第四十八話 決着
「想念はそれを上回る想念によって上書きされる。それを証明してしんぜよう」
交差した剣と槍の競り合いでヘルマンは徐々に後ろへ押されながらもセーバーの目をじっと見据えた。
「う……!」
睨み合いの気迫はそのまま勝負の結果に結び付く。
「何が原因でヘルマンの動きが鈍ったかは分からないが、結果に変わりはなかったな」
スィンは野次の飛び交う闘技場の観客席を後にして、ヘルマンのもとに向かった。
「お、おい、スィン。勝手に一人で行くなよ。こんなところで一人にしないでよ」
あわてて後を追おうとしたアレックスはわきから出てきた影にぶつかった。
「あ! ご、ごめ……わわ! 大丈夫かい!?」
ぶつかった相手は非常に軽くアレックスの体格でも吹き飛ばしそうになって、あわててその体を抱きとめて支えた。
「あ、い、いや、あの、その」
「あれ? 先ほどの娘さん?」
顔を真っ赤にしている衝突相手をのぞき見ると、はたして森で襲ってきた娘だった。もう、倒れることはないと見るや、あわてて手を離して身構えた。
「あ、いや、その……あ、ありがとう」
「へ? いや、ど、どうも」
お互い視線を合わそうとせずにうつむいたまま言葉を紡いだ。
「君の仲間、強いんだな。セーバー兄ぃに勝てるなんて思わなかった」
「そ、そうなんだ。彼は僕よりずっと強いんだ」
「そうなのか? でも君の方が彼よりずっと偉いんだろ?」
「それはそうなんだけど」
「おい、アレックス何やって……うぉ!」
スィンがヘルマンを連れて戻ってくるや娘の姿に驚愕した。
「あ! 変態男!」
「いや、あの時は、ああするしか」
「うるさいうるさい!」
「ヘルマン! アレックス! 逃げようぜ」
くるりと身をひるがえすと、そこ立っていた森の民の中でもひときわ大きな男にぶつかった。
「勝利した皆さま方をもてなすようにとの長老からのお言葉です。ご案内いたします」
「あいててて、どうせぶつかるなら、可愛い女の子だとよかった」
鼻を抑えながらスィンはつぶやいた。