９話 暴走する怪物妹
「――兄さんは私だけのものなの！！！！」
雪音の叫びにも似た声が俺の部屋に響き渡る。
雪音はまさに鬼の形相と言った感じで、俺と伊万里を睨んでいた。
「お、おい雪音？ どうした？」
「兄さんは伊万里さんにデレデレしすぎ！ に、兄さんには私がいるのに……わ、私じゃあ満足できないの⁉」
「何言ってんだ⁉」
こんな雪音見たことがない。
あたふたしていると、雪音はさらに続けた。
「に、兄さんがえっちなのは分かってるし、それはしょうがないけど……で、でも！ 私以外の女の子で性欲を発散するのはダメなの！！」
「マジで何言ってんだ⁉ あと、俺別にえっちじゃないからな⁉」
「いや、三好くんは相当えっちだと思うよ？ 私の胸よく見てるし」
「兄さんッ！！！！」
「おい伊万里コラ！！」
そこで結託されると非常に肩身が狭い。
というか俺は、一体今何で責められているのだろう。
……もしかして、俺がえっちなことを責められてるのか？
ならここでその汚名を払拭した方がいいだろう。
「だから、えっちじゃないって！」
「えっちだもん！ 私知ってるよ？ 兄さんが深夜に、一人でベッドの上でゴソゴソと……」
「ちょおいおい！ それ以上は言うな！ って伊万里！ その顔やめろ！」
「三好くん……男の子だもん、しょうがないよね」
「グハッ！！！」
伊万里が胸を腕で隠しながら言う。
雪音の一言で、間違いなくえっち疑惑を確定されてしまった。
肩を落としていると、雪音が俺に近寄ってきた。
「兄さんがえっちなのはどうでもいいの！ 私が言いたいのは、私の兄さんなのにどうして伊万里さんに興奮してるのかってことなの！」
「こ、興奮してないです……」
「嘘だもん！ 興奮してるもん！」
「う、うぅ……」
雪音が俺の胸倉をつかみ、グラグラと揺らす。
「兄さんは私だけのものでしょ⁉ 兄さんは私だけを見てくれなきゃイヤ！ じゃないと兄さんと一緒に死ぬ！」
「うわぁぁそれはやめてくれぇぇぇ！！！」
「じゃあ約束して！ 兄さんは私以外で欲情しちゃダメ！ 私以外でデレデレしちゃダメ！！！」
「なんでそうなるんだぁぁぁ⁉」
俺が一体どんな禁忌を犯せば、こんな条件を課せられるのだろう。
うろたえる俺とは裏腹に、雪音の勢いは増していく。
「これから一生、兄さんは私だけのものだから！ ね、いいでしょ？ いいよね⁉」
雪音が怖いくらいに綺麗な顔を俺に近づけて迫ってくる。
「怖い怖い！ 兄に向けていい顔じゃないから！」
「兄さんは兄さんだけど、私のお婿さんだよ？」
「何言ってんだ⁉」
「とにかく！ 兄さんは私だけを愛さなきゃダメなの！」
「お、俺が他の子を好きになったらダメなのか⁉」
「ダメだよ！」
「なんでだよ⁉」
明らかに雪音の方がぶっ飛んだ考えなはずなのに、真に迫るあまりえげつない説得力を持ってしまっている。
息を切らしていると、雪音はふぅと息を吐き、真顔で俺を見つめてきた。
「なんでって、兄さんは私のこと、愛してるでしょ？」
「うえぇ⁉ そ、それはまぁ、愛してるけど……でもそれはきょうだ――」
「じゃあいいじゃん、私がいればいいじゃん」
「で、でもあれだろ？ 俺たちきょうだ――」
「義理だもん、関係ないよね？」
「い、いや、きょう――」
「ないよね？」
「……はい」
美人が怒ると怖いというが、それはまさにそうだ。
今まで小動物かのように思っていた雪音が、今は獰猛な肉食動物に見える。
雪音は凄んだ雰囲気のまま、温かな笑みを浮かべた。
「でも安心して？ 兄さんをちゃんと満足させるからね？」
「お、おぉ」
「私はいつでも兄さんの言う事を全部聞くし、当然えっちなお願いだってなんでもしてあげるよ？ 兄さんが好きなコスプレだって、過激なことだってしてあげる」
「おい突然の性癖暴露はやめろぉッ！！！」
「コスプレ……過激……」
「伊万里ぃ！！！！」
伊万里が引いた目で俺から距離を取った。
雪音はさらに迫る。
「兄さんに私の全部をあげるよ？ だから兄さんも私に全部をちょうだい？ ね？」
「あ、あのな……一言言わせてほしいんだが――」
〈ぱふんっ♡〉
「あ…………」
「ふふっ、兄さんのえっち♡」
目をすっかりハートにさせた雪音が俺を抱きしめる。
俺の顔は雪音の――そう、おっぱいに埋められてしまった。
「っ～～～～～～～⁉」
「（な、なんだこれ⁉ なんだこの幸せすぎる視界と感覚は⁉ ってか意外に、雪音って胸大きいな……めちゃくちゃ柔らかいし、いい匂いだし、ずっとこうしていたいような……）」
と、そこでまたしても伊万里と目が合う。
伊万里は顔を歪ませ、はぁとため息をついていた。
「ち、違う！ これは……！」
「兄さんは私だけ見て！」
「うはっ」
さらに強く抱きしめられ、力が抜けていく。
本当に男とは弱い生き物だ。妹でありながらも、おっぱいを武器にされると何もできなくなってしまうんだから。
「ね？ これから私のこと好きにしていいから、私だけを愛してよ――ね、兄さん？」
小悪魔的な笑みを浮かべ雪音が言う。
俺は必死にもがきながらも、為すすべなく埋もれる事しかできなかった。
――かくして、物語はようやく始まった。
◇ ◇ ◇
帰り道。
すっかり夕陽に染まった街を見ながら、私はぼんやりとさっきまでのことを思い出していた。
「（ちょっと大人げないことしすぎちゃったな……）」
後悔する私。
妹さんがあそこまでになるとは、さすがの私も予想していなかった。
「だいぶマズい状況になっちゃったな……」
後悔と同時、焦りが募る。
強すぎる強敵の出現に、私はキュッと胸が締め付けられるのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます！
長いプロローグが終わり、タイトル回収をしてようやく物語に入っていきます！
これから個性的なキャラクターがどんどん出てくるので、妖怪大戦争的なノリで見てもらえたら助かります(o^―^o)ニコ
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ではでは～（インドネシアからお送りしました）
