第六十話 闇のいざない
「あんな感じでいいのかしら?」
クルラはスネイプ達のところに戻ると開口一番疑問をぶつけた。
「まぁ、あんなもんだろ」
「女のことで悩んでいる男は、女が慰めりゃ一発よ」
スィンの言葉にクルラが肩をすくめる。
「そんな単純な男、スィンだけじゃないの?」
「そんなことはない。なぁ、スネイプ」
肩に手を載せてくるスィンに顔をしかめた。
「ともかくだ。壊れたままなら壊れたままでいい。むしろ変な命令を出すことなく、俺達には行動する大義名分がついてくれたら万歳だ」
「やれやれ、スネイプにかかればアレックスは大義か」
「当然だろ?」
「僕が……。今……。すべき……。こと……」
草むらに手をついたままぶつぶつとアレックスは呟いていた。夜露が手を濡らし始めるが、気に留める余裕はなかった。
「何を悩んでいるのかしら?」
同じ女声でも、クルラと違ってやや低く、それでいて頭に直接語りかける様な声が耳に入ってきた。
「ま、マーナー……さん」
アレックスが顔を上げると月明かりで銀色の髪を濡らしたまま見下ろす女性。
だが、いつも身にまとっているフードだけでなく、身体を隠すものをひとつも持たず小麦色の肌を露わにしたまま腰をかがめた。
「あ、あう……」
しどろもどろのアレックスの手をとり、その甲にゆっくりと口付けをする。
「あんな小娘の綺麗ごとに惑わされては駄目……」
「え……」
「結局、あなたはただ女の体を求めていただけ……。ミーニャでそれをかなえようとした。そうでしょ?」
首を横に振るが、それを無視してマーナーの体が近づいていくる。
(あ、マーナーの耳も……。長い……。マーナーも森の民……?)
「あなたは牡の本能として牝の体に欲望しているだけ。それをミーニャに求めてかなわなかったから……」
二人の口と口が触れ合う。胸の、肌の柔らかさと温かさが伝わってくる。
「だから……。代わりが欲しい。それだけ」
アレックスは必死になって首を横に振る。それを認めれば、ミーニャへの恋心を否定することになるから。
だけど、アレックスの下半身はマーナーの言葉が正しいことを認めていた。
「良いのよ」
アレックスの耳元で囁く。
「私が……代わりになっても……あなたがミーニャにしたかったことを思う存分に……」
アレックスは言葉も出せずに首を横に振る。
「気にしなくていいのよ。だって私たちは既に……」
マーナーの言葉と同時、アレックスが彼女の瞳に吸いこまれそうになった瞬間、別の空間で聞こえた風切り音。続いた金属同士がぶつかる音。
「デンカカラ……ハナレロ……」
シュバインバルトの森で合流した忍びが刃を片手にマーナーに襲いかかり、彼女はそれを同じように刀ではじき、アレックスから離れていた。