第八十四話 執行日
日に日に冷えていく季節にしては珍しく、その日は抜けるような青空に太陽が浮かび、春が訪れたようであった。
まして、国中の人々が集まり、喧騒が絶えないガーゼルの街では夏が戻った感さえあった。
広場の中心に据え付けられた木製の絞首台と、そこへと登っていくための螺旋状の階段がよく見える場所を人々は取り合い、時としてケンカに発展して兵士達に拘束される騒ぎは1件や2件では済まなかった。
突然、大きな銅鑼の音が秋空に響き渡る。
それまであちらこちらから聞こえていた人々のざわめきが掻き消されたように沈んで行き、視線が一同に集まる。
集まった先は城の一角。王将軍こと、アウグスティーンが姿を表し、さっと右手をあげると群集から割れんばかりの喚声が上がった。
アウグスティーンは喚声を心地よさ気に一身に浴びると、程なくして満足したように手を下ろした。
それが合図となって、再び静まり返っていく。
「諸君!」
簡潔かつ力強い言葉が人々に投げ掛けられる。
「長きにわたる雌伏の時はやがて終わりを告げるであろう!
ブライタン島を支配したクレイス王国と干戈を交えること幾度あったであろうか。
我等が誇り高きウィードはいかなる辛酸も飲まされては飲み尽くして今日を迎えた。
諸君も承知のとおりすでに我が軍はクレイス城を包囲している。
ここに至り我等は大戦果を上げた!
注目し給え! 虜囚の憂き目に遇いしアレックス=レオンハルト=クレイス王子の姿を!」
大きな拍手とともに城門がゆっくりと開きはじめた。