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あぶらあげ入りの味噌汁

作者: 笹木 人志

 河川敷沿いのお宅の庭の隅に、赤い鳥居の小さい祠がある。

 私は、この祠の中に鎮座しているお稲荷さんである。自分でも言うのは何だが、かなり齢を得ており、記憶している限りでは、ここに渡しがあった頃に据えられた。

 最初、此所は渡しを使う旅人の宿だった。以後、人の家は何度も建て替えられたが、私の住居は、壊れない限り改築はしてくれなかった。それでも、一応ここを見守り続けている。


 私にどんな御利益を求めてきても、所詮は置物である。御利益を与える力は無い。大事な事は、願う事。そして願いを成就するために努力する事である…と置物の分際ではあるが、そう思っている。


 私を奉っているこの家には、嬉しくない因縁がある。代々、主人となった男が短命で終わるとの事だ。精神に障害を発して幻覚をみたり、記憶障害を起こしたり、やがて顔色が灰色ぽくなって死んでしまうらしい。


 そして、この年もまた烏がこの家の屋根に良く止るようになった。

婆さんが、あぶらげ入りの味噌汁を私に供し、ひたすら手を合わせて、私の体の一部をこすって、僅かにこそげたものを味噌汁に入れると家に戻った。


 家の主人の具合が悪くなると、その家人が、古くからの言い伝えで行ってきた呪いのようなものだ。なんと私の体には御利益が付いているらしいのだ。


「お爺さん、お稲荷さんの御利益のある味噌汁だよ」婆さんの声が私には聞こえる。家の中にも小さい神棚があり、そこに奉ってある子狐を通して家の中の様子も分るのだ。

「ああ、ありがとうな」と爺さんは、味噌汁を飲むと、ほうっと息をした。「相変わらず旨いなぁ」

「代々、お稲荷さんの御利益で、楽になると言われておりますもの、直ぐに良くなりますよ」

「いや、もう充分生きたしな、お前の家で俺を拾ってくれなかったら、のたれ死んでいたかもしれん」

「あんたは充分に家を盛り上げてくださった。感謝していますよ」


 ああ、その楽になるってのは、意味が違うんだよ。私は、幸せそうな夫婦に忠告できる口がないことを悔やんだ。これで、何度悔しい思いをしただろうか


 私の白い体には、分厚く鉛白が塗られているのだ。最初の、被害者は、手の終えない主人だった。それを亡き者とするために、鉛白が用いられ、少しづつ主人の命を奪った。弱ってきた主人に楽になるからと、鉛白を与え続け。証拠を隠すために、残ったものを私にべったりと塗りつけたのだ。とても健康に良いものじゃあない。


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