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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
海上都市スカイオルム
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海上都市スカイオルム。深淵の浅瀬。

 人間とは何て汚らわしい生き物だろう。

 サンテは海岸に足を付けて、物想いに耽る。

 いつだって、自分は過去の傷に苛まれてきた。

 彼女はかつて所属していた場所の制服であるセーラー服を身に纏っていた。まとったセーラー服はすっかりボロボロになり、破損した箇所は、縫い合わせている。

 

 その悪夢が水を伝わって、世界中の海へと溢れ出していく。

 サンテを魔王たらしめているのは、その強大なまでの彼女の悪夢の魔法の影響力だった。虐待の記憶、性的暴力の記憶。ひたすら拷問のような人体実験を受ける日々。


「人間にも、魔族にも、等しく思い知らせてやる」

 淀んだ水面を見つめながら、サンテは呟く。

 

 彼女の力によって、海の魔物達は更に変容し、普通の海の生き物達も怪物へと変化を遂げる。サンテは人が作り出した悪意そのものの生き人形だった。

 

 せいぜい人も魔物も戦争を続ければいい。

 憎しみがあるから生きていける、それが無ければ、サンテはとっくに自ら命を絶っていただろう。


 ふと、翼がはばたく音が耳に届く。

 巨大な気配を感じ取った。


「お前、一体、いつも何をしてやがるんだ?」

 竜の女王だ。

 彼女はちょくちょく、サンテに興味を持って、この地を訪れる。


 ドラゴンの背から、海岸の岩肌に着地すると、魔王ベドラムは、魔王サンテを見下ろしていた。互いに魔界の空を支配する者と、魔界の海を支配する者の二人だ。


「てめぇ、何をしにやってきた……」

 サンテは見上げて、鬱陶しそうにベドラムを睨む。


「此処でひきこもっているお前に招待状を送りに来たんだ。少し前、人間共の王都ジャベリンと、私の空中要塞の戦争が始まっただろう? サンテ、確かお前は人間に復讐したかったな? 絶好の機会だろう? お前の悪夢の魔力を人間共に振りまいてやれ」

 ベドラムは楽しそうに笑った。

 だが、竜の女王の表情には何処か含みがあった。

 まるで、サンテの反応を伺っているかのような…………。

 

「必要無ぇよ。あたしはあたしの計画で動くから…………」

 サンテは億劫そうな顔をしていた。

 その表情は、淀み、この世界の何もかもがどうでもいいといった空ろな瞳をしていた。

 ベドラムは特に意外そうな顔もせず、跳躍して、ドラゴンの背に乗った。


 ……サンテの表情から察するに、既に王都とドラゴンとの戦争は早急に終結した事を知っている、という風だな。やはり、この女は、ちゃんと世界情勢の情報を握っている。自分の挑発には乗らないだろう。


 竜の女王は、しばらくの間、悪夢の女王を見下ろし考え込んでいた。


 ……となると、ジュスティスの情報も握っているか……? いや、はぐらかされる可能性もあるな。


「邪魔したな。じゃあ、私は軍団を結成するとするよ。ああ、それと、海上都市があるだろう、この一週間の間のどれかの日に、私の客人が船に乗るんだ。邪魔しないで欲しい」

 そう言うと、ドラゴンは翼を羽ばたかせていた。


「ふうん、お前の客人かぁ? 珍しいなぁ。でもそれは約束するよ、あんたを“今はまだ”敵に回したくねぇからなぁー」

 サンテはくすんだ瞳で見上げながら、不気味な笑みを浮かべていた。


「じゃあな、要件はそれだけだ。悪いな。邪魔したな」

 そう言いながら、ドラゴンは暗黒の浅瀬を離れた。


<誘う意味はあったか? あれは俺らに付かないだろう?>

 暗黒に淀む海岸を離れる途中、ベドラムを乗せたドラゴンが彼女に訊ねる。


「一応な。悪夢の魔女の動向も知っておきたかった。おそらく、あいつが復讐したいのは、人間だけじゃない筈だ。味方に引き入れたい処だが、いずれ一番やっかいな敵になるかもしれない」


<そうなのか?>


「あいつは、人間も魔族も共に憎んでいる。サンテの魔法は、世界中に広がり続けている。ジュスティスを倒す為には、サンテを味方に引き入れるのが、私の理想的なプランだ。そして、やはり、この世界は私と家族のドラゴンが支配した方が平和的解決になると思っている。ロゼッタ王女には悪いがな」


<覇道だな。お前はこの世界全て。人間の世界だけじゃなく、魔族の世界も等しく支配したいのだな>

 黒竜ディザレシーは少し嬉しそうな顔をしていた。

 彼は、ベドラムの心と共にある。

 幼い頃から共に育った家族と言える存在だ。


「それが一番、双方、血を流さずに済む方法になる。私は私の理想に生きるとするよ」


 闇の月の光が照らされる空の下、一体のドラゴンと人型の魔王は魔界の大地を見下ろしていた。


 ベドラムは考える。

 もし自分が掲げる理想が“もっとも間違った形”で“もっとも邪悪な形”で達成しようとする者がいるとするならば、どれだけまずい状況なのか。

 心当たりのある何名かの顔を思い浮かべて、ベドラムは小さく溜め息を吐いた。



「『アルクォン・シエル』は領海を侵す事を決して許さないクラーケンだ。彼に眼を付けられたら、このあたしでも止める事は出来ないよ」

 サンテはぽつりと言った。

 彼女は闇に淀む水面を眺めていた。


「客人を襲うな、かあ…………。くひぃ、ベドラム、ロゼッタ王女と今は仲が良いんだろぉ? 人間の王都とさも戦争中であるかのように言ってさあ……。ふふっ、くくっ、客人ねえ……。あたしは客人………、そう、人間の王女を襲うなとは言われたけど。さて、彼はどうなのかな?」

 サンテはくっくっと、暗い笑いを浮かべていた。


 そして、サンテは海の魔物であるセイレーンがよく歌う歌を歌っていた。

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