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天空のリヴァイアサン  作者: 朧塚
混沌の世へ。
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間章 ロゼッタとアネモネ。奇妙な対話。

 空中要塞にしばらく身を置いていたベドラムだが、しばらく事務処理で燻っていたが、結局、放浪の旅に出た。

 後の事は、今はディザレシーが収めているらしい。


 ステンノーは寝込んでいられないと言いながら、様々な場所に政治交渉に行っている。

 しばらくの間は、紅蓮の都市コンロンが交渉相手との事だった。

 みな、多忙だ。


 ジャベリン周辺に滞在していたアネモネは、ジャベリンの城にてロゼッタと話す機会があった。此処は街全体を見下ろせる王宮のテラスだった。


「えっ……ロゼッタ王女。貴方、一人っ子ですの?」

 兄弟親族の話をたまたましていた時に、アネモネは愕然とした表情を浮かべていた。


「そうね。悪い? 私、一人っ子だから、なんなの?」


「いえ…………。もし、貴方が死んだら“バックアップ”として機能する第二王女、第三王女はどうなりますの? 跡継ぎなどは? 国家の最高権力者は、国家の代弁者としての使命を果たす義務があるのですのよ」

 アネモネは信じられない天然記念物を見るような顔で、ロゼッタを見ていた。


 バックアップという奇妙な言葉に対して、ロゼッタは違和感のようなものを覚えた。


 アネモネは、ふうっと説明する。


「エル・ミラージュにおいては、私の父親であるザイレス様が亡くなっても、別の親族が王位に就くでしょう。ある程度、権力を有している私が死んだとしても、別の親族の王女達が、私の地位に就きます」


「ちょっと……………。それって」


「ええ。私もお父様も、当然、お兄様も、最前に立って、血生臭い事を行っております。ですので、いつ他国の暗殺者から狙われてもおかしくない。なので、影武者もいますし、後続となる王子達も王女達もいます。……もっとも、私は王女としての地位は余り強くなく、なるべく表舞台に立たないようにしておりますが」

 アネモネのその言葉に対して、何処か虚無的なものをロゼッタは感じ取る。

 彼女は、いつでもエル・ミラージュの為に死ねる、エル・ミラージュの栄光の為に生きているというのが口癖だ。


「自分が死んだって、代わりはいるから、いつでも死ねるって事?」

 ロゼッタは、かなり困惑する。


「そういう事になりますわね。私はエル・ミラージュの王女。いつでもこの国に対して、命を捧げられる覚悟でいますから」

 そして、ふいに何かを想い出したみたいだった。


「そう言えば、オリヴィ様の国、マスカレイドにおいては親族同士で権力争いが絶えないと聞きます。私には理解が出来ません。国王や王子、王女は、国に仕えるべき立場であり、自国の為に生きるべきだと私などは考えていますが。オリヴィ様の国においては違うみたいですのね。親族同士で争っても、何の国益にもなりませんのに」


 ロゼッタは、ずっと理解不可能だったアネモネの事を少しだけ理解出来たような気がした。

 彼女は、自国の狂信的な忠誠心の為ならば、自分の命さえどうだっていいのだ。

 自分の命を軽んじられるから、自分達が殺す者達の命も軽んじられる。


「国の親族同士で争っても意味が無い事ですのに。国力がますます先細るばかりです」


 少しだけ、ロゼッタは、絶対に理解し合えないと思っていた、エル・ミラージュの王女に対して奇妙な共感めいたものを感じた。


 ロゼッタからすると、アネモネは徹底的に歪んでいるが、その根底には愛国心と国民への愛のようなものがある。


 そして、何処かあの勇敢なエルフであるダーシャと重なるものを感じた。……アネモネもダーシャも、何処か自分の命に対して無頓着な印象を受ける。


「貴方の事は、大嫌いだけど。貴方の事は少しだけ理解出来たような気がするわ」

 ロゼッタは、ぽつりと告げた。


 ロゼッタは、ふいに杖を手にして、アクアリウムによる目くらましを行う。沢山の魚達が空中に現れて、アネモネの周りを飛び回る。


 アネモネは瞬時に距離を取り、ロゼッタの瞳の奥に明確な殺意があるのを理解したみたいだった。水流カッターが、アネモネの喉元目掛けて襲い掛かっていく。


「白昼堂々と私を正面切って謀殺しますの。私は客人として此処に来たのですが……。いいですわね、ロゼッタ王女。気に入りました」

 アネモネは何だか嬉しそうだった。

 彼女は何処からともなく、二本のナイフを取り出す。


「ロゼッタ王女。貴方が死ねば、ジャベリンの今後がどうなるか分かっているのですか? 無用に私や空中要塞に喧嘩は売らない方がいいと思いますが? 私と違って、貴方の替わりはいないのでしょう?」

 アネモネの眼付きは鋭い。


 ガキィ、と、アネモネのナイフと、ロゼッタの杖が交差する。


 アネモネの周囲に、幾つもの魚が生まれていく。


 空中に浮かんだ水が渦のような形になっていく。


 それは、小さな水流となって、アネモネを飲み込もうとする。

 アネモネは距離を放して、何とかそれを抜け出す。


 そして、しばらくの間、二人は小競り合っていた。


 しばらくして、ロゼッタは攻撃の手を止める。


「アネモネ。率直な感想なんだけど、私の今の実力はどう思う?」


 その言葉を聞いて、アネモネはロゼッタの行動の意味を理解する。


「以前、戦った雷魔法の使い手である、この国の冒険者であるエレス、という少女よりも、貴方の方が強いです。何よりも隙が少ない。おそらく、私と互角程度」


「そう。ヒルフェ戦で心底、理解したわ。私はまだまだ強くならなければならない。この国を守る為にも、いずれ、空中要塞とも、貴方達エル・ミラージュとも劣らぬ国力を持つ為にも。吸血鬼の王にも立ち向かえるように、私は…………この国は…………」

 ロゼッタは非常に悔しそうな顔をしていた。


「国全体を独立させる事は、また別の軸の話ですが。ロゼッタ王女。誰か信頼出来る者に稽古を付けて貰ってはいかがですか? 私の方は実戦で技術を磨きます。具体的にマフィア達と戦います。貴方の方は稽古を付けて貰う方がよろしいのでは?」


 アネモネの提案に対して、ロゼッタは何か思い当たる人物の顔を頭に浮かべたみたいだった。


「ありがとう。信頼出来そうな者がいたわ。少なくとも、ベドラムなんかよりも、今度、頼んでみようかしら」


 ロゼッタは柔和な笑みを浮かべた。

 はじめて、アネモネに対して心からの笑みを浮かべていた。


 アネモネは、心の奥が何か逡巡しているようだった。

 そして、しばらくして言う。


「ジャベリン周辺の街や村、復興に関しましては、何とか私の力で復興資金を提供しようと考えていますわ。お兄様やお父様が承諾してくださるかは分かりませんが。……大量破壊兵器を落とした側として、そのケアもするのも、政治交渉の上で大切かと。……ジャベリンは“敗戦国”ではない為に、我々に従う義務も義理もありませんから…………」


 アネモネは眼が泳いでいるみたいだった。


「残酷で人非人のサディストなだけだと思っていたわ」

 ロゼッタは笑う。


「私は私の国家を憎む、国家内の反戦運動家達にも、彼らの活動を放置し、裏で資金を提供しております。それはガス抜きとしての機能ですが。彼らも国民なのです。国民の不満を受け取るのがエル・ミラージュの王族の責務。国内の批判から目を逸らしてはいけない。そして、ロゼッタ王女……………」

 アネモネはどう上手く表情を作ればいいか分からないみたいだった。


「貴方はヒルフェと戦った時、確かに私の“仲間”でした。私達は仲間を同胞を見捨てない。故に、エル・ミラージュは福祉大国でもあり、貧困者や障害者なども手厚くしている。我らに意を唱え反戦運動をする国民を処刑などしたりしません。捕らえて牢獄に入れたり、我が国の教えの再教育を施す事も致しません。何の罰も与えません。彼らの話にも耳を傾けてきましたから。ええっ、仲間で無い者、同胞で無い者は容赦なく略奪しますが、私は貴方を同胞のように見ています」


 そうして、いつの間にか始まっていた、政治交渉は終わった。

 

 復興に何十年掛かるか分からないが、ジャベリン周辺の三つの都市。

 そして、スカイオルムを建て直す為の資金は、他ならぬ加害者であるエル・ミラージュから支払われるという約束が二人の間で交わされた。アネモネは、父親のザイレスや兄のステンノーの同意も得なければならないと言う。


 ただ、ロゼッタは赦す事さえ出来ないが、歩み寄る事は出来るのではないかと思った。


「…………。アネモネ、油断も隙も無いわね。どの道、私達ジャベリンはエル・ミラージュという帝国に、独裁国家に依存する事になるじゃない…………」

 これは苦渋の決断なのだ。

 他の解答があれば、自分は知りたい。

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