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第八十二話 影を呑む闇
火花は城の外周から徐々に室内へと飲み込まれて行った。
「ドコマデ イクキダ?」
マーナーの一撃加えて後ろに下がるという動きは明らかに誘いであった。だからといって誘いに乗らず仕留めることは出来ない。
そもそも城の中に外敵を入れては構造や勢力などを教えてしまう。あえてそれを実行する理由はただ一つ。敵を生きて帰さないことに対する自信があるからだ。
火花の動きは内部でもさらに下部、それも深部へと向かっていく。
石造りの壁に装飾がほどこされたきらびやかな広間を抜けてついにはかび臭さに包まれた階段を下っていく。
マーナーの姿が消えた。油断は出来ないが、ここがどこであるか把握に努める。
「ロウ?」
石の天井と床を貫く幾本もの鉄棒。
そしてその向こうにある存在に忍びは本来の目的を思い出す。
「デンカ……!」
それが忍びの最後の言葉となった。
崩れ落ちる影の後ろで闇が紅い三日月を作るように笑みを浮かべていた。