終章 魔王呪殺録
殺される事など男は理解していた。
自分がこんなことを下のだから当然のことだ。
あの日見た魔王から彼は生き急ぎ過ぎた。
未だ自分の中で命として存在する呪いの一つとなった妻と娘に絶縁と言い渡されて一人になった男は、その程度で済んだことを喜ぶべきだと笑った。
許されるようなことをしなかったのだ当然だ。
本当は救いたかったものをないがしろにして、大多数を救う結論を下したのだ。
そのために生きていた人々にありとあらゆる屈辱をかけて、自身は星殺しの呪いへと変わる結末に、努力したんだけどなと泣きたくなる。
酷い事をしてきて、愚劣なことをしてきた。
でもいつか自分を殺してくれる人に願いを込めた。
だが彼はもう自分を殺してくれる人が現れるまで、星を殺し続け何もかもを奪っていく。
それでも殺してくれと願うのだ。
星を殺す呪いとなってどうしようもなくなった自分を。
そのために幾つの文明を終わらせたのだろう。
緩やかにだが明確に、自身が犯した罪によって魔王よりも悲劇的に人類は死んでいった。
しかしながら少しばかりしぶとすぎる人類はそのたびに立ち上がった。
挙句に殺せないなら逃げてやるとこの星を捨てだす始末だ。
だが自分と言う呪いは、星を生み出すようになった人々の希望を圧し折るように、その手を移住した星にまで手を伸ばすような代物であった。
どうしようもない自身の有様に、流せるのなら涙でも流しただろうが、ここまでくる諦観で笑うしなかったが、それすら彼にはできない。
だがそれでも彼は自身の終わりを迎える事になる。
七の水と呼ばれた星に、人間と言うにはかつての自分すらも驚かすほどに歪んだ人間が現れだしたのだ。
その一人と言うか二人が、呪いの全てを切り捨てた。
人によって殺されると定義された自信を容易く、まるで次いでのごとく終わらせた。
呪いなどと言う事すら気付かれず、あまりにもあっさりと終わらせた。
だがそんなものでいいのだ。
星の危機などしらず、自身と言う呪いすら知られず、そういう風に終われるのなら、ましな話と言うものだ。
また一つの時代が終わる。
男と言う呪いは余りにも容易く消えていく。
人類に対する侮辱と言われた呪いは、歴史に記されることもなく終わっていった。
ただ消えていく呪いとなった自分に何の感慨すらもなく。
だが呪いは自身が貯え続けた命を星の生存に次ぎこんだ。
唯一自分が出来る呪い返しだったからだ。
自分以外の全てに少しはましになるようにと願った結果だ。
呪いが出来るのは呪う事だけだ。
呪いを呪った呪いは、自身に返される呪詛によって全てを終わらせ、それいがに新たな呪いを振りまいた。
星を呪い続けて殺し続けたそれは、自身を終わらせ二度と蘇らない様にと、自身に呪詛返しまで行って完全に消滅する。
だがその間も残り続けたそれを起動させた。
呪いが終わって少し後の事だ。
七の水から見上げた双子月の片方の色合いが変わっていた。
ねぇと、誰かが言って、なんでだろうと首を傾げる者がいた。
だがそれが男が残せた唯一の謝罪だった。
本来なら自分が終わらせた星の末路を否定するために、呪詛が消えて残った救済だけが果たされる。
人も死んで何もかもがなくなった星の命だけが芽吹いた。
それでも呪いの末路が願った愚劣な光景にしては、少しばかり見栄えのいい光景だ。
だがこれで顛末、これが結局結論。
これは犠牲を積み上げる悲劇の楼閣だ。
これは悲劇によって救われる残骸の結論だ。
これが自身を呪い殺す呪いと成り果てた、自裁と自殺の魔王から始まる呪殺の記録。
魔王呪殺録の顛末だ。