幕間
「ワシはこういう戦は好かん」
メルムーク将軍は覗いていた望遠鏡を下ろすと一言で言い捨てた。
ウィード軍に動きは無い。陣営を築き、守りをしっかりと固めている。ただ剣でかたどられたWの文字の旗が左から右に流れていた。
「将軍、戦は好き嫌いでするものではないと考えますが」
「分かっておる。だがこのまま睨み合っているだけでは冬が訪れる」
「それはウィード軍にとって不利でございましょう。彼等の補給は山河を越えて行わなければなりません。対して、我等は整備された街道を通ってきます。冬になり雪となれば彼等に残されたのは退却しかありません。そのとき我等は追撃すればよいのです」
「そのときを座して待つ……」
「はい」
「ような連中か? ウィード軍は」
「それは……」
「これは奴らの作戦よ。雪が降れば勝つ。クレイス軍がそう思って士気が落ちるときを待っておるのよ」
将軍の言葉に側近達は空を仰いだ。北から流れて来る灰色の雲が今にも罰を与えんばかりに怒り狂いそうに思えた。
「やれやれ、こういうとき、あやつがおれば動きをつくれようものを……無いものねだりは……」
あかんか、と周りに聞こえないように小さくつぶやいた。
「ワシらしくないのう。あの雲がワシを陰欝にさせたか。どれ、暴れる部下がおらぬなら……馬をひけー!」
「どこへ行かれるのです!?」
「知れたことよ! あいつがここにおればこう言うわ! 『天下のメルムーク将軍サマも老いたねえ。昔のあんたなら先陣切って暴れるだろうよ。やはり俺がいなきゃダメかい?』とな!」
将軍は用意された馬にひらりと飛び乗ると、叫びながら自陣を駆け抜けた。
「続け続けー! 続けー! けぇー!」
そしてクレイス軍は将軍を先頭とした一本の錐となりウィード軍に突き刺さった。