第七十六話 護送
「結論から言おう……。あれでは奪還は不可能だ」
「アレックスの身分がばれているとしか思えないほどの護送っぷりだねぇ」
砦から首都へ続く道を樹の上から見下ろしながらスネイプとスィンは肩の力を落とさざるを得なかった。
「お~お~まるで王様の行幸だ。ひぃふぅ……やめた。ざっと300名か。ここまで兵士が護送しているなら。あんな辺境の砦は空っぽだろ。いっそ占領してしまうぜ、って言いたくなるな」
前後は当然の行列にしても、おそらくアレックスを載せているであろう馬車の左右は、他の兵士よりも上等な鎧に身を包んだ騎兵が固められていた。
「占領しても、そのあとの守りが不可能だしな。戦略的には意味がない。それよりもアレックスを救出することが優先だ。クレイスの王子様がウィードで虜囚の辱めを受けているとなると、戦局はかなり不利になる」
「ヘタすると処刑だろ。あの王将軍様の性格から考えるとな」
「ごめんなさい。私がアレックスを一人にしたばかりに……」
クルラが珍しくさえない表情でうつむいたままだった。
「気にするな。お前は俺の指示に従っただけだ。今回の落ち度は俺にある」
「そうだ、スネイプがアレックスを抜きにしてマーナーを尋問しようと言いだしたからだ。やーいやーい。スネイプのせいだ」
「スィン……」
クルラが潤んだ瞳でスィンを見上げた。
「お、なんだ? あ、そうかい。愛する人をなじるなって。そりゃぁすまんかったな」
「そうじゃなくて……。ありがとう」
「な、なんだよ。調子狂うな。礼を言われることはしてないぞ」
「そうなの? じゃぁ、愛する人をなじるな!」
「それでこそクルラだな」
「夫婦漫才はそのあたりにしてアレックス奪還作戦を考え直すぞ」
「「夫婦じゃない!!」」