第七十三話 尋問
「うわ、落ちる、あわあわあわ~~~!」
体勢を崩したアレックスが水面と口づけしようとした瞬間、襟首を掴まれてすんでのところで引っ張り上げられた。
浮遊感。水面がぐんぐん離れていく。
「う、浮いてる?」
「お手本ってこんな感じでいいのかしら?」
クルラが翼をはためかせて、アレックスをまるで猫をつかむようにして抱えていた。
「ああ、そのままだとアレックスは窒息死だな」
スネイプの言葉にクルラは見下ろすと、アレックスの首や手足がだらんと力なく垂れ下がっていた。
「あらごめんなさい。首が閉まっていたかしら。私としたことがおほほ」
照れを隠すように口元に手を当てて笑うと、体勢を変えてそのまま向こう岸の方へと飛び去って行った。
「さて、邪魔者が消えたところで……」
スネイプがマーナーの後ろに立つ。
「へい彼女。茶でもしばかへん?」
にやにやと笑みを浮かべたスィンがマーナーの前に立つ。
「あら、こんな人気のいないところで急にどうしたのかしら? 私は一向に構わないけども、お二人同時に相手するのは少し骨が折れそうね」
「ああ、本来なら一対一でお付き合い願いたいところだがどうもそういうわけにはいきそうもねえ」
スィンが肩をすくめてつぶやき、鉤爪を抜き放つ。
同時、マーナーは背中にも何かが当たるものを感じる。
「あなたの一物はとても冷たく硬いのね?」
「ああ、絶頂に達した瞬間は天にも昇る気持ちになれるぜ?」
「そんなに殺気立たなくても、お相手してほしければいつでも私は受け入れるわよ」
「そうかい? それじゃぁ、聞こうか。何が目的だ?」
「あら、あの犬と同じことを聞くのね。そうね。アレックス様……かしら?」
前後の男が同時に眉を吊り上げる。
「一目ぼれしてしまいましたわ。涼しげな瞳。すらっとした顔立ち。それでいてどこか抜けているところがあって……母性本能をくすぐられますわ」
「その言葉を聞いて、はい、そうですか。と言えるほど俺達は修羅場を知らないわけじゃない。男を罠にはめるのには色香が一番だからな」
「あら、乙女の純情を疑うなんて心外ね」
湖が凍りつくのではないかと思うほどに冷たい空気が辺りを漂う。
「ところであなた方はどうやって渡るのかしら?」
「話を変えるつもりか?」
「クルラちゃんが何往復かするつもりなら、アレックス様が向こう岸でおひとりになる時間がありますわねぇ」
二人がはっと息をのむ。
「お忘れですの? この湖から先はウィード領ですのよ」