第五十三話 決断
「アレックスよ。情ってのがあるのが人間だ。それはわかる。だが、あんたは人の上に立っている人間だ。時として情を捨てなければならない。今がその時だ。あんたの目的はなんだ? 印璽を取り戻すことじゃないのか? だとしたら、この場はどうすべきか分かるだろ?」
スネイプの言葉はあまりにも単純すぎて明快すぎて頭に素直に入ってきてしまう。だからこそ困る。
心が納得しないのだ。
己の心に問いかけた。
なぜ、納得しないのか。
答えは明確だった。
皆の指摘通り、自分がミーニャに惚れているということだった。
種族が違うとか、たった一日しか話していないとか、そんなことをすべて抜きにして、彼女の力になりたいという思いが別の感情を生み出したのだった。
ウィードに滅ぼされたクレイスの村を思い出す。王子として最終的な勝利のために、一部を犠牲にすることは理解できても、殺された村の娘がミーニャと重なる。
アレックスは強く首を横に振った。
「スィン! ヘルマン! スネイプ! クルラ!」
「あ、なんかますますやばいなこの感じ……」
「無駄口をたたくな、スィン! 僕たちは! これより……」
四人はあきらめ顔でうつむいた。ただ一人マーナーだけが無表情で横にたたずみながら。
「シュバインバルトを守るため、ウィード軍と戦う!」
「そいつは無理だ。ウィード軍は騎兵100騎程度で向ってきてる。勝ち目はない」
「勝利の死神の力を持ってしてもか?」
「くくく、勝利の死神? そんなもの幻想さ。なぜ勝利の死神と呼ばれているか。負けるとわかっている戦には参加しないからさ」
「それでも、今回は参加してもらう。そして勝利に導け!」
「無茶言うぜ。ヘルマンは従うのか?」
スィンがヘルマンに耳打ちで尋ねた。
「軍人は上官の命令は絶対だ」
「給料をもらっている身はつれえなぁ」
「ねぇ、スネイプ。さすがにこれは従う必要はないんじゃない?」
「まぁね。だが、こちらも金をもらっているんでね。ところでクルラ。一つ頼みがある」
「えぇ~、内容が想像できるだけにいやだなぁ」