第五十八話 月下で
月明かりの下、スィンはヘルマンの遺体を埋めた墓の前で酒を傾けていた。
「なぁ、スネイプ。俺達、どうなるんだ?」
胡坐をかいているスィンの後ろでスネイプは樹にもたれかかって答えた。
「どうなるもこうなるもない。目的のために前に進むだけだ」
「冷てえなぁ。今までの仲間も、目的のためなら捨てていくのか」
「お前は軍人だろ。仲間が死ぬたびに、どうこうして戦に勝てるのか?」
「そうだけどよ。お前は知らないだろうが、ヘルマンは兵学校の時からずっと一緒だったんだ。ウィードとの戦では配属が別だったけどよ。手紙などやり取りして、戦果を自慢しあってたんだ」
スネイプは答えずにスィンの言葉に耳を傾けていた。
「兵学校じゃ卒業時に剣術大会が行われるんだ。俺は剣だけで競う大会が嫌で棄権したんだが、ヘルマンはあっさり優勝したよ。競技だけじゃない。戦場でもウィード軍には負けやしなかった。それはお前も知っているだろ? そんなヘルマンがあっさりと殺されるなんて考えられねえ」
「ヘルマンは剣術大会優勝者、お前は棄権者。お前がヘルマンを殺した奴を倒せば……」
「本当はヘルマンの方が強かったという証明になるってか。そうだよな。きっと奴は卑怯な手を使ったに違いねえ! よし、ヘルマン。力を貸してくれや。これは敵討ちとかちっぽけなもんじゃねえ。俺たちクレイス王立兵学校歩兵科第五十七期主席と次席の実力を証明合戦だ! クレイス軍の風習で戦場に死体を埋めた時はそいつの得物を墓代わりにするもんだが、ヘルマンの得物は俺が連れていく。一緒に奴を倒すんだ!」
「落ちこんでもいられない状況だってことは理解してたか……。強がりやがって……」
「何か言ったか? スネイプ」
「いや。それより気づいていたか? ヘルマンが遺したと思われる剣戟の痕を」
スィンは耳をひくつかせると、突然立ち上がりスネイプに詰め寄った。
「何か……ヘルマンを殺した野郎の手掛かりでもあるのか?」
「はっきりと断定はできないが、地面に残っていた傷痕は”W”の形をなしていた」
「W……だぁ? そんなもんウィードに決まっているじゃねえか。ウィードの頭文字でもあり国旗でもあるからな」
「ウィード。そんな単純な……。ウィードと戦争中だから、殺したのはウィードだなんて当たり前のことを今わの際に遺すか?」
「わからねぇけど、そうとしか考えられないぜ?」
「まぁ、少し考えるとするか。ところで王子様の方はどうなっているかね……」
「ああ、ありゃぁ重傷だろうな」