第八十三話 執行前夜
夜の帳は等しく人々の頭上に降りてくる。
だが、この地下にある牢屋には太陽は姿を見せることなく、夜の訪れを知るすべはない。
ただ、3回運ばれる食事だけが、時間を推し量る手段だった。
「きちんと食えよ。処刑される前に飢え死にしたり、衰弱しきってあっさり逝っちまったんじゃつまらないからな。死刑囚は生きがよくなくちゃいけない。長く長く、縄がゆっくりと首に食い込んでいき顔が苦痛にゆがんで、次第に涎が垂れ、目がむき出しになり、糞尿を垂れ流すようになるんだ。ああん? この程度で食欲を失うのか? それともウィードのご馳走が食えないっていうのか? それならおれが喰わしてやるよ!」
看守はアレックスの顎をつかみ口を無理やりこじ開けると、椀に入った汁を流し込んだ。
「げほっげほっ!」
「おおっと、吐き出すなよ。最後の一滴までこぼさず飲めよ! あはは!」
「まぁまぁその程度にしておけよ。なにせ死刑執行は明日。これが最後の晩餐ってやつだからな。ゆっくり味あわせてやんな」
「明日?」
力なく光を失った眼を看守に向けた。
「ああん? 日付も分からなくなっちまったのか? まぁ、こんなところに居ればそうかもしれないな。お前が王将軍様と謁見してから6日。明日が執行日さ!」
「明日……」
震えが止まらない。6日間、助けを求めた。スィンが暴れながら降りてこないか? あるいはスネイプが看守の頭を吹き飛ばしてくれないか。あるいはクルラがさっそうと目の前に降り立ってこないか……。
何度も妄想し、現実ではないことを悟りため息をつく。
だがそれももうおしまい。寝て覚めれば死刑が待っている。
その現実がアレックスの肩に重くのしかかっていた。