第八十一話 火花
月下のガーゼル城のあちらこちらで火花が飛び散った。
あるいは南東の見張りに使用される尖塔の屋根で、あるいは剪定された植え込みのある中庭で、果ては王将軍が休む寝室のと壁一枚隔てただけの回廊でさえも。
マーナーのシャムシールは影に届かず、忍びの刀は闇を切り裂くことは出来なかった。
「あんたも不思議だね。こんなに騒いだら誰かが起きてくると思わないのかい?」
忍びの目が、何かを確信し批判を込めてマーナーを見つめた。
「やれやれ。そこまでお見通しかい。あんたとは思い切り戦いたかったからね。ちょいっとみなさんには眠ってもらったよ」
忍びは眉をひそめて口元を覆う布を手で整えた。
「そうそう、あまり回りの空気を吸うんじゃないよ。あんたまで眠られたらつまらないからね」
忍びは批判の目を怒りに変えて、刀を逆手に持ち替えた。
「何をそんなに怒ってるんだい? あんたにとっては敵あたる連中を眠らせただけじゃないか」
「シノビトハ アルジノタメニウゴクモノ オノガヨクボウガタメ アルマジキ」
「なんだい。私のことも忍びとして見てくれてるのかい? そんなまね事をしていた時期もあったねぇ」
言いながら、マーナーは懐から光るものを取り出し何度も宙に放り上げて弄んだ。
「インジ……」
忍びが姿を消すと同時マーナーも闇に溶け込んだ。二人の中間点で火花が飛び散り、二人の位置関係が入れ代わった。
「そう簡単には取り返させないよ。苦労してここまで持ってきたんだからね」
「ゲセヌ。ナゼ、アルジニワタサヌ?」
「簡単さぁ。私は裏から全てを手に入れるのさ。印璽も王子様も。そしてこの島もね」
忍びは怒りを通り越して呆れたように首を横に振った。
「ブソウオウナモノハ、テニイレタラ ミヲホロボス」
「へぇ。あんたが滅ぼしてくれるのかい? やってみな!」
マーナーが再びシャムシールを振り上げた。