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7話 委員長のお仕事


 放課後。


 部活に所属していない俺は今日も真っ直ぐ帰ろうと鞄を持ったところで、担任の先生から書類を受け取る伊万里の姿が目に入った。

 クラスの委員長として、何やら仕事を託されたらしいが……いささか一人でやるには量が多いように見える。


 俺は鞄を一度机に置き、伊万里に声をかけた。


「頼まれごとか?」


「あ、うん。保護者宛てに配る書類を封筒に入れないといけないみたいで、お願いされちゃった」


「あの先生はほんと……」


 うちの担任は仕事嫌いで、ことあるごとに伊万里に仕事を依頼している印象がある。


「伊万里も断る勇気を持てよ? あの人押しに弱い人に強いだけで、ちょっと反発すればすぐ引くから」


「でも、私クラスの委員長だし、普段仕事がないんだからこれくらいはやらないとね」


「真面目だな、伊万里は」


「そんなことないよ」


 否定する伊万里だが、俺は伊万里以上に真面目でしっかりした人を知らない。

 俺は伊万里の前に座ると、黙って書類を三つ折りにし、封筒に入れていった。


「……ほんと、三好くんはさりげない男の子だよね」


「さりげない? なんのことだか」


「いや、わざとらしい男の子かも」


 ふふっ、と伊万里は小さく笑い、俺と同様に作業を始めた。

 教室に残っていたクラスメイト達も、次第に帰っていき、教室は俺と伊万里の二人になった。


「そういえば、最近妹さんとはどうなの?」


「どうっていうか、うーん……」


 言葉を選ばずに現状を伝えたら、伊万里に引かれるような気がしたのでしっかりと選定する。

 

「ま、結構懐いてもらってさ。兄弟仲は順調だな」


「ふ~ん、そっか。シスコンの三好くんにとっては最高の展開だね」


「伊万里お前なぁ」


「ふふっ、そろそろ『お兄ちゃん大好き♡』って言われた?」


「言われてないわ! いや、まぁそれは言われたくはあるんだけど」


「ほら、やっぱりシスコンじゃん!」


「……ま、否定はしないけどさ」


 俺がシスコンになったのは無理もないと反論したい。

 何せ家庭環境の影響で、ずっと兄弟が欲しくても手に入らない状況だったのだ。


 いくら欲しくても絶対に手に入らないものが急に手に入ったら、この上なく大事にするに決まっている。

 つまり、俺がシスコンなのは俺のせいじゃない。人間の心の作りが悪い。


「でも、このままじゃますます彼女ができないね?」


「なんでだよ」


「だって、可愛いくて懐いてくれる妹と一緒に暮らしてるんだから、三好くんはそれで満足しちゃうでしょ?」


 からかうように伊万里が言う。


「いやいや、彼女と妹は別だから! 別欲求だから!」


「ま、そっか。妹さんとはえっちなことはできないもんね?」


「っ! そ、それは……まぁ」


 伊万里みたいな真面目な女の子から「えっち」という単語を聞くのは、なかなかにエロを促すものだ。

 それに伊万里は、俺が思い描く理想のボディをしているわけだし……ってか今日も、机の上に乗っているおっぱい大きいな。


「あ、今私のおっぱい見てるでしょ」


「み、見てません!!!」


「はい、ダウトっ」


「く、くそう……」


 やはり伊万里に敵いそうにない。

 そうこうしているうちに先生から託された仕事が終わり、伊万里と職員室に持って行ってようやく学校を出た。


 途中まで帰り道は同じなので、並んで歩く。

 ふと、伊万里のことで思い出した。


「そういえば、前に借りた漫画返してなかったな」


「あー、あの少女漫画ね」


 一か月前くらいに雪音大作戦で貸してもらったっきり返していない。

 

「悪い。いつ返せばいい?」


「うーん、そうだな……あ、じゃあ今から三好くんの家行ってもいい?」


「うぇぇ⁉」


 伊万里が俺の家に⁉

 ごくりと唾を飲みこむと、伊万里が目を細める。


「えっちなことはしないよ?」


「分かってるわ!」


 伊万里の中で俺はどれだけえっちな男なんだろう。

 咳ばらいをし、伊万里の提案に答える。


「別にいいけど、長居はあれかもしれない」


 家には雪音がいるし、もしかしたら知らない人が家に来るのを嫌がるかもしれないし。


「うん、大丈夫。漫画を返してもらうだけだしね。あとは、ちょっと三好くんの部屋に興味あるだけだから」


「ま、そうだ――うえぇ⁉ 俺の部屋、別にテーマパークとかじゃないぞ? 普通に一般的な男子高校生の部屋だし」


「いいからいいから。さ、レッツゴー♪」


「……はぁ、まぁいいけどさ」


 こうして、伊万里が俺の家に来ることになった。










 ――一方その頃、三好家では。


 玄関でそわそわしながら、時計をちらりと見やる少女。


「(……兄さん、そろそろ帰ってくるよね。今日は、どんなことしようかな)」


 どんなゲームをするよりも兄とのくつろぎを楽しみにしている、圧倒的美少女である義妹がまだ兄に見せていない顔で兄の帰宅を待っていた。



「……えへへ、兄さん」



 もうすでに、少女の持つポテンシャルの片鱗は顔を覗かせていた。

 

 三好家に向かう、巨乳委員長の伊万里と兄。

 

 

 事件は――不可避である。



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