第四十六話 想念殺
「は! 今のは?」
セーバーは自分の首がつながっていることを確認した。槍も動かしていない。何もかもがヘルマンと対戦を始めたときと変わらなかった。
「見えたか……某が秘剣想念殺」
「秘剣想念殺……だと?」
はらはらしているアレックスとは裏腹にスィンはにやにやしていた。
「ほう、あのセーバーって奴もそれなりの熟練者ではあるわけか」
「どういうことだ?」
「その道の熟練者って奴は、次どのようなことが起きるか先を見越しながら行動する。ヘルマンはそれを逆手にとって、何をやっても最後は死ぬ、という結果を想像させるだけの剣気を出し続ける。これを想念殺という。相手が熟練者であればある程、効果が高い。見ろよ、あの男の額に浮かぶ汗を」
「まるで蛇に睨まれた蛙のようだ」
「そう、蛙も動けば蛇に食われることを想像できるから動けずにいる。セーバーがまさにその状態よ。槍で突こうが、横薙ぎに払おうが結果は同じ。最終的には相手が降参するって寸法さ」
「そうか、じゃぁ、ヘルマンが勝つんだな」
「あったりまえよ」
二人の会話が聞こえてか聞こえずか観客席は歓声からどよめきへと変わり始めていた。ヘルマンの腕がいいならセーバーと激しい打ち合いになり、興奮は最高潮に達する。そして最終的にはセーバーが打ち破り勝利に沸く。そう期待していたのにそれは裏切られた。一向に動きがない。最初は観客をじらしているのかと思ったが、セーバーの表情を見る限りそれは違う、ということが理解でき始めていた。
「どうした、動くといい。動くたびにそなたの首は胴から離れるが……」
「は!」
既に三度目の生還だった。これ以上は想像の出来事とはいえ、本当に精神の方が死ぬ、そうとしか思えなくなっていた。