のやるべき事をやるだけだ」

 ベドラムはワインを飲み干す。


「さてと。騎士団長。馬鹿王女はそろそろ、歓楽都市に付く頃かな」

 ベドラムは彼女に付き従う吸血鬼を呼び寄せる。


「我が空中要塞では、吸血鬼達を雇っている。私のドレスも彼らに縫って貰っている。ちょうどいい、こいつの名はザートルートと言う。諜報員のスキルもある吸血鬼の青年だ」

 

 ザートルートと呼ばれた吸血鬼の青年は、ヴァルドガルトに近付き跪く。


「この吸血鬼の青年をマスカレイドに向かわせよう。人間の王女の為に護衛をさせる」


 魔王は従者の吸血鬼の頭を撫でる。


「私は詳しくないが、マスカレイドは極めて危険な都市だと聞いた。人の悪徳が蔓延る場所だとな。いざとなった時に、この吸血鬼の青年は頼りになるだろ」


 魔王は本人相手には、口では憎まれ口を叩きながらも、それなりに若い人間の王女に期待しているみたいだった。


「ロゼッタ王女様には“世界を見てこい”って、私は、言っているんだ。もし人間が支配する主要都市を見ていったら、ベドちゃん。ロゼッタは君の言っている事を少しは理解してくれるかもね」

 アルコールの瓶を片手に、フリースは楽しそうに笑っていた。


「マスカレイドは世界有数の大都市にして“悪の枢軸”そのものだよ。あそこは何度、訪れても、悪徳に満ちているね。世界中から人間側の悪人が集まっているし」


 ミノタウロスやリザードマンなどの魔族達に呼ばれて、フリースは酒の飲み比べを行っていた。フリースは、大きな球体を使って、玉乗りの曲芸を始める。フリースは器用に両手で玉に乗りながら、脚で魔法の杖をくるくる、と回して、周りにいた観客の歓声をあびていた。


「なあ。あの女、なんでベドちゃんなんだ……? 私のあだ名か?」

 ベドラムは不愉快と言うよりも、困惑した顔で騎士団長に訊ねる。


「このわたしは、ヒゲ男爵君とあだ名を付けられたぞ。お主の方が良いではないか」

「愛嬌があるだろ」


「それにな。酒の席で、国王様の頭皮の薄い部分に触れて、此処から太陽光線を放てるのかと暴言を吐いた事があるぞ、あいつ。……後で発覚した事だが、それをやった時はアルコールを口にする前だったらしい…………」


 魔王ベドラムと、王国騎士団長ヴァルドガルトは、共にパーティー会場を荒らしているフリースを白目で眺めていた。彼女は、今度は貴重なブラックベリーのシュークリームを空に投げて口で受け止めるという、極めて食べ物を粗末にするような勝負を行っていた。


「あの女、不敬罪で牢屋に無期の投獄で良くないか……?」

 魔王は首をひねる。


「死刑でいいと思う。民衆に公開して、断頭台だな」

 人間の騎士団長は苦虫を噛み潰すように言った。


 空に打ち上げられた花火が消える。

 空の月が闇に隠れていき、空中要塞の夜は深まろうとしていた。


 何故、世界は分断されていて、人間が住む光の月と、魔族と呼ばれる者達が住む闇の月が照らす世界になっているのか。この場にいる者達の誰も知らなかったが、確かに、パーティー会場では、人間と魔族同士の親睦があった。


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