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魔王征伐


 これは犠牲を積み上げる悲劇の楼閣だ。

 これは悲劇によって救われる残骸の結論だ。


 時間経過だけを言うのならば、千年と言う時間と言うよりは歴史が積み重ねられた。

 世界は地獄から比較的ましな地獄に変わりまた地獄に変わるそんな様相だった。

 当たり前の様に文明は進歩を繰り返しながら、地獄による後退を繰り返していた大停滞期である。

 容易く時代は人と言う資源を消費し続けて、命は廉価で売り払われる代物になり果てていた。


 この後にこの千年を大悲嘆時代、若しくは魔王時代と語られる。

 最も人類が絶滅に近付いた時代であった。

 この世界は人類に対して牙を剥いた。簡単に言えばそれだけの事なのだが、あまりにもそれが明確かつ圧倒的な物量によるものであったのだ。

 

 簡単に言えば、初期は一対十、中期は一対千、その末期ともなれば一対百万を超えると言う。

 純粋な数の暴力であり、その質は間違いなくある時期を境に強化されていった。

 獣と呼ばれ、いつしか魔物と呼ばれるようになった存在を生み出す存在を人は魔王と呼ぶ。

 幾度となくこれの討滅による勝利を得る事になるが、魔王は不滅であったのだ。


 その復活はある程度期限はあるが、十年程度を境に復活し耐性を得た魔物を吐き出し続ける。

 それに気づいたのは魔王を二十回ほど討滅した頃に確定した話であるが、それでも十年の安定のためには魔王を討滅しなければ、人類は千年と言う時代を継続させる事は不可能だっただろう。


 意思もなく、ただ人類の敵を量産するだけの製造プラント。

 人はそれを魔王と呼び、恐怖し続けたのだ。

 これはその末期も末期であり、最後の最後のあまりにも悲惨なお話である。


 これは魔王を殺す為に行われた惨劇であり、ある一人の男がありとあらゆるものを犠牲にして成し遂げる代物だ。

 後の時代にすら廃棄者、墓造り、数多の呪いの言葉を吐き続けられた存在であるが、それでも彼は魔王殺しと呼ばれる事になる。


 彼が起こした災厄は三つ。


 救世の嘘

 堕胎の獄

 老少の責


 この時代に存在した総人口の七割を殺し尽くした惨劇であり、人に尊厳があると言うのなら魔王に殺された方がまだましとさえ言える程に貶めた代物である。

 それは個人が起こした中でも最悪の殺戮行為であったのは間違いないだろう。


 その始まりは第七百六十一回目魔王征伐戦の勝利より始まる。


 人類が魔王に勝利して五十七回目の記念すべき日であり、数多の勇士が勝利を分かち合う場所に彼はいた。

 当然であるのだ。

 彼こそが魔王征伐の一員であり、これより以前の魔王征伐より参加し続けた再殺者と呼ばれる人物であった。


 既に滅んだ西方領域の小国の出身であり、魔王征伐の実質的な指導者に位置付けられていた人物である。まだ十代の頃から魔物討伐で名を馳せ、その勇名のまま魔王征伐に参加しこの世界で最も魔王を殺した存在だ。


 それが後に勝利の咎と呼ばれることになる彼の評価であった。

 その全てが変化するのは、実際の切っ掛けは二回目の征伐後からではある。


 しかしながら後世からの評価とするならば、やはり三回目の勝利を起点として語られるのだろう。

 魔王の討伐に成功して、すでに五十を超えた男は、周囲が勝利に熱狂している中で一つの核心を得てしまう。


 この度の勝利によって、人類は詰んでしまったと、ありとあらゆる方法で魔王を殺した男は、発展する技術すら魔王の成長に追いつかない事を確信してしまった。

 どれほど人類が魔王に勝利しても、その生存圏はもはや東邦辺境域にしか残されておらず、三度の勝利を迎えたとしても、彼がまだ十代の頃には存在した故郷である西方領域は魔物で埋め尽くされ人の領域は確実に狭まっている。


 かつて六大陸の全ての領域を支配していた人類の面影は既に無い。

 その過去を現実であったと未だ語れるのは、統一国家の王族が今の魔王戦における象徴として、最前線で戦い続けている事だけだろう。

 

 だがその象徴はすでに消える。

 この勝利の末路はすでに決まっている。


 勝利における徒花はすでに確定している。


 偉大なる再殺者である英雄は、共に戦い魔王を殺した仲間の全てを皆殺しにする。

 魔王を殺すというただ一点の目的の為だけに、ともに勝利を得るために戦った者たちの全てを鏖殺し、後の魔王討伐における英雄に成り得た存在の根を刈った。


 なぜならば、邪魔だから。

 これから行う彼の下劣を止める事が出来るであろう存在だからだ。


 目を丸くして、何が起きたかも理解できないまま、最後の魔王討伐の勇者達は最も信頼していた英雄に再生の余地すらもなく殺し尽くされる。

 そこには疑いは無く、信頼だけで語られる表情であり、何が起きたかも理解できないままの彼らの末路がある。


 第七百六十一回目魔王征伐


 彼と言う英雄以外の全てを失った最悪でありながら、それでもまだ人類の希望を夢見た戦い。

 そして公式で残る最後の魔王征伐は、勝利の咎と呼ばれた魔王根絶における始まりであり、魔王と言う人類の天敵すらも霞むとされる最悪。


 これが人類の生存を確定させた切っ掛けである事が屈辱とまで言われる。

 人類の汚点であり、魔王の完全討滅と言う大偉業の始まりは、栄光と希望から始まりその根を刈り取る事から始まった。


 その始まりは救世の嘘ではない。

 だがそれでも、後の人々はそれこそが始まりだという。


 その地獄の始まり救世の噓と言われた出来事は、彼と言う存在をあまりに残酷に歴史に刻ませてしまった。

 末路にこそ救済はあれど、始まりより希望の全ては刈り取られ、絶えた望みのみが下劣を下劣として残す。



 救世の嘘、そう呼ばれる愚劣は三回目の勝利より一週間後より始まる。

 この世界に生きていた人類種全ての心を圧し折る。

 後の世に最も計算された最悪の勝利と言われる魔王を殺す呪い、純正魔王枯渇呪 枯死太歳 と呼ばれる人類を貶めるながら、人類の勝利を決定付けた呪いの完成させる為の惨劇。


 人類の夢と希望を打ち砕いて作り上げる、夢と希望に満ちた末路の顛末である。

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