第四十九話 逢瀬
『もてなし』は言葉通りだった。
森の中で採れるあらゆる木の実や果実を中心に饗応された。
「いや~新鮮なものを食べたのは久しぶりだったな」
スィンはつまようじで歯の間を掃除しながら腹を叩いた。
「旅が長いと、保存食ばかりとなるからな」
「僕はあの果実酒が忘れられないよ。どうにも気分がよくて」
「アレックスは飲みすぎだ。少し夜風に当たってきな」
「二人はどうするんだい」
「何、部屋に戻って続きさ」
そう言ってスィンは頂戴してきた酒瓶の数々をアレックスに見せた。
「スィン達こそ飲みすぎるなよ」
森の木々の間から月の光がわずかにさしていた。吹き抜ける風が火照る頬をなでて心地よい。
「木が高すぎて星が見えないのが残念だなぁ」
踏みしめる落ち葉のサクサクという音が小気味良く流れる。
「あれ?」
耳を澄ますと、足音が二つある。一つは当然自分。もう一つは誰?
「誰かいるの?」
闇に向かって問いかける。
「いや、後をつけたつもりはないんだ」
「娘さん……」
「ミーニャって名前があるんだ。そっちで呼んでよ」
「じゃぁ、ミーニャ。何でこんなところに?」
「この先に見晴らしがいいところがあるんだ。行ってみないか?」
アレックスの返事を聞くこともなくさっさと先へと歩み始めた。
「え、ちょっと待ってよ」
「まま、ヘルマン一杯」
「うむ」
「二人でゆっくり話すのも久しぶりだな」
「ああ、兵学校以来か?」
「だな……奥さんは元気か」
「ああ、もうそろそろ生まれる頃だ」
「おう、そうだったな。名前は決めているのか?」
「まだだ、男か女かもわからないからな」
「そういう時は両方用意しておくものだぜ」
「まるで経験者みたいな言い方するな」
「へへ、こちとら戦場で死ぬのが本望だから一生独り身よ」
「戦場な……剣は持たないのか?」
「もつぜ、戦場で必要ならな」
「惜しいな。兵学校卒業記念剣術大会では……」
「おっと、おれは後悔していないからな。優勝記念のサーベルはれっきとお前のものだぜ。今日も持ち主にふさわしい戦いだった」
「ふん。お前ならもっといい戦いをしただろうよ」
「それは買いかぶりすぎだ」
二人の夜は更けていく。