第七十四話 誘拐
「マーナー……貴様! まさか?!」
「私は何も? ただあまりにも不用心ではないかと、忠告しただけですわ」
2人が向こう岸を見ると、闇の中から赤い影、だけ、が見える。
「クルラ! 向こうに誰かいなかったか?」
「いなかったわ。だから置いてきたけどまずかったかしら?」
「スィン!」
「ああ、俺が行く! クルラ頼む!」
スィンが大きく跳躍する。
「え、ちょっと! いきなり何よ!」
あわててクルラがその身体を抱きかかえて尋ねた。
「いいから、超特急だ!」
クルラが訝しがりながらも翼を強くはためかせて向こう岸へと消えていった。
「二人きりになれましたわね」
「罠に……はめたのか?」
「いいえ? 私は何も。ただあなた方についてきただけですわ。アレックス様に惚れたがゆえに一途な思いで……」
「残念だったな。それもここまでだ。あんたはここで置いていく。否。消えてもらおう」
スネイプが引き金に指をかけた瞬間。
まるで影の中に溶け込むように姿が消えた。
「それは残念ですわ。正直にお教えしましょう。私は闇の民。影があればどこでも移動ができるの。また向こうでお会いしましょう。愛するアレックス様のそばで」
「くっそ。ウィードの間者め」
「スネイプ! 大変! アレックスがいないわ! スィンが捜しているけれども……」
「やはり……連れ去られたか……」