表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小仙奇譚  作者: 平井みね
第二章
60/131

まさかの再開・六

 楊鷹(ようおう)は寝床まで戻ってくると、どっかりと座りこんだ。そうして、じろりと毛翠(もうすい)を見る。


「どこにもないんだが?」

「いや、でもわしは小屋に運びこまれたのは見たぞ。剣は確かにあった」


 幼い指はしつこく枕元を指し示す。だが、そのちんまりとした爪の先は空である。


「ならば、どうして今、どこにもないんだ?」


 楊鷹はもう一度尋ねた。

 毛翠は喉を詰まらせる。楊鷹の疑問に答える者は、いなかった。

 楊鷹は改めて小屋を見回す。

 しかし、いくら眺めてみても、仙器の剣がありそうな怪しげなところはない。


「本当に、間違いなく、俺と一緒に剣はここに運びこまれたんだな?」

「ああ。確かだ。ただ……」


 再度楊鷹が問いかけると、毛翠が言葉尻を濁した。

 楊鷹は毛翠へと視線を滑らせて、話の先を促す。すると彼は、もじもじと指先で掛け布をいじりながら口を開いた。 

 

「剣が運びこまれたところは確かに見たんだが、その後わしも疲れていてな。すぐに寝入ってしまったんだ。それからはお前のことが心配で、とにかく気が気でなくてだな。剣だとか荷物のことは、今の今まですっかり忘れておった。つまり、その、逐一見張っていたわけではないんだ」


「す、すまぬな」と最後に詫びながら、毛翠は笑う。ひどく引きつった硬い笑顔だ。

 楊鷹は息を吐いた。言い返したいことはいくつかあったが、しかしここで彼を責めたところで剣が見つかるわけでもない。楊鷹は顔を背けて赤子を視界から追い出すと、顎に手を当ててじっと思案する。


 毛翠の話が嘘でないならば、助けられて小屋に運ばれたときに剣はあった。しかし今は失くなっている。つまり、一旦小屋に運ばれて、誰かが運び出した、ということだ。数日の間、楊鷹は意識を失った状態で、そばにいる毛翠も気がそぞろであった。ならば、こっそりと持ち出す隙は、十分あった。

 では、一体誰が、何のために運び出したのか。

 毛翠を見ることなく、楊鷹は尋ねる。


「俺が気を失っていたとき、月蓉(げつよう)李白蓮(りはくれん)殿の他にこの小屋に出入りした人間はいたか?」

「お前とわしを川から引きあげた男が入った。その男が、月蓉と一緒にわしらをこの小屋まで運んだんだ。他は……少なくともわしが起きているときには見ていない」

「そうか……」


 楊鷹は、月蓉と李白連の二人しか見ていない。となれば、この小屋に出入りしたのは、楊鷹たちを川から引きあげた男と月蓉と李白蓮の三人、ということになる。寝ている間に他の誰か――盗人か何か――が忍び込んだ可能性も否定できないが、こんな古びた納屋を狙うだろうか。


(ひとまず、月蓉が戻ってきたら聞いてみるか)


 と、寝床に寝っ転がりながら楊鷹は考える。少し動いたためか、腹の傷が少々傷んだ。


(おそらく、月蓉か李殿が持ち出したのだと思うが……)


 順当に考えれば、そうだろう。楊鷹と同じ屋根の下にいるのはこの二人であり、彼女たちは何度も納屋に出入りしているのだ。剣を持ち出す機会は、幾度となくあったはず。


(だが、月蓉が別の場所に持って行ったなら、教えてくれるよな?)


 伝え忘れているのだろうか。

 そのとき、ふと楊鷹は嫌な予感を覚えた。

 仙器の翡翠のような刃が、頭の中に浮かんでくる。一見剣だとは思えない、本物の翡翠と見まごうばかりの玉刃(ぎょくじん)は、誰の目にも美しく映るだろう。


(本当に、剣は運び出されたのか……?)


 ある疑念が浮かんでくる。楊鷹は、ぐしゃりと髪を掴んだ。その疑念が疑念ではなく、もしも(まこと)であるならば、非常に厄介なことになる。

 傷口の痛みが増した気がして、楊鷹はそっと腹を押さえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ