第五十話 路傍の花
ミーニャはアレックスより一段高い枝に腰かけていた。
木々の枝から漏れる月明かりを背にして金色の髪が光に濡れる。
すらりと伸びた白く細い腕と足がゆらゆらと揺れているように見えた。
「こんなに細い腕で弓を引き、僕たちを狙っていたのか……」
ミーニャに聞こえないようにアレックスはつぶやいた。昼の出来事を思い出してもぞっとするが、今はその気配はない。あのときはあのとき、今は今。ミーニャの横顔はそう告げていた。
先ほどまで鳴いていた鳥たちの声がふと消えた。代わりにミーニャの鼻歌がアレックスの耳に届いてくる。まるで、鳥たちがミーニャに舞台を譲り渡したかのように。
アレックスは色々と聞きたいことがあった。初めて出会った森の民たちに対する好奇心が次々と湧きあがってくる。
なぜ昼間襲いかかってきたのか。
なぜ見世物のような戦いをしなければなかったのか?
なぜ何事もなかったかのようにもてなしを始めたのか?
なにより、ミーニャが今自分たちを、いや、自分をどう思っているのか……。
気になって仕方がなく、歌が終わるのをもどかしく感じた。
「気持ちよく歌っている横で、そんなにざわついた気持ちにならないでよ。そんなに私の歌は楽しくないか?」
「い、いや、そうじゃないんだ……。君と、話したいんだ」
「私はここに来ると、必ず今の歌を歌うんだ。この場を、この森を鎮める清めの歌を」
言葉を聞いてアレックスはうつむいた。こんなところに連れてきておきながら話もせずにいる勝手に歌い始めたミーニャを恨めしく思っていた。しかし、彼女にとって歌うことが大事な儀式であることを感じ取ったからだ。
もう一度見上げるとミーニャはアレックスを見下ろしていた。だが、逆光で表情まで見えない。
「あんた、聞きたいことがいろいろあるんだろ? 答えられることなら答えるよ」
「待って。僕も横に行く」