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23話 妹だってするもんね!


 ドタバタな夜が明けて。


「(睡眠時間足りない……)」


 昨日の雪音とのひと悶着があったせいで結局寝るのが遅くなってしまった俺は、目を擦りながら洗面台にやってきていた。

 体は倦怠感を全身に感じていて、頭がボヤぁっと働いていない感が満載。


 どうして男という生き物は、何発かかましてしまうと翌朝もぬけの殻のような、魂が抜けたみたいな状態になってしまうんだろうか。

 何にせよ、すべての責任は俺をここまでムラムラさせた雪音なわけで。


「(あの精力剤どんだけ強かったんだよ)」


 雪音曰く『一晩中狼になる』らしいし、それに雪音があんな格好で色仕掛けしてきて、散々理性がすり減ったから大変だった。


「(それに、キスもしちゃったしな……)」


 事故とはいえ、兄弟でありながらキスをしてしまった。

 それも相まって、昨夜はめちゃくちゃ変な気分になったのだ。


「(俺はこれから、本当に兄として威厳を保てるのだろうか……って、威厳とか元々ないか)」


 どれだけ断っても迫られてるわけだし。

 俺の覚悟がどれだけのものとはいえ、雪音レベルの女の子が俺に本気になって牙城を崩そうとしているので覚悟を改めなければいけない。


 このままだと雪音の言われるがまま、本当に過ちを犯してしまいかねない。

 それだけは絶対に避けねば!


 鏡の前で気合を入れていると、ドアががらりと開く。


「ふはぁ、おはよ、兄さん」


「あ、雪音か」


 寝起きなはずなのに美少女オーラをムンムンに漂わせている雪音があくびをしながら俺の隣に立つ。


「兄さんはよく眠れた?」


「ね、眠れるわけないだろ……雪音の精力剤のせいでな!」


「あ、やっぱりあれ効くんだ! ふふっ、いいこと聞いちゃったっ♡」


「全然よくないわ! あのな、男はあぁなるとすごく大変なんだ!」


「だから、私を使っていいよって言ったんだよ?」


「雪音は使えないんだよ!」


 俺が全力で否定すると、雪音がしょぼんと俯く。


「やっぱり、兄さんは伊万里さんみたいなおっぱい大きい人じゃないとダメなんだ……うぅ」


 あまりに落ち込むものだから、急に可哀想に思えてくる。


「い、いやあのな? そういうことじゃなくて、ただの雪音が妹だから使えないってだけで……」


「じゃあ、兄さんは私で興奮してくれる?」


「っ! そ、それは……」


 いつもの流れで言うのを躊躇っていると、雪音が「うぅ」とせせり泣き始める。


「兄さんは私で興奮してくれないんだ……私、もう生きる意味が……」


「興奮する興奮する! 正直我慢の限界でした!」


「……ほんと?」


「ほんとほんと! 雪音は素晴らしい女の子だ!」


 俺が言うと、雪音がケロっと表情を変えて俺に抱き着いてくる。


「やったーっ! 兄さん大好き! ちゅーっ♡」


「やめろやめろ! ったく、ほんと雪音はずるいな」


「ふふっ、女の子はみんなずる賢いものなんだよ?」


「はぁ、それは困った」


 何か手を打たないと、本当にマズい気がしてきた。

 昨日の夜で痛感したが、雪音はあの日の宣言通り、俺と落とすためなら手段を選ばない。

 気づいたら襲われてて既成事実を……なんて犯罪的な展開も、考えられなくはないわけで。


「(マジで部屋の鍵買わないと……)」


 まさか妹から夜這いをされないために鍵を買う日が来るなんて思いもしなかった。

 ……いや、そもそもそんな人はいないか。


「んふふ~♪ 兄さんと楽しい朝だ~♪」


 雪音が俺の腕にしがみつき、いつものごとく頬をすりすりと擦らせてくる。

 昨日あんなことがあったのに、元気なことだ。


「雪音はよく眠れたみたいだな?」


「いや、そんなことないよ?」


「そうなのか?」


 どっからどう見ても八時間は寝たみたいなテンションだから、あの後はぐっすりなのだと思っていた。


「うん、兄さんと同じで、私も結構……その、ムラムラしちゃって……」


「あ、あんまムラムラとか言うな! あと、その告白を兄にするな!」


「しょうがないじゃん! だって兄さんがあんなえっちな顔してたら、私もえっちな気分になっちゃうでしょ⁉」


「兄見てえっちな気分になるな!」


「なるもん! しかも昨日はチューしたのにお預けにされたし? そりゃ、満足できないし、ムラムラしちゃうもん!」


「えぇ⁉」


 あまりの勢いに、委縮していまう俺。

 なんだか俺が悪いような気さえしてきてしまう。


「だからしょうがなく、自分で慰めるしかなかったんだよぅ!」


「うわぁぁそんな妹の性事情聴きたくない!」


「妹に幻想見過ぎだよ兄さん! あのね、妹だってオ〇ニーがするの!」


「すごい爆弾発言してんな⁉」


「私、こう見えて結構性欲強いからね⁉」


「どっからどう見ても雪音はそのタイプだ!」


 こう見えてって、今までの言動を振り返ってどこに意外要素があるのだろうか。

 それにしたって雪音が……あぁ、朝から最悪だ。


「全部兄さんが悪いんだからね?」


「え、えぇ……」


 頬をフグのように膨らませて、俺の腕にしがみついたままぷいっと雪音がそっぽを向く。

 ご機嫌斜めになってしまった雪音にため息をつきながら、鏡に映る俺を見る。


「(心なしか、ここ数ヶ月で老けた気がする……)」


 雪音に寿命まで吸い取られている気がした俺だった。



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