まさかの再開・六
楊鷹は寝床まで戻ってくると、どっかりと座りこんだ。そうして、じろりと毛翠を見る。
「どこにもないんだが?」
「いや、でもわしは小屋に運びこまれたのは見たぞ。剣は確かにあった」
幼い指はしつこく枕元を指し示す。だが、そのちんまりとした爪の先は空である。
「ならば、どうして今、どこにもないんだ?」
楊鷹はもう一度尋ねた。
毛翠は喉を詰まらせる。楊鷹の疑問に答える者は、いなかった。
楊鷹は改めて小屋を見回す。
しかし、いくら眺めてみても、仙器の剣がありそうな怪しげなところはない。
「本当に、間違いなく、俺と一緒に剣はここに運びこまれたんだな?」
「ああ。確かだ。ただ……」
再度楊鷹が問いかけると、毛翠が言葉尻を濁した。
楊鷹は毛翠へと視線を滑らせて、話の先を促す。すると彼は、もじもじと指先で掛け布をいじりながら口を開いた。
「剣が運びこまれたところは確かに見たんだが、その後わしも疲れていてな。すぐに寝入ってしまったんだ。それからはお前のことが心配で、とにかく気が気でなくてだな。剣だとか荷物のことは、今の今まですっかり忘れておった。つまり、その、逐一見張っていたわけではないんだ」
「す、すまぬな」と最後に詫びながら、毛翠は笑う。ひどく引きつった硬い笑顔だ。
楊鷹は息を吐いた。言い返したいことはいくつかあったが、しかしここで彼を責めたところで剣が見つかるわけでもない。楊鷹は顔を背けて赤子を視界から追い出すと、顎に手を当ててじっと思案する。
毛翠の話が嘘でないならば、助けられて小屋に運ばれたときに剣はあった。しかし今は失くなっている。つまり、一旦小屋に運ばれて、誰かが運び出した、ということだ。数日の間、楊鷹は意識を失った状態で、そばにいる毛翠も気がそぞろであった。ならば、こっそりと持ち出す隙は、十分あった。
では、一体誰が、何のために運び出したのか。
毛翠を見ることなく、楊鷹は尋ねる。
「俺が気を失っていたとき、月蓉と李白蓮殿の他にこの小屋に出入りした人間はいたか?」
「お前とわしを川から引きあげた男が入った。その男が、月蓉と一緒にわしらをこの小屋まで運んだんだ。他は……少なくともわしが起きているときには見ていない」
「そうか……」
楊鷹は、月蓉と李白連の二人しか見ていない。となれば、この小屋に出入りしたのは、楊鷹たちを川から引きあげた男と月蓉と李白蓮の三人、ということになる。寝ている間に他の誰か――盗人か何か――が忍び込んだ可能性も否定できないが、こんな古びた納屋を狙うだろうか。
(ひとまず、月蓉が戻ってきたら聞いてみるか)
と、寝床に寝っ転がりながら楊鷹は考える。少し動いたためか、腹の傷が少々傷んだ。
(おそらく、月蓉か李殿が持ち出したのだと思うが……)
順当に考えれば、そうだろう。楊鷹と同じ屋根の下にいるのはこの二人であり、彼女たちは何度も納屋に出入りしているのだ。剣を持ち出す機会は、幾度となくあったはず。
(だが、月蓉が別の場所に持って行ったなら、教えてくれるよな?)
伝え忘れているのだろうか。
そのとき、ふと楊鷹は嫌な予感を覚えた。
仙器の翡翠のような刃が、頭の中に浮かんでくる。一見剣だとは思えない、本物の翡翠と見まごうばかりの玉刃は、誰の目にも美しく映るだろう。
(本当に、剣は運び出されたのか……?)
ある疑念が浮かんでくる。楊鷹は、ぐしゃりと髪を掴んだ。その疑念が疑念ではなく、もしも真であるならば、非常に厄介なことになる。
傷口の痛みが増した気がして、楊鷹はそっと腹を押さえた。




