第七十九話 繁盛
街が活発になった。ウィード領内の地方都市から次々と人、物、そして金が首都ガーゼルに集まって来る。
戦争で忘れ去られていた“にぎわい”という言葉をここぞとばかりに人々は求めていた。
それが捕虜の処刑、それも敵国の後継者たる王子とあらば千年に一度見られるかどうかの大好機によって与えられていたため、人々の興奮は氷水をぶっかけても醒める気配はない。
これは見逃してなるものかと、富めるものは馬車にお供にの大名行列、貧しいものも家財道具全て果ては子供さえ丁稚奉公に出させてでも旅費を捻出して街道を急いでいた。
外壁に囲まれたガーゼルの城下街の南大門が開き、木材を大量に載せた荷馬車が目抜き通りを駆け抜けて行った。目的地は街の中心に位置する大広場。
ここに王子専用の処刑台を築こうとしていた。
集まる人々はかなりの数にのぼるとみられ、広場に収容できないとアウグスティーン王は考えている。あぶれた人々をどうするか。 簡単である。外壁の上を開放してそこから見物させるのである。
これによって発生する障害は街の家々が邪魔で処刑台が見えないことであるが、それならば高くしてしまえ、と専用のものを築くのである。
だがここにきて王将軍の性癖が出た。 広間に集まった人々に王子を晒すための舞台を低い位置に設け、そこから高い位置にある絞首台へと上る螺旋状の階段を作るのである。
死地へと自分の足で歩ませる。
「彼は一体どのような姿を晒してくれるであろうか? 獅子王と呼ばれた初代クレイス王の血筋がどれほどのものかたっぷりと見せてもらおう」
城の空中庭園から広場に出来つつある処刑台を見下ろしながらアウグスティーン王はワインの杯を傾けた。