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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
海上都市スカイオルム
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海上都市スカイオルム。出航。3


 ロゼッタは部屋の中から窓を覗いて、船員達が魔物と戦う様子を眺めていた。

 ……自分は魔法使いとしては、まだまだ未熟だ、下手に出れば足手纏いになるだろう。それにしても海の魔物というのは、こんなにも厄介な存在なのか。船員の何名かは、空飛ぶ鳥女の襲撃を受けて傷を負っていた。


 ひとまず、船上の様子を俯瞰する事にした。

 

 だが。

 船上の一番、高い場所から窓の向こうを双眼鏡で眺めていると分かるのだ。おそらく、あれらはセイレーンと呼ばれる海の魔物だろう。その海の魔物は所謂、もっと強大な魔物の取り巻きみたいなものだ。その強大な魔物の身体の一部が見えた。


 それはタコやイカの触手のように見えた。

 幾つもの触手を伸ばしている。

 触手の先は、サメなどの肉食魚の頭になっていた。

 触手の先には、小島のようなものが浮かんでいた。


 伝説上の魔物に『クラーケン』という生物がいる。

 それはカニやエビ、タコやイカなどの姿をしており、無数の触手を有しており、人間の船が遭遇すれば簡単に沈められるのだと聞く。

 いわば、空の王者がドラゴンだとするならば、海の王者はクラーケンだとも言える。遭遇すれば死の象徴そのものだった。


 ……倒せる? いや…………。

 ロゼッタは考えていた。

 元々、この船は航路を曲げて、彼らの縄張りに入ったのだ。

 縄張りに入ってくる脅威は人間だって同じだ。人間だって魔族に自分達の住み家を荒らされたくない。

 ロゼッタは考えを切り替える事にした。

 彼女は、急いで階段を降り、船員達の下へと向かう事にした。



 セイレーン達の群れは、船員達が次々と稲妻の魔法や、魔力が込められた矢などで射られて水中深くへと沈んでいった。

 船は少し揺れ動いていた。

 海の中には無数の牙を生やしたサメが泳いでいた。

 

 オリヴィも船員達に混ざって、弓を引いていた。

 空飛ぶセイレーンを射落としていく。


 ふと、みなは海の向こうに大量の虹が現れた事に気付く。

 大量の虹の出現…………。


「もしかして…………。此処って、伝説のクラーケン「アルクォン・シエル」が住む縄張りなんじゃ……?」

 船員の一人が呟いていた。

「なんだ? そいつは?」

 他の船員が訊ねる。

「小さな島程もある、海の怪物だよ。辺りに虹を生み出して人間を惑わすって聞いている。そして、その背には小さな都市が建てられる程のものらしい……」

 みな、驚愕していた。

 もし、そんな怪物と遭遇してしまえば、この船は完全に終わりだ。


 次々とセイレーン達は襲ってくる。

 船員達はその鳥女の怪物を倒すのに精いっぱいだった。

 人魚姿のセイレーンもいた為に、歌を聴いて海へと飛び込もうとした者がいた為に、人魚姿の魔物も矢で射る事となった。

 海中に落ちていったセイレーン達は、容赦なくサメの餌になっていく。海が血で濁っていく。


 船上の戦いが続く中、巨大な触手が姿を現した。

 それは、一本、一本が、ゆうに船の全長を超える長さをしていた。尖端には、巨大なサメの頭が付いている。


「もう。おしまいかもしれない…………」

 船員の一人が半泣き状態だった。


 オリヴィはイリシュの腕をつかんで、前線から離れた。


「生き残る方法はある筈だよ。倒せなくても、船が沈没しなくて済む方法。それを考えようっ!」

「オリヴィさん、考えはあるんですか?」

 イリシュは訊ねる。

 言われて、オリヴィは首をひねっていた。


 二人が考え込んでいる中、見知った人物がいた。

 長い灰色の髪が、海風でたゆたっている。

 少女は魔法の杖を持っていた。


 そして、杖に魔力を込めていた。


「ねえ。私は水の魔法使い。私と仲間達はどうしても行かなければならない場所があるの。今から見せる魔法は、友好の印。誰も貴方を脅かそうとは思わない」

 ロゼッタは魔法を生み出していた。


 空に巨大な水族館(アクアリウム)が生まれる。

 珊瑚礁が生まれ、熱帯に住まう魚達が空のアクアリウムを泳いでいた。


 セイレーン達は攻撃の手を止める。

 そして、水底から伸びた触手は船を襲撃する事もなく動きを止めていた。

 船全域に、ロゼッタが生み出した水族館が広がっていく。

 小さなタコやクラゲ、アンモナイトが水族館の中を泳いでいた。

 まるで、同じ海に住む仲間の印であるかのようだった。


 やがて、人間達を乗せる船は何事も無く、伝説のクラーケンの住まう海域を通り過ぎる事が出来た。船員達に怪我人こそいたが、誰も死者が出なかった。


 船が通過する途中、ロゼッタは確かに見た。

 それは巨大な燻る炎のような、二つのルビーの瞳だった。それは巨大な山脈のようにも見えた。これがクラーケンの瞳なのだろう。

 ロゼッタがクラーケンと眼が合う頃には、ロゼッタの魔法は船全体に広がっていた。それはある種の幻影魔法の一種なのかもしれない。ともかく、クラーケンからは海の仲間とみなされて通行を許されたみたいだった。


 ……人間と魔物、争う事ばかりが手段じゃない。


 ロゼッタは誰にともなく、そう呟いていた、


 ロゼッタは自身の魔法を『アクアリウム』と名付けていた。

 水を生み出し、水の生物を召喚し、海そのものを創り出す魔法。


 そして、危険な海域を離れ、船員と客達は残りの数日を無事、過ごし、目当ての場所である歓楽都市マスカレイドへと辿り着く事が出来たのだった。


 まるで、黄金が敷き詰められたようい、歓楽都市の建物は金箔が施されている建造物が多かった。

 此処で、名だたる悪魔の一人である陰謀の魔王ヒルフェの協力を得られれば万々歳なのだが…………。

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