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愛しのメリーさん

作者: 十一橋P助

「今どこ?」

 電話に出るなり相手も確かめずに訊いた。携帯の向こうから、聞き覚えのない女性の声が応える。

「今……ゴミ捨て場よ……」

 来た!通話を切ってすぐ、嬉しさのあまり小躍りしてしまった。今頃あの子はこちらに向かっていることだろう。その姿を想像して思わず笑みがこぼれた。

 

 ことの始まりは半年ほど前のこと。偶然立ち寄った骨董品屋で、外国製と思しき古びた人形を見つけた。その説明書きを見て目を疑った。

『この人形の名はメリーさん。かの有名な都市伝説、メリーさんの電話に登場する人形です。お買い上げの際は、細心のご注意を』

メリーさんの電話とはこんな話だ。

ある少女が引越しの際、古くなった人形「メリー」を捨てていった。その夜、少女に電話がかかってくる。

「あたしメリーさん。今ゴミ捨て場にいるの」

 少女が恐ろしくなって電話を切ってもすぐにかかってくる。

「あたしメリーさん。今○丁目の角にいるの」

 そしてついに、

「あたしメリーさん。今あなたの家の前にいるの」

 恐る恐る少女は玄関のドアを開けるが誰もいない。

 やはり誰かのイタズラかと思った瞬間、またも電話が。

「あたしメリーさん。今あなたの後ろにいるの」


 怪談や怖いものが大好きな私は迷わずそれを買った。自宅にいるときは常にそばに置いて大切にした。そして今日、私はこのアパートに引っ越してきた。例の都市伝説を再現するためだ。もちろん元いたマンションのゴミ捨て場に人形は捨ててきた。

 まさか本当に電話がかかってくるとは思わなかったが……。

 再び電話が鳴った。非通知だ。通話ボタンを押すなり、

「今どこ?」

 電話の向こうから怪訝そうな声が返ってくる。

「今……、コンビニの角にいるの……」

 それだけ聞いて電話を切った。

 順調だ。着々と私の家に近づいている。次はきっとうちの……と思っていたらまた電話が鳴った。

「今どこ?」

 しばらくの沈黙の後、

「今、あなたの家の前にいるの……」

「来た来た来た来た」

 呟きながら玄関に向かい、喜び勇んでドアを開けた。話の通り誰もいない。

 振り返りたくなる衝動を抑えつつ待っていると、またも着信音が鳴った。

 受話ボタンをタップし、携帯電話を耳に当てる。

 ところが期待したセリフが聞こえてこない。それどころか相手は何も言わなかった。

 あれ?どうしたのだろう。

「今どこ?」と問いかけてみても相手は無言のままだ。それでも息遣いだけは聞こえてくる。

「あの……。メリーさんですよね?」

 少し間を置いてから、

「違う」

 え?人違い?じゃあ誰からの電話?

「あ、ごめんなさい。どちら様ですか?」

「違う……いや、そうじゃない。私は、メリー。違うと言ったのは、思っていたのと違うという意味よ」

 は?どういうことだろう。と思っていたら、メリーさんの声は刺々しいものに変る。

「思ってたのとぜんぜん違うんだよ。もっと怖がれってんだこのブス!」

「ごめんなさい」

 咄嗟に謝った。どうやら私の言動がメリーさんのプライドを傷つけていたようだ。

「ねぇ。私、どうしたらいい?もう一度最初からやり直そうか?」

「無理」

「そんなこと言わないで。今度はちゃんとするから」

「駄目。あなたとはもう終わったの」

「やだ。お願い。もう一回だけチャンスをちょうだい!」

「嫌よ。こんな気持ちでやり直すなんて絶対無理!」

「だったらメリーさんの気持ちが落ち着いてからでも……」

 言い終える前に通話は一方的に切れた。

 そんな……。ちょっとはしゃぎすぎただけじゃない。実際に後ろに立っていたら思い切り怖がるつもりだったのよ。チャンスをくれたら、今度はメリーさんが言うとおりに何でもするんだから。

 言い訳したかったけど、非通知だからリダイヤルもできない。悶々とした気持ちを抱えたまま、私は部屋に戻った。


 半年後。

 調べに調べてようやく電話番号を手に入れた。そこにかけると呼び出し音が聞こえる。

「もしもし?」

 怪訝そうな相手の声に、笑いが出るのを堪えながら、

「もしもし。メリーさん?

 今、あなたの後ろにいるの……」



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