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七人の追跡者  作者: 柊椿
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第五話 伝承

ようやくこの世界の歴史的背景についてなどが明らかになっていきます

 クレイス王国王子アレックスは城の宝物庫にいた。

数多くの宝石や武具が納められている中で、一番厳重に祀られている印璽を眺め続けている。

純金で作られ、獅子の意匠が施されているだけの印璽。

「ウィード軍がどれほど強くても、この印璽がある限りこのクレイスは負けない」

 王子は後ろに振り返り、控えていたルカスを見た。

「ルカス。この印璽にまつわる伝承を教えてくれないか」

「お戯れを……。殿下の方がお詳しいかと」

「改めて確認したいんだ。この国の危機を乗り越える力を沸き出すために」

 ルカスは頭を垂れたまま口を開いた。

「ブライタン島に英雄あり。名はレオンハルト=クレイス。別たれた四つの民の一つ、草の民なり。

草の民、争い絶えず。

彼、これを憂慮す。なす術もなし」

様々な人から聞いてきた物語。

 今も目を閉じてルカスの口から出てくる言葉を一つ一つ噛みしめる。

「紀元前5年。彼、狩りに出る。

 バラポラス平原に於いて、一頭の獅子と出逢う。

彼、これを仕留めんとす。獅子立ち塞がる。それ堂々たり。獅子曰く。

『哀れなるかな、草の民。争いで同胞を傷つけ合うや、草の民。慰みに獅子を狩らんとするか、草の民』

 彼驚き、臣下の礼を取りて曰く。

『草原の王よ。草の民の争い、治める術はなきや。知恵を借りん』

『容易なり。汝、覇者となるべし』

『我覇者の器にあらず。ただ争い激化するのみ』

『器を望むか、草の民。望まば与えん』

『我望むなり!』

 獅子笑いて曰く。

『我、汝にこれを与えん』

 彼、印璽を受取る。獅子曰く。

『書に命じて印を打つ。即ち民これに従う』

『我誓う。これを用いて覇者とならん』」

 ルカスはゆっくりと物語の最後まで紡いだ。

「この印璽には人々を従わせる力がある。始祖レオンハルト殿もこの印璽のおかげでクレイス王国を築き上げた。まさしく誓いの通り覇者となったのだ」

 王子は目を開き、再び印璽に視線を向ける。

「だから、クレイスはウィードのような革命で成り上がったような軍事政府に負けはしない」

 ルカスは何も答えず、じっと王子の言葉に耳を傾けていた。

「僕も今年で十六だ。レオンハルト殿のように戦場を駆け巡りたい。いや、それを民は望んでいる。父王のように将軍達に任せては居られない」

「王子、恐れながら……そのような事を口にしては、王も将軍達も快く思いませぬぞ」

「構わぬ。王家たるもの陣頭で指揮を執るべきだ。父王が出陣されぬなら……僕が出るまでだ。

 今戦況は膠着している。メルムーク将軍も大鷹砦、角突砦を加えた三方向からの包囲には防戦することで手一杯。両砦を奪還することは困難に違いない。

だからこそ、僕はこの印璽を以て出撃する! これは次期王としての務めだ」

「……」

 ルカスは何も答えずじっと頭を垂らしたままだった。

 一時の静寂……しかし、それはすぐに打ち破られた。

「曲者だ!」

「宝物庫に向かっているぞ!」

 部屋の外から聞こえる怒号に、すぐさまルカスは王子をかばうように傍に向かった。

「ルカス、不要だ。自分のことは自分で守る。それよりも曲者の目的は……何だと思う?」

「二つ考えられます。一つは王子ご自身のお命。もう一つは……」

 ルカスは宝物庫の奥を一瞥した。

「やはり、印璽か」

 アレックスはすぐさま、印璽と同じように祀られている槍を手に取った。

「王子、それは……」

 ルカスのたしなめる物言いも意に介せず、槍を構えた。

「これが始祖レオンハルト殿が用いた槍……古くとも穂先は軽く、錆付いていない。柄も丈夫だ。その力……お借りします」

「曲者め! ここは通さ、ぐわ!」

「王子、どうやら宝物庫の警備兵も討たれた様子……お逃げくださいませ!」

 ルカスも腰の剣を抜いて構えを取る。

「出口は一つしかない。そこの警備兵がやられたのだ。どこへ逃げよと? 逃げずに曲者を討つ!」

「おやおや、威勢の良い坊やだね?」

 宝物庫の扉がゆっくりと開かれる。

「女?」

「王子、女といえど油断無きよう。この宝物庫を警備していたのは屈強の第四親衛隊。それをものともしていないのです」

「これで、屈強なのかい? クレイスの程度が知れているねぇ?」

 開かれた扉から赤い覆面と装束で目以外を覆い尽くした姿が現れた。


如何でしたか?

次回をお楽しみに願います


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