第七十二話 地底湖
何故土の民は、よそ者にこの道を通過させないのか?
縄張り?
否
聖域?
否
「そんなもの決まってるじゃねーか」
「凹凸の激しい道とは呼べぬ岩肌を上り下りすることは想像出来たから我慢できる。
所々現れる土柱に頭をぶつけたのもご愛敬。痛いけど。
だけど、なんだよこれ!」
頭上を覆う天井から落ちる雫が波紋となって広がる。
その音は反響し、空間の広さと静けさを強調する。
「聞いてない。僕は聞いてないぞ! こんな所どうやって通るんだよ!」
「泳いで渡るか? けらけら」
アレックスは試しに水面に触れ、すぐさま引っ込めた。
「こんな冷たい水には入れないよ!」
「ふとヤサクが水底を見下ろしてみると、死んだと思っていたカヘエが青黒く染まった鬼のような顔で睨みつけていた。『ひぃぃ! 成仏したまへ! 成仏したまへ!』カヘエは拝むヤサクの両足をガッと握り締めると皮がズルッと剥け白骨があらわとなった。しかし握る力はあまりに強くヤサクは振りほどくことも出来ぬまま、ズルズルと湖の中へと引きずり込まれていく。ズルズルと……。ズルズルと……」
「こんなところで怪談は求めていないよ。クルラ」
「怪談じゃないわ。実際に土の民がすむ洞窟の地底湖、サメヒカ湖で起こった事件よ。ここがそうなんだわ」
「冗談でもそういうことは言うべきじゃないと思うんだな」
「膝が震えているぜアレックス。それはそうと手本を見せてくれよ」
言いながらスィンはアレックスの肩を押した。